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第2話 初めての獲物

翌日


空は灰色に染まっており、いつ雨が降ってもおかしくない状態だった。


「親父、狩りに出かけてくるよ」

「雨が降り出す前に帰ってくるんだぞ」

「ああ、大物を期待していてくれよな」

「あんまり無茶するなよ」


いつものようにお手製の槍を持って狩りに出かけた。



森に入ってしばらくして、ウサギを見つけた。

ウサギはこちらの存在に気づいておらず、草をせっせと食べている。


チャンスだ!


俺は草むらに身を隠しながら槍を構えてゆっくりと近づいて行った。

あともう少し、もう少しで槍が届く。


槍の届く範囲まで近づいた。


今だ!


俺はウサギに目掛けて槍を突き出したが、その瞬間


ギャヤヤャ!!!!!


今まで聞いたことのない生き物の雄たけびが山中に響き渡った。

その雄たけびはまるで悲鳴のようで、それに驚いたウサギは逃げ出し

俺は尻もちをついた。


「なんなんだ今のは!」


その鳴き声は、ウサギでも牛でもクマのものでもない。

嫌な予感がした。


「親父…!」


俺は家に向かって走り出した。

気付くと空からポツポツと雨が降り出していた。

地面が濡れているせいで何度も滑って転び、斜面を転げ落ちた。

泥と傷にまみれていたが、汚いとか痛いという事よりも親父の事で頭がいっぱいだった。


何とか家の前にたどり着いた。

気付くと雨は上がっており、雲の間からは月が見えていた。

家の前にはいつもとは違う光景が広がっていた。


家の前には見知らぬ若い人間の男が3人いた。

彼らは楽しそうに火を囲み、大きな肉の塊を焼いて食べていた。


そして—————







彼らのすぐそばに巨大なドラゴンの骨が転がっていた。


「—————‼」


俺は恐怖のあまり尻もちをついた。

そして、その物音に3人のうちの1人が気付いた。


「誰だ‼」


俺はすぐさま逃げようとしたが足が生まれたての小鹿のように震えて身動きが取れなかった。

俺が見つかるのに時間はかからなかった。


「子供!?」


松明を持ち、バンダナをかぶった男が俺を見るなりそう叫んだ。


「おい、子供がいるぞ!」

「馬鹿言うな。こんな山奥に人なんて…ほんとだ」


バンダナ男の後ろから兜をかぶった大柄の男が近づいてきた。

そして、その男は俺を抱きかかえて火のそばまで俺を運んだ。


「どうした?こんな山奥で迷子か?麓の村の子供か?うん?」

「おいおい、その子供怖がってるじゃねえか、早く降ろしてやれ」

「おお、すまんすまん」


そういうと兜の男はリーダー格らしき剣士の男の言うとおり、俺を火のそばに降ろした。


「初めまして、俺の名前はリダ、そこのデカブツはマッシャーで、そっちのバンダナ男はヴァンって言うんだ。

よろしくな。ところで、君の名前は?」

「…」


剣士の男は優しく微笑みながら俺に話しかけてきた。

だが、親父に対して行った所業を想像すると、その優しい微笑みがかえって恐ろしく見えた。

俺は声を上げることすらできないほど震え上がっていた。


「もしかして喋れないのか?参ったな。これじゃ何処の村に連れて行けばいいかわからねぇな」

「ボウズ、腹減ってねぇか?ちょうど肉が焼けてんだ」


そういうと兜の男は()()()()()()()を俺に差し出した。

俺は震えながら首を横に振った。


「こいつはこんな見た目だが結構いいやつなんだ。あんまり怖がらなくていいから。」


俺は絞り出すように声を出した。


「どうして…殺したの…」

「お!喋れるのか!よかった!」

「どうして…食べる…ため…?」

「ドラゴンの事か?まさか!わざわざ食べる為だけに危険なドラゴンを相手にしようとは思わねぇよ。」

「だったら…どうして…」


恐怖で震えながら俺は親父を殺した理由を聞いた。

そして剣士の男から帰ってきた言葉は—————


「どうしてって…竜狩人(ドラゴンスレイヤー)の称号が欲しかったからさ」

竜狩人(ドラゴンスレイヤー)…?」


俺は彼らの言っている意味が理解できなかった。

バンダナ男は続けてこう言った。


「リダのやつ、ドラゴン狩りで有名なゲオルギウス卿に憧れていてな。ゲオルギウス卿と同じ竜狩人(ドラゴンスレイヤー)の称号が欲しくってあちこち旅しながらドラゴン狩りをしてるんだ」

「もっとも、ゲオルギウス卿は一人で数十匹のドラゴンを狩ったって噂だ。3人がかりでやっと1匹狩れるようじゃまだまだだ。」

「もっと実戦経験を積まねえとなぁ」


生きるために生き物を殺し食べる…それは俺や親父もしてきたことだ。

仮にそういう理由で親父が殺されたのなら、

心で理解できなくとも頭では理解できただろう。

でも彼らは違う。

名声が欲しい…ただそれだけのために親父は殺された。


恐怖で震えていた俺だったが、いつのまにか怒りで震えていた。


「今日はさすがに疲れたぜ。早めに寝て明日の朝、下山しよう」

「大丈夫だボウズ、ちゃんとお家まで送ってやるからな」


そういうと男たちは親父との戦いとその後の宴での疲れからか

数分もしないうちに泥のように眠っていた。


その姿は草を貪る野ウサギよりも無防備で物音を立てても起きる気配がなさそうだった。

火のそばには肉を切るのに使ったであろう鋭利なナイフが無造作に置かれていた。


俺はそのナイフを手に取り、剣士の男に近づき口を押さえながら首元にナイフを突き立てた。


「—————————!?」


俺は何度も男にナイフを突き立てた。

男は声も上げることができずにそのまま息絶えた。

そして、同じように兜の男、バンダナ男にもナイフを突き立てた。



この日、俺は初めて獣を——————

しかも3匹狩ることに成功した。

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