二章 ひそかな冒険、不思議な出会い
学校が終わり、私は学校の寮の一人部屋で休んでいた。私の部屋は、周りには沢山の本が積み上げられていて、そのなかには教科書の類いも混じっている。つまり、私は物を整頓するのが苦手なのだ。
因みに今は、なんとなく読書の気分だったので適当に引っ張ってきた本を読んでいる。その本の名前はmusic forest。精霊使いや錬金術師の子が喋る黒猫と共に冒険の話だ。
適当に文字をおってそれ以外のことをなにも考えないようにしながら本を読み進めていたが、なんか途中で集中できなくてすぐに投げ出してしまった。理由は単純、さっき優衣に聞いた幽霊の話が頭のなかで引っ掛かり続けているからだ。
いつもだったら、そんなくだらない幽霊話なんて信じるどころか普通にバカにして終わりなはずだ。けど、今日は何故か、他人事には思えなくて自分の中の誰かが早くトーキョーの方に行けと言っている。
「今の時間は…大体八時くらいか。」
この寮は結構監視が甘いから抜け出そうと思えば簡単に抜け出せると、卒業していった先輩は言っていた。けど、私自身はそんなことをしたことはないし、そもそもなんで自分が抜け出すことを前提に考えているのかも理解できない。ただ、心のなかにははっきりとトーキョーに行ってその噂の真相を確かめたいという気持ちだけが残っていた。
「よし!行ってみるか。」
小型のバックのなかに、学校で支給されているスマートフォンと小さな水筒。それと、肌身離さず持っているお兄ちゃんの形見である懐中時計をいれて、寮の外に出ることにした。
出る方法は確か…
①正面突破(監視がいないところをすり抜ける)
②窓から外に出る(因みに私は三階だ)
とかだったはず。まず、②は確実にないだろう。だって、三階から飛び降りたら下手すれば死に至る可能性もあるし、常人ならそんなことはしない。まあ、一番安全なのは確実に①だろうな。ということで、私は音をたてずに部屋のドアを開けて外に出ることにした。
幸いにも、外に監視はいなかった。そのまま足音を抹殺して、こっそりと寮を抜け出す。すると、ものの数分で、私は外に出ることができた。それにしても出入り口に監視カメラもなければ、監視の人間もいないとか一体どのような仕組みにしているのだろうか。無駄に厳しい門限とかもあるのに、意味がないじゃないか。ずぼらである。
「まあ、今日はそのずぼらさに救われたんだけどね…」
一つ言葉をこぼして、私はトーキョーの方へと進んだ。歩を進める度に大ききなるビル。きっと赤い霧が出る前は、凄く明るくて綺麗なところだったんだなぁと思う。だって、あんなに大きな建物がたくさん並んでいたんだよ。今の世の中じゃ想像もできないほどだったんだろうな。
そんなことを考えながら私はふらふら歩く。辺りを見ても、周りには全然人がいない。ここら辺の地区は学園にかよう生徒のための特別地区だから、人はいない。しかも、本来なら門限であるはずの時間を越えている。もしいるとしても、政府の地下施設で育てられていた猫位だろう。
そんなことを考えていると、すぐにトーキョーと特別地区を分けるフェンスのところまでついてしまった。因みにフェンスは電気線がついていることは愚か、特に高いわけでもなく、初等科の子でも運動神経がよければ簡単に越えられてしまうほどお粗末なものだった。
私はそれをひょいと飛び越えて、トーキョーの中に侵入した。すると、さっきまで心の中にあった軽い空気は一瞬にして重苦しい背徳的な気持ちになった。本来ならいけない時間、来てはいけない場所に私はいるのだ。ああ、さっき部屋にいたときよりもワクワクしてきた。ということで、私はその興奮を落ち着けるために辺りを軽く探索してみることにした。
