三章 資料室にて
今私はあのKが言っていた組織とやらに潜入している。潜入経路については、元々Kが逃げてきたときに使った道を、そのままもう一度使ったらしい。なんか秘密の抜け道見たいなやつで、組織に半ば強制的に協力させられていたとき同僚のから聞いたんだって。どうしてその同僚がその道を知っていたのかは知らないが、そこは気が付かなかった不利をするのが懸命だろう。
「ねぇ、天音。そういえば幽霊の噂って一体どんなのだったの?」
コツン、コツンと私たちの歩く音しか聞こえない…緊張感しかないこの状況に不釣り合いなほど楽しそうな声で私に尋ねてきた。正直なところ、もう少し危機感をもっていただきたい。こんなところで気が緩んで、後ろとかから来た敵に攻撃されたらおしまいだ。
「ね~え~なんで答えないの~?」
「…ごめん、ちょっと考え事してた。それで、幽霊の噂だっけ?なんか私の前に忍び込んだ子が、青色のパーカーを着た男の子を見たとからしいよ。」
考え事と言う、とても便利な言葉で理由を濁して伝えた。本音をそのままぶつけると、なんかかわいそうだしね。そして、噂話についてはこれだけしか情報はなかったと思う。よく考えると、どうしてこんな嘘くさい噂話で私はこんなところまで来てしまったのかは、今考えると相当なぞだ。
私が頭のなかでそんな独り言を呟いていると、Kはやっぱりこの場所とは不釣り合いな声で言った。
「あ、ごめん。それ僕だわ。青いパーカーなら持ってるし今来てないけどよく来てる。」
まじかよ…これで、私がここにきた理由である幽霊のなぞが解けちゃったじゃあないか。やっぱり幽霊は居なかったんだね。でも、もしもなにも知らない私がここで青いパーカーをきた人間を見たら幽霊と勘違いしてしまいそうだ。だって、自分以外の人間はここにはいないはずの場所に誰か知らない、顔を見たこともない人間がいれば、幽霊と勘違いしてしまってもおかしくないだろう。
「まさか、僕のことが噂されていたなんてね~僕ってもしかして有名人⁉」
こころなしか嬉しそうな表情でこっちを見てくるK。だが、私はそんな彼とは対称的に、冷めきった目でKの方を見た。
「寒い冗談は要らないから。しかも、真相知ってるの今は私だけだから実質Kを知ってるのは私だけだよ」
「そっかぁ、残念。まあその話はそれとして、ようやく目的のところについたよ。」
いきなり話の展開を180度変えたKは、【資料室】とかかれた看板を指差した。
「一応、ここにいたときに情報収集はしていたからある程度のことは知ってるんだけど、もう一度確認したいことがあってね。まあ、確認が終わり次第、この資料室は燃やすつもりでいるよ。この中の素材は燃えにくい素材でできているらしく、なかも密閉空間になってるらしいから完全に扉を閉めれば少なくとも火が燃え広がるまでの時間は伸ばせそうだし。」
しれっと、サイコパス発言をするK。この資料室を燃やすってどんな発想をしたらそうなるんだろうか。
「そんなに深刻そうな顔しなくてもいいよ。冗談だからさ。」
それはよかった…と思ってもう一度Kの顔を見ると、さっきよりも悪質な笑顔を浮かべていった。
「大丈夫、燃やすのは資料だけだから。」
「大丈夫じゃないでしょ!もし部屋に引火したら大変なことになるよ。」
「…ちょっと静かにしててもらってもいい?」
このままの流れでバカな話が続くと思っていたのに、いきなり真剣な声色に変わったKにビックリして私はおもわずに聞き返してしまった。
「え?」
「いいから。」
喋らなくなると、コツ、コツという靴が地面とぶつかるおとが聞こえた。もしかして、この組織の人間?それじゃあ逃げないと不味いんじゃないか、と思いKの方を見たが、なんだか余裕そうな表情をしている。なにか考えがあるのだろうか?
「さ、中に入ろうか。」
さっきよりもちょっと大きく、さらにのんきな声でKは資料室の反対にある休憩室に入ろうとしていた。その訳のわからない奇行を止めるために、声をかけようとしたら
「話を会わせて」
と、耳打ちされた。仕方なく、私はKについていき休憩室に入ろうとしたその時、組織の人間がこっちを指差して言った。
「お前ら、そこで何をしている!今すぐに止めててをあげろ!」
ほら、言わんこっちゃない。この状況をどうやって打開する?
