天井のその向こうに
第1話 天井のその向こうに
人々は地下に居た。明日への希望も無く、ただただ死ぬのを待ちながら。2000年代で言う近未来風の地下都市もあれば、スラムの様な都市もあった。少女は後者で産まれた。スラムの様な法律がほとんど機能しない場所では犯罪など日常茶飯事。そんな場所で彼女は生まれた。孤児だったため正確な歳は分からないが、推定で16歳にもなった。
何故16年も生き延びれたのか彼女でも分かっていない。だが物心ついた時には既に働かされていたことだけは覚えている。最初は食料交換所で働いていたがそこを辞めさせられ、その後も色々な職場を転々としていた。
「今日もこれっぽっちか…」
パイプが縦横無尽に広がる薄暗い場所でパイプに寄りかかって呟いた。今にも消えそうなオレンジ色の光を発している電球がバチバチと点滅している。
そのオレンジ色の光が少女が手に持っているのは2枚の紙幣を照らす。その紙幣には1000という数字が描かれている。
今の物価ではパンが1個買えるぐらいの価値しかない。
「神様は不公平だな」
そう誰もが思うありきたりな言葉を吐く。生きる希望がないのは彼女も例外ではない。
「は〜あ。地上はどうなってるんだろう。こんな所に居るくらいなら地上で死んだ方がマシだよね。」
少女は溜息をつくきながらボソッと呟く。
昔からそう思わない日は無い。自分が何故こんな目に合わないといけないのか。せめて生まれる場所を決めれたら良いのにと考えるのは多くの人が抱える悩みであろう。
いつも通り、行きつけの食料交換所に足を運ぶ。そこの店主は40くらいの、スラムにしては少々太り気味なおばさん、もといお姉さんである。機嫌がいい時は食べ物を負けてくれるのだ。たしか10つの頃からお世話になっているため顔馴染みでもある。
「この時間帯ならイケるかな?」
少女は紙幣を右の上着の右ポケットに折り畳んみ綺麗にしまって歩き始めた。
カンカンと鉄製の地面を踏み続け約10分と言ったところか、少女は聞き慣れた声に呼び止められた。
「おい!あんた!」
先程のおばさんもといお姉さんである。
「何通り過ぎようとしてんのさ!」
「ごめんごめん。ちょっとボーッとしてて…」
彼女は誤魔化すように頭を掻きながら苦笑いをしてみせる。
「ったく。こんな場所でボーッと出来るなんて肝が据わってるよ。あんたは」
腕を組んで、ため息混じりに呆れ顔を見せてくる。この女は晴空という名だ。この「食料交換所ー青空」を経営している女性だ。
「んで?今日はいくらあるんだい?」
「これっぽっち」
ポケットから2枚の紙幣を取り出し手に持って見せる。
「8時間も女に力仕事させてこれっぽっちだよ?!おかしくない?!」
感情的になりながら晴空に抗議する。
「まあまあ、こんな世の中だ。仕方ないって割り切るしかないねぇ。」
と少女を宥めるように言う。シュンとした少女の顔を見て、溜息をつき仕方がなさそうに
「まあ、こんな世の中だからこそ助け合わないとね。」
と言い、袋にパンを3つほど詰めながら少女に手渡す。
「いつもありがと!」
満面の笑みを晴空に見せる。
「ちゃっかりしてるよ。あんたは。」
再び少女に呆れ顔を向ける。
「まあ、そんな事より。どうだい…。」
「結構です!」
晴空がいい切る前にキッパリと少女は拒否する。
「ちょ、まだ何にも言ってないだろ?」
晴空は困惑した表情になる。
「言わなくても分かる。看板娘の件は他を当たって下さい。」
「あら。あんた、私の頭ん中が見えるのかい?」
「毎日の如く口説かれてりゃ、言われなくても分かる。」
「あんたみたいな美人が立っとけば店も繁盛するんだけど…。」
「ああ、そうだ!聞きたいことあったんだ!」
少女はおもむろに話題を変える。晴空は少し戸惑いながら少女に訊ねる。
「地上はどうなってるかって?」
「違う。今回はそれじゃない。」
晴空は怪訝な表情を浮かべる。
「じゃあ何だってんだい?」
少女は片手で、小さなメガホンを作るようにして少し間を置いて、そっと晴空に言う。
「地上への行き方」
初めて「小説家になろう」に投稿しました。趣味で書いてます。絵とかも趣味で描いてます。元々はバスの中で「暇だし小説でも書くか〜」てな感じの軽いノリで書いたんですが、そこそこ続いたので投稿しました。
連載させていくつもりなので、読んで頂けると作者が喜んで踊り狂います。