数分歩いていると、ひんやりと冷たい空気が私の肌を触る。半袖だとやっぱ寒いかも。上着を着てくればよかったなぁ…と多少後悔しながらどんどん歩を進める。気がつけばさっきまで見えていた学園の姿は見えなくなり、周りにはボロボロな廃ビルがそびえ立っているだけであった。よくよく考えると、ここにいることが見つかったら確実に怒られるし、私は今誰もいないところで一人ぼっち。そう考えるとちょっと怖くなってくる。
「はぁ…私は何をやっているんだろう。」
急に我にかえって考えてみると、こんなところに来る利点なんてないし、自分の好奇心を押さえればよかっただけの話じゃあないか。幽霊なんて居なかった、どうせ私の前に忍び込んだ人も猫とみまちがえてしまったのだろう、と頭のなかで結論付けて、私は来た道を引き返すことにした。
少し青くなった心を切り捨てて、どんどん戻っていく。気がつけば、さっきまで見えなかった学園の姿が見えるようになり、早く帰ろうと足を速めたその時…
「おい、そこの少女。止まりなさい」
不意に、後ろから声が聞こえた。もももも…もしかして幽霊?と思って後ろを振り替えると警察がいた。なんだ…警察かと一瞬思ったがここで警察に捕まると後でこってり怒られることになる。そのことを瞬時に悟った私の頭は即座に足を早く動かせと命令してきた。
「ごめんなさい~!!」
「あ、まて!」
そう叫んで走り出す私を追う警察。一回巻いてから帰らないとな…とりあえず、そこら辺にたくさんある裏路地に飛び込もう。勢いに身を任せて、狭い裏路地へと入っていった。訳もわからないまま、永遠と続く道を走り抜ける。気がつけば、もう諦めてくれたのか警察の姿はなかった。
逃げ切れたのだ。よかったよ…ということで、切れた息を一回落ち着かせて、異様なほどに乾いている喉を潤すために私はバックのなかに入っていた水筒の中身を少し口に含んだ。ふぅ、ようやくいっかいおちつける。
そう思ってへなへなと座り込むと、改めて自分が何をしているのかわからなくなった。興味本意で禁止区域に入り込んで、警察に見つかって捕まりそうになる。こんなバカなことをしなければ、今頃寮でくつろいでいたんだけどなぁ。
ちょっとここに来たことを後悔しながら、ちょびちょび水筒を飲んでいるとまた足音が聞こえてきた。不味い、もしかしてさっきの警察がこっちに来たのかな?そう思って体を起こして逃げようとしても、恐怖で体がすくんでしまい思うように動かない。どんどんと大きくなってくる足音。私はぎゅっと目をつぶり、怒られることを覚悟したその時…私の目の前には一人の青年がたっていた。
「ん?こんなところに人がいるなんて珍しいな。お前、この辺りの人間か?名前は?」
格好を見るに警察じゃない?けど、みすぼらしい身なりをした青年の目には警戒の色が浮かんでいた。これは返答を間違えるととんでもないことになりそうだ。
「わ、私は天音っていいます。学園に通っているただの生徒です。今日は友達から幽霊の噂を聞いて、興味本意でここに来ました。」
すると、その青年はさっきの警戒の色からは想像もつかないほどの笑顔で笑って話した。
「そっか、僕の名前はK。ある目的があって、この辺りにすんでいる者だよ。それで、なんでそんなに君は息を切らしているの?」
…正直、話すのは恥ずかしいけどここで期限を損ねて殴り×されるとかいうBADENDだけは絶対に避けないといけない(偏見だけどここにわざわざ来るやつはヤバイのしかいないと思う。当然、私を含めて)。ということで、私は警察に追われていることを素直にKに話した。
「そっかぁ。じゃあ、君はもう組織の奴らにここにいること、バレているんだね。」
心なしか残念そうな顔でそう言葉を呟くK。バレている?組織の奴ら?一体この人は何を言っているの?もしかして小説を読みすぎて頭がおかしくなってしまった人間なの?