「こっちきて」
するとKは私の手を掴んで、休憩室に入った。中は、一つのテーブルとイスが真ん中に配置されている。
バカなの?こんなとこ、隠れられる場所もないし、すぐに捕まるよ。と思った直後に、その組織の人間が中に入り込んできて、まさに私たちはふくろのなかのネズミ状態になった。
「はっはっは、バカだな。自分からこんなところに逃げ込むなんて。すぐに捕まえてやるから待ってろ。」
もう余裕だと感じたのか、死亡フラグをたてる敵さん。小説とかだと、こういうやつが真っ先に死ぬよね。大体、名前もついていないモブA的な立ち位置のやつだね。
状況だけ見ればかなりのピンチのはずなのだが、頭の中は完全に落ち着いていた。ピンチの時って普通あせるはずなんだけど、こんなときでもどうでもいいことを考えられるって、自分は一体どんな神経をしているのだろうか?そう、自分で自分を突っ込んでいると、Kはもう一度私の手を握ってこう叫んだ。
「走って!」
その瞬間、Kに手を引かれながら私は訳もわからずに走り出していた。テーブルの部分を一周する感じで、敵を上手くまいてから、Kは何かをその部屋におとして、扉を閉めた。
「ふぅ、これでよしと。」
何が起こったのかわからずに私が呆然としていると、Kはさっきのおちゃらけた声色で説明してくれた。
「さっきおとしたの催涙弾の睡眠薬バージョンっていうのかな?まあ、睡眠ガスを出してくれるとてもべんりな兵器なんだよね。昔、拉致されてたときに何個か楠ねといたのが今役に立った。」
うへぇ…つまり、睡眠ガスをあいつらに吸わせて意識をシャットダウンさせるっていう作戦だったのか。というか、そんな便利なものがあるなら先にいってほしかった。
「それじゃ、そろそろガスが引いた頃だろうし、一回中に入ろうか」
「なんで?」
「資料室に入るにはカードキーが必要だからね。昔は持ってたけど、逃げ出しちゃったから多分無効になってるだろうし、新しいのがほしかったんだ。忘れ物は現地調達ってね。」
もしかして、Kの一連の行動はここまで繋がっていたのだろうか?この人はバカそうに見えて以外に賢い人種なのかもしれない。そのままもう一度とびらをあけて、職員のポケットの中からカードキーを拝借して、宝物を見つけた子供のように喜んでいる姿を見ると、そうは思えないけどね。
「よし!これで資料室に入れるぞ」
「それじゃ、とっととその調べものをしちゃおう。私も早く帰りたいし。」
「うん。」
そういって、なれたてつきでカードキーを滑らせて部屋のロックを解除するK。がちゃり、と音を立ててロックが解除されたことを確認すると、扉のとってを引いてなかに入った。なかには、思った以上に色々な資料がおいてあってそれは綺麗に本棚に整理されていた。
「調べたいことはね、赤い霧についてとその制作者についてなんだ。それを、君に探してほしいんだけど、いい?」
「制作者…ね。わかった、それじゃあ探しとくね。」
「うん、頼んだ」
ということで、私は赤い霧の制作者についての記述がある本を探すことにした。本棚を適当に見回して、どんなことが書いてあるか、題名だけ見る。
「あ、あった。これかな?」
そこには赤い霧についての研究日誌とかかれている。ちょっと飛ばし飛ばしに読んでみよう。
───
一日目
今日、組織の上位の人間に新しい生物兵器を作れという命令を下された。正直、従いたくないけど従わないと俺が×されてしまうんだ。将来的にこの兵器の犠牲になる方には申し訳無い。組織の人間の注文はこうだ。
・たくさんの人間を×せること。
・なるべく広い範囲に広がりやすいもの。
・長い時間、効力を発揮するもの。
つまり、何かのウイルスでも作れといっているのだろう。そんな簡単に作れるものじゃないし、時間はかかりそうだけどなるべく早く完成させないと首が飛びそうだ…。
───
十日目
研究をはじめてはや十日、色々なことがわかってきた。どんな毒薬や病気よりも恐ろしいものは、人間の怨念であることを。まあ、簡単にいってしまえば呪いみたいなものだ。この組織の極秘情報である、ひとの呪いについての研究成果を利用すれば、恐ろしい兵器を作れるかもしれないが…せめて、私が生きている合間に完成しないことを願う。
──
五十日目
