一章 いつも通りの日常、なにも変わらない生活
広く広く晴れ渡った大空の下。私はお昼休憩の時間、友達である優衣とともに学園の中庭で談笑していた。私の名前は、天音。この政府が管理する学園に通っている高等科の二年生だ。
平均的な身長で、学力もそこそこ。だが、運動神経がなくてスポーツは全然出来ない。まあ、どこにでもいる普通の人間である。
人とちょっと違うこと言えば、小さい時にこの世界に突如表れた‘赤い霧’と呼ばれる科学汚染された物質。そのせいで兄…海兄さんを亡くしていることだけだ。
正直、兄に関してはほとんど何も覚えていないけど、兄の形見とも言えるひとつの壊れた懐中時計を持っている。これは、14歳の誕生日の日に父さんから渡されたものであり、声も姿も覚えていない兄との唯一の繋がりである。
けど、この懐中時計はなにかがおかしいのだ。たまに、なにもいじっていないのの時間が進んでいたりとか、逆に戻っていたり。といっても特に弊害はないため放置しているが、どうして時計が進んだりしているのかは普通に疑問だ。因みに、今は十一時五十分を指している。
「ねぇ天音、聞いてるの?」
結衣がむすーっとした顔でこっちを見てきた。それでも、結衣は顔が整っているからとても可愛いと思ってしまうのが悔しいところだ。
「ごめんごめん、ちょっと考え事しててさ…」
「考え事ってなによ。もしかして、まーたえっちなこと考えてたの?」
「違うわよ‼私を結衣と一緒にしないで。そーいう妄想を良くしているのは結衣でしょ?」
「ふっふっふ、結衣さんはそういう知識もたくさん持ってるからね。」
はぁ…このまま否定すると、興味のない(気持ち悪い)知識を披露されるのが目に見えてきたので、私は適当に手を叩きながら結衣を褒めることにした。
「流石変態結衣さま、恐れ入ります。」
「むぅ、私は変態じゃないもん。ただ人より沢山の知識を持ってるだけだもん。」
「はいはい。それで、なんの話をしていたの?」
これ以上会話が汚くなるのは嫌なので、話をそらすことにした。すると、結衣は腰にてを当てて、よくぞ聞いてくれたとかテンプレな台詞を言い、ちょっと間をあけてこう言った。
「天音は、元都心部に現れる幽霊の噂を知ってる?」
元都心部…トーキョーのことかな?私は行ったことないけれど、高いビルや車等が沢山ある場所らしい。赤い霧が現れるまではたくさん人が住んでいたらしいけど、もうビルや建物はボロボロになっていて、誰も住めないし、そもそも危ないから立ち入り禁止なはずだ。
「なんで立ち入り禁止のところに幽霊が出るなんて噂がたっているのよ…そこに関する詳細頂戴。」
「んーっとね、なんか元都心部のトーキョーに忍び込んだこがいたらしいよ。私たちが今住んでいるこの学園から、すぐに行けるしね。」
確かにこの学園からトーキョーまでの距離は近い。というかここも、もともとあんな感じのビルが立ち並んでいたらしいけど、政府が一回更地にして私たちみたいにあまり教育が受けられなかった子供が教育を受けられるようにしてくれたのだ(高校生まで)。
「とにかくその忍び込んだこが、青色のパーカーを着た男の子を見たらしいんだ。おかしいよね、誰もいないはずなのに。」
残念ながら、私は幽霊だとかお化けだとかオカルトな類いのものを信じていない。それに対して、結衣は色々なオカルト情報を好んで収集しており、幽霊は本当にいると信じ込んでしまっているメルヘンな頭の持ち主だ。
「どうせ、同じように忍び込んだやつとかじゃないの?同じようなことを考える人なんていっぱいいるでしょ。」
私が現実を突きつけると結衣はまたむすーっとした顔でこっちを見てきた。
「えー、やっぱり天音は夢がないなぁ。ちょっとくらい信じてみればいいのに。そうだ!一緒にトーキョーに行かない?」
「やだ!絶対に嫌。」
「ちぇー、釣れないな。それじゃ、そろそろ教室にいこ?次の授業はあの鬼ババの授業だよ。」
懐中時計とはべつの時計で時間を確認すると、もうすでにお昼休憩が終わる三分前だった。
「やば!急がないとじゃん。」
「いっそげ~!」
「あ、待ってよ!」
私は走り出してしまった結衣を慌てて追いかけたが、私はもともと足が遅いので追い付けるわけもない。そのまま授業に遅れて、鬼ババに怒られたのは言うまでもなかった。
それにしても、トーキョーに現れる謎の幽霊か。本当に存在するとは思っていないけど、ちょっとだけ気になる。もしかしたら、その幽霊が亡くなったお兄ちゃんだったりして…まあ、そんなことはないとおもうけど観光がてらに行ってみようかな?そんなくだらないことを考えながら、私は鬼ババの授業を受けるのであった。