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四章 全ての黒幕



 今、私は研究室のなかにいる。先程と同じような方法で監視を片付けて中にはいると、まるで本のなかで見た水族館の水槽のように、ガラスの中に青い霧がたくさん入っていた。私の目の前には訳のわからないパネルがある。多分これで、実験をするのであろう。


「多分、これがさっきの『mist of the end』だと思う。これを培養して、世界に撒かれたら本当に世界に終焉が訪れちゃうと思う。だから、まだ数が少ないうちにとっとと消さないといけない…」


「といっても、どうやって消すの?」


「それはね…ちょっと僕がここの操作をするからどいてもらってもいい?」


「わかった。」


 私はとりあえずKの後ろに下がると、Kは目の前にあったパネルを触り始めた。もともと拉致されていたとはいえ、研究員の一員だったからだろうか?数分後、その青い霧はどんどん色が消えていって、無透明になった。


「これで、大丈夫なはず。緊急事態様に、その薬を無効にするための用意はできているんだ。それで作るためのレシピは、僕が簡単にまとめたものしかないから、もう一度作るにも時間はかかるだろうし世界滅亡にはかなり遠退いたと思うよ。」


「それならよかったけど…もしも、レシピを覚えている人間がいたらどうするの?」


「大丈夫、これを覚えられる人間はいないはずだから。」


 そういって、何枚ものの紙を渡してきた。それを見ると、訳のわからない薬品の名前や調合方法が書いてあった。これを覚えている人間がいたら、それこそ天才である。


「んじゃ、一回自分の家に戻る?これでしばらくは大丈夫だろうし。」


「…そういえば、今何時?私は特別区の学生寮に住んでるから朝までには帰りたいんだけど…」


 すっかり忘れていたけど私ははやく戻らないと結衣に心配されるし、鬼ババにまた怒られる可能性がある。


「まだ、学生さんなんだね。それじゃあそろそろ戻らないと。とりあえず危ないだろうから寮の近くまで送るよ。」


「ありがとうそれじゃ…」


 といいかけて、扉の方を見た瞬間に絶句した。そこには、私と同じくらいの少女がたっていたのだ。その少女に光が差してくると、私はさらに言葉を失った。その姿は私の親友、結衣だったからだ。


「結衣!なんでここにいるの?」


「え…知り合い?」


 Kは驚いたような顔で呟いた。


「あらら…まさかここに二人ともいるなんてね…」


 まるで、私たちがここにいることを知っているかのような口振り。しかも、いつもの優しい表情ではなく氷のように冷たい表情。けど、その口元は笑っていた。


「結衣、あなたはなんでここにいるの?」


 怖くなって、もう一度結衣に問いただすと彼女は狂ったように笑いだした。


「うっふふふ…あははは!ようやく…ようやくよぉ。お姉ちゃん、まっててね。今すぐにでも…」


 ようやく?一体何をいっているのかはわからないけど、彼女が正気でないのはよくわかる。頭のなかで、警戒の信号が強く光っていた。


「…天音、お前だけでも一回外に逃げろ。」


「え?でも…」


「良いから!」


 強い声と強い勢いに押されて、私は走り出していた。結衣の横をうまくすり抜けて、追いかけられているのを感じながら無我夢中になって走っていた。さっきとおった道を反対に通って、素早く走り抜ける。もう、疲れたなんていってられない。とにかく、全速力で私は走った。


 秘密の通路を通って外に出て、トーキョーと私たちがすまう特別区を分ける鉄線のところまで来た。もうすでに、先程までの追ってもいなくなっている。


「はぁ…はぁ…そういえば…Kは?」


 さっき、突き飛ばされたきりKの姿は見当たらなかった。もしかして、まだあそこにいるのだろうか?それならはやく助けにいかねばならない。そう思い一回戻ろうとした瞬間に、私の携帯から振動が起こった。


「え…結衣から電話がかかってきた?」


 もしかしたら、このまま知らないふりをしてすぐに戻って先生に報告すれば警察などが動いて、少なくとも自分の安全は確保できるんじゃないかと思った。だが、私を助けてくれたKが取り残されているかも知れない。あの赤い霧の時のように人間をなんとも思っていないあの組織に。私は、少し悩んだ末に電話に出ることにした。


「も、もしもし結衣?」


「あ、天音!1回で出てきてくれてよかったよ。出てこなかったら説明ができなかったしね。」


 いつも通りの結衣の声。けど、今日は心なしかいつもはない冷淡さを持っている気がした。


「そーいえば、天音にはなーんもいってなかったけど、私はこの組織、月の夜の一番偉い存在なの。だからね、今ここにいるNo.3jne君…Kといったかしら?この子を今すぐにでも殺してって言えば×できる立場なんだよ。」


「ね、ねぇ。なんで結衣はこんなことをするの?こんなことをしたって誰もなにも得なんかしないじゃない。赤い霧なんてものをどうして世界に放っちゃったの?いつからそんなにおかしかったの?」