時間が過ぎるのはあっという間だ。もうすでに、この実験をはじめてから五十日もたったのだ。今日は人の呪いを増幅させて、それを気体化させる実験をした。被験者に特殊な機械を頭につけて、頭のなかにむりやり吐き出してしまうほどおぞましい映像を写した。それを止めたり、またつけたりして、その人間が狂気に染まった頃にその機械で人工的な負の感情を増幅させた。
するとその人間は死んでしまったが、その人間の死体に流れていた血等を採血して、解析してみたところ、信じられないほどの毒素が発生していることに気がついた。これは科学じゃあ証明できないほどの原理のもと作られていて、原因は不明だったが組織の人間は喜んでいた。
───
五十一日目
昨日採取した血とおなじものをさらに増産して、今度はその液体を気体にするという実験が行われたらしい。らしいというのは、今日はめずらしく組織の人間が休暇をくれたので、部屋で休んでいたからだ。因みに、あとから聞いた話ではあるが、その実験は大成功して、その気体はそのまんま赤い霧と名付けられたらしい。
───
七十日目
この世界は赤い霧に包まれた。もうすでにたくさんの人間が死んでいて、大変なことになっているらしい。ああ、私があんな少女の姿をした悪魔にいわれて‘霧’を産み出さなければこんな惨状にはならなかったのに。心のなかで深く悔やんでも、悔やみきれない。俺は、一体何をしているのだろうか?こんなにたくさんの人間を×しておいて、のうのうと生きているだなんて。もう、俺にいきる意味なんてないんだ。最期に、ここに一言だけ残して自決することを決めた。
赤い霧で死んでいってしまった皆さま、ごめんなさい。俺はこの命を落としとしてでも、罪を償おうと思います。さようなら
───
おっふ、内容が思った以上にエグい。それに、少女の姿をした悪魔って誰のことだろうか…もしかして、実験の責任者とか?私は何かが逆流しそうになるのを押さえながら無言でKにその日誌を渡した。
「何々、見つかったの?」
コクり、と頷いてKがその中身をパラパラと覗いたのを見ると、私はそっと目を反らした。数分後、もう一度Kの方を見ると、やはりはきそうな顔をしたKがそこにはいた。
「やっぱり、この日誌精神的に来る何かがあるよね。大丈夫?」
「な、なんとか大丈夫だよ。それで僕の方で調べられたのはこの本なんだけど、とりあえず開いてあるページだけでも読んでみて。」
そういって、一冊の本を渡してくるK。この本の名前は…『mist of the end』。とりあえずなかを見てみよう。
───
mist of the endについて
これは、我が組織が開発した世界を本当に終わらせるためのものである。前回、世界にはなった赤い霧みたいな欠陥品とは違い、この汚れきった世界に救済をもたらせる素晴らしいものだ。まだ、試験段階のものしか作れていないが、もしこれを完成させられたら素晴らしい世界が作り上げられるだろう。いつか完成したその日には、世界に本物の終焉をもたらせる。その意味を込めて、この霧の名前は『mist of the end』…日本語訳で終焉の霧という名前をつけた。
───
つまり、この組織は赤い霧だけじゃあものたりなくて、新たな×人兵器を作り出したってこと?しかも、死ぬことを救済って表している時点で、この組織の人間は頭が狂っているのかと思ってしまった。まあ確かに、人間だけが滅びるのであれば地球環境も良くなるし、まあまあ理解できる(だからといって滅んでほしいといっているわけではないが)。
けど、人間も含めたすべての生物を×してしまうのであれば、また話は変わってくるだろう。そんな人間のエゴなんかに巻き込まれる動物植物がかわいそうだ。
「これもこれで相当考えがサイコパスだね。というかもうすでに試作品ができてるなら相当不味いんじゃないの?」
「そうなんだよなぁ…正直な話、今すぐにでも開発部に凸って止める気持ちなんだけど、僕の浅知恵でできるかな?」
「大丈夫じゃなかったら大問題だよ…私はまだ死にたくないからよろしくね。」
「わかったよ、それじゃ、とっとと研究室に向かうか!」
ということでKは先程の宣言通り『mist of the end』 に関係する全ての本を笑顔で燃やした後、相手の本拠地とも言える研究室の方へ向かうこととなってしまった。絶対に×しないように気を付けないとな…