「そんなにおかしな顔をしないでほしいな。これは、少なからずこれから君も関わらなきゃいけない話だ。ちょっといきなりかもしれないけど僕のお話聞いて?」
さっきのおちゃらけた表情じゃなく真剣な顔になるK。この人さっきからコロコロ表情が変わって面白いな。とりあえず、話だけでも聞いてみようと首をたてにふった。この話し方だと、話を聞かなかったせいで死ぬ死亡フラグが立っちゃってるし。
「ありがとう、それじゃあ君は赤い霧って知ってる?」
「知ってるもなにも、知らない人はいないでしょ。だってその赤い霧のせいで…お兄ちゃんがいなくなっちゃんだから。」
私が心なしか暗い声でいうと、Kは申し訳なさそうな声色でいった。
「ごめん、辛い記憶があるならそれは謝る。それで、この辺りにはその赤い霧を発生させた組織の根倉があるんだ。僕も、大切な家族と離ればなれになってしまってね。ずっと昔に、その組織に誘拐されたんだ。もう×んだことになっていると思う」
誘拐されて、×んだことになっているって…そんな設定小説の世界でしか見たことがない。でも、もしかしたらお兄ちゃんも同じような状況になっていてまだそこで助けを求めているとかない…よね。だって、お兄ちゃんはずっと前に×しちゃってるんだから。
「ゆ、誘拐⁉」
そんなことより、私は誘拐とか言うパワーワードに反応してついつい大きな声を出してしまった。だって、仕方ないじゃん。いきなり目の前の人間が僕は赤い霧を発生させた組織に誘拐されました~何て言ったら驚いてしまうだろう。
「し、大きな声を出したら奴らに気がつかれちゃう。もうちょっと小さな声で」
「ごめんなさい…それで、今はなんでここにいるの?」
「それは勿論、その組織…月ノ夜を壊滅させるためさ。奴らが生きている限り、不幸な死を遂げるやつは一向に減らない。それでなんだけど、君、僕に協力してくれないかい?」
「どうしてよ!それって、命の危険があるんじゃないの?」
話は聞くっていったけど、協力する気はさらさらない。だって、もし協力したら×しちゃう可能性があるんでしょ?絶対に嫌だよ。
「うーん、確かにそうかもしれないけど…君、今から帰った方が危険だよ?」
いやいやいや、普通に考えてついていった方が危険でしょ。だって、危険な組織に潜入するんだよ。月ノ夜だかなんだか知らないけど、私は危ないのは嫌だ。早く帰りたいの。
だが、むしろ私の焦り具合を楽しむような表情のKは、貧乏な身なりの癖に妙にさらさらな髪を撫でながら言った。
「そういえば、さっき警察みたいなのに追いかけられたっていってたよね」
いきなり話を変えるK。ああ、これはフラグがたちそうな予感がする。
「そうだけど…なんでなんでそんなことを今聞くの?」
恐る恐るKに尋ねると、彼はちょっと哀れそうなこえで言った。
「だって、組織の情報を少なからず持っている人間をあいつらが生かしておくわけがないじゃん。君、殺されるよ。警察のかっこうした組織の人間に。」
えぇ~‼さっきの人間警察じゃなかったの?そんな危ない組織の人間ならまだ警察の方がましだったし…死にたくないよ。どうしよう、どうしよう、こんなところこなければよかった。完全に凍った背筋を無駄にピーンと伸ばしながら、私はKに質問をする。
「それって、どうやったら助かれるの?もしかして…手遅れ?」
すると、Kはにこっと笑って言った。まるでこれが計算通りとでも言わんばかりの笑顔で。
「大丈夫だよ。ぼくについてきてくれたら、最低限の安全は保証してあげる。」
「ついていきます!生きますからどうか命だけは。」
確実に死ぬ方と、生きて帰れる可能性がある方なら、確実に後者を選択しておいた方が身のためだろう。
「わかった、それじゃあ今から乗り込むよ。ちょうど仲間がほしかったんだぁ。よかった」
「今からか。ああ、こんなところ来なければよかったなぁ」
「まあまあ、僕と巡り会えたんだから別にいいでしょ?」
「良くないの!」
とにかく面倒ごとに巻き込まれてしまった私は、ここに来たことを後悔しながらあるきだしたKのあとを追うのであった。ああ、本当に生きて帰れればいいな。