「いつからって?ずっと前からよ。それに私はおかしくなってなんかいないわ。貧民街で、盗賊の奴らにお姉ちゃんを×されてから、私は必死に復讐する方法を探してきたわ。そしてね、あの方に教えてもらったの。この腐った世界はもういらない。こんな世界はとっとと壊してしまえばいいってね」


 結衣も昔、兄弟を失っていたんだ…けど、こんな考えは間違っている。私はおにいちゃんをなくしたって必死に今まで生きてきた。確かに嫌だとか思ったこともあったけど、こんな考えにはならなかったし思ったこともなかった。


「でもねぇ、さっき侵入したネズミに最後の希望を壊されちゃったの。だけど、もっと素晴らしい素材が手に入りそうだから満足だわ。ううん、だってこのために天音に噂を流したんだから。最高の素材が手にはいるのは決まっていたことなのよ。」


 もっと素晴らしい素材…なんだか嫌な予感がする。背中に一筋の冷や汗が走った。


「それは天音、君のことだよ。天音は知らないだろうけどね、天音の一族の女性にはたくさんの力が宿ってるの。その力を使えば、赤い霧…ううん、『mist of the end』よりも素晴らしいものが出来上がるわ。そこでなんだけど、このNo.3jneを解放してあげる代わりに、天音…あなたにはこっちに来てもらいたいの。それが嫌なら私とNo.3jneは死ぬわ。この施設内にたくさん爆弾をしかけたの。ま、あとは二人で話し合ってちょうだい。」


 いっさい曇りのない声…純粋な声に突きつけられる厳しい選択。自分と世界か、それともKの命か。普通なら前者を選ぶのが得策と考えるだろう。だって、前者の選択をするなら自分の命だけではない、世界を救えるのだ。だけど、私はもうすでに後者の選択を選ぼうとしていた。


「今から嘘つくんだけどさぁ、今右手がヤバイんだよ。『mist of the end』の最後の実験体として殺されそうなんだ。」


「どうしてそんなことに…場所はどこなの⁉早く教えて」


 はやくいかないと、本当に結衣によりKが殺されてしまう。そんなのは絶対に嫌だ。


「研究所の一番奥にある実験室だ。だが、お前だけは絶対に来るな。」


「なんでよ!私がいけばKを助けられるんでしょ?」


「いいから来るな!これが俺が…兄として最期にお前にやってあげられることだから。」


「あ…に…おにいちゃんなの!?」


 おにいちゃん…、ずっと前になくなってたと思っていた私の兄弟がK?いやいやいや、そんなのあり得ないだっておにいちゃんは赤い霧のせいで死んじゃったって…でもKは表沙汰には死んだことになっているって。それに、Kって名前。おにいちゃんの名前は海…だけど読み方を変えればカイ。それをローマ字にすると…KAI 。


 考えれば考えるほどKがおにいちゃんであるということを裏付けるものがたくさん出てくる。どうして…私に教えてくれなかったの?


「今まで黙っててごめんな、天音。どうしても俺はお前に俺のことを忘れて幸せになってほしかった。」


「そんなのいいから!絶対に生きて私のところに戻ってきて!もうお父さんもお母さんもいなくなっちゃったけど、もう一度二人で暮らそうよ。お願いだから…」


 お母さんも、お父さんももう死んでしまっている。だからこそ、唯一の肉親であるおにいちゃんと一緒に暮らしたい。もう覚えていないほど遠い昔に一緒に暮らしていたおにいちゃんと。けど、現実は残酷なもので次に聞こえたのは悲痛な声であった。


「くそっ!奴ら、片手に爆弾を持っていやがる!もうすでに希望が途絶えたから心中しようってか!?」


「今向かってるからそれまで耐えて!後なん分くらいで爆発するの?…このままじゃあ間に合わない!」


 急げ、私。おにいちゃんを助けるために、はやく、ハヤク走るのだ。


「もういいんだ、天音。最期に…言い残したいことがある。さっきもってるのがちらっと見えた懐中時計は世界が終焉するまでの時間がかかれているんだ。その時計の針は、人間の行動によって前後したりするときがある。もし、ここで俺とこいつが心中しても時間が変わらなかったら最後まであがいてくれ。そして、俺が死んでも、妹であるお前だけは絶対に生きてくれ…そして、いつか、ちゃんと幸せになってくれよな。」


「まって、まだ死なないで…おにいちゃ~ん!!」


「あ~あ、そっちの選択をとっちゃったか。残念だね、それじゃあさよならだ。」


 結衣の声の後に遠くに、何かが爆発した音が聞こえた。違う、あれはきっと違う、違うんだ。そう思った瞬間にケータイに一つの通知が来た。結衣から…ううん、おにいちゃんからだ。


[お前の兄でよかった。願わくば、来世でも兄弟としていられまs]


 途切れたメッセージを見ながら、私はおかしくなったかのように笑い続けた。涙がながれてるのも気にせずに。時々嗚咽を漏らしながら、声がかれるまで。トーキョーには、見事な朝日が差しこんでいた。

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