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皆さん、お久しぶりです……

 ナケアとルピナを無効化したリリーが、白く染まったレイピアの刃先をエリカに向ける。


「ナケアさんが自身に害のあるもの以外防げないのはぁ、昨日の事件で把握していました~」


「ふむ、適切な判断だな。確かに、今の攻撃がナケア達に害を与えるものだったなら、ナケアの意思に関係なくナケアの自己防衛が働いただろう。まさか、一瞬でナケアとルピナが無効化されるとは思わなかった」


 リリーの言葉にグロウは頷くが、その間にもグロウの体は自身の霊剣の呪いによって蝕まれて行っている。過去に使用した【浸喰剣フェリーレン】とは明らかに呪いの浸食速度が速くなっており、後数分もしない内にグロウは呪いに蝕まれて退場してしまうと言うのに、グロウはニヤリとリリーに向けて笑みを浮かべた。


「だが、詰めが甘かったな」


「妾は最初から巻き込まれただけなんじゃが、まあ忘れられっぱなしと言うのも気分が悪いのう!」


 リリーがグロウの言葉を怪訝そうに眉を顰め聞いていると、足元から黒い毛に覆われた小さな九尾の子狐が跳び出した。

 今まで召喚はされていたが、殆ど出番の無かったタマモだ。


【神術:狐火[銀]】


 タマモがリリーの目の前に跳び出した直後、タマモの周囲に銀色に輝く火の玉が現れリリーに迫って行った。


 流石に至近距離で放たれた狐火は予想外だったのか、タマモの狐火を碌にガードすることも出来ずリリーへ狐火が直撃する。


 体勢の崩れたリリーに向けて、すかさずエリカが剣を構えて斬りかかった。タマモの攻撃によって出来た隙を、エリカが的確について行く。タマモとエリカを相手にするのはリリーでも簡単ではない。少し焦った様子で、リリーはエリカ達の攻撃を対処していた。


「これは、トレーフルちゃんの結界まで貫いちゃいますかぁ。これはトレーフルちゃん達には頑張ってもらうしかありませんねぇ」


「タマモはルピナの召喚獣で魔物としても高位の存在だ。昔は俺でも手を焼いた」


 トレーフルの【守護の殻(プロテクトシェル)】は、自身の能力も高いうえに、身に纏っているあの装備の効果なのか更に強力な能力となっている。


 しかし、魔物の中では最高位に近い力を持つタマモの攻撃を防ぐには至らなかった様だ。グロウは今まで存在を忘れかけていたが、まああれもルピナの召喚獣である事だしルール違反にはならないだろうと、今度はクライヴと合流したトレーフルの下へ向かった。


「先程、ルピナさんが私に掛けられたトレーフル様の防御を破って攻撃してきましたが、なるほど。あれはあの子狐さんの攻撃でしたか」


「ルピナはまだ戦闘にも慣れていないし詠唱しなければ高位の魔法を使えない。お前相手には良いハンデだろ?」


「買いかぶり過ぎですよ。ルピナさんだけでも荷が重いのに、ナケアさんまでいたんですから。少しは私にもハンデをくれても良いんじゃないですかね?」


 軽口を言い合うも、二人は隙を見せる事無くお互いの出方を伺う。

 やがて二人の間に沈黙が流れた瞬間、グロウの足元に木の根の様な物が生えてきた。


「っ!? これはトレーフルの武器か」


 グロウは即座に足元に生える木の根を切り裂き、クライヴへと距離を詰める。


「お前たちは二対一だ。これで充分ハンデになるだろう?」


「全然釣り合ってない気もするんですが!?」


 刀身に触れるだけであらゆるものを消失してしまうグロウの霊剣が、残像を幾つも残すほどの速さで四方八方からクライヴに襲い掛かる。

 クライヴから見れば、まるで幾つもの剣が同時に斬りかかってくるように見えていることだろう。


 クライヴは防御不可能と判断して、一瞬の内にグロウの背後へ転移する。


「グロウさん相手に加減は不要! 私も魔剣の力を使わせてもらいます!」


【魔剣:ゾディアク】


 クライヴの持つ剣が一瞬だけ金色の光に包まれ、魔剣の柄からは黒い鱗を持った蛇が出現した。一瞬でクライヴの姿を見失ったグロウも、魔剣の変化を感じ取って警戒の色を強める。


【占星術:炎火纏う白羊(ハマルベリエ)】


 そして背を向けるグロウに向けて、クライヴは白く燃え盛る毛皮を持つ羊を纏った刺突を放った。


「ほう、俺の体に傷を付けるとはな。良い技だ」


「なっ!? 魔剣の炎を掻き消した!?」


 クライヴの目が驚愕に見開かれる。

 何故なら、クライヴの攻撃は間違いなく背後からグロウに直撃していた。

 だと言うのに、クライヴの刺突はグロウの身体に直撃する寸前、纏っていた火炎がまるで蝋燭に灯る火を吹き消すようにあっさりと掻き消され、結局グロウの肩を薄く掠めて多少の傷を負わせただけだったからだ。


 驚愕に目を見開いているクライヴに向けて、グロウはニヤリと楽しそうに笑みを浮かべ反撃することなく口を開いた。


「俺の種族を忘れたのか? 俺はありとあらゆる炎を司る『火炎龍』だ。魔剣だろうが何であろうが、俺に火属性の攻撃は無意味だぞ?」


 そう言うと、グロウは無造作にクライヴに向けて剣を振るった。

 霊剣から溢れる炎が、先程クライヴの放った炎火纏う白羊(ハマルベリエ)以上の熱量を纏ってクライヴへ迫る。


「くっ!?」


 自身の攻撃を防がれて驚愕していたクライヴは、その攻撃への対処が一瞬遅れてしまい脇腹を霊剣の炎が掠め、苦悶の声を上げた。それでも何とか攻撃が直撃する前にトレーフルの隣に転移する。


「トレーフル様、申し訳ありません。私の力ではグロウさんを止めることは出来そうにありませんね……」


「その様ですね。それに、リリーさんがエリカさん達に止められるとは思いませんでした。グロウさん達の報告は確認していましたが、想像以上ですね……」


 騎士の二人がグロウと距離を取り話している間に、グロウは霊剣を構えて刺突の構えを取っていた。その様子を見ていた二人は、それぞれ自身の持つ武器に魔力を込めて何時でも攻撃に対処できるように構える。その気迫は、両者ともとてもただの模擬戦をしているようには見えない。


「まさか、この時代に俺とここまで戦える奴がいるとは思っていなかった。お前たちの実力は、俺の知る過去の冒険者の中でも上位に位置すると言っても良い。だからこそ、今の俺がどこまで強くなったのか試すことが出来る」


「それは光栄ですね。昨日は失態を犯しましたがこれでも私たちはこの国に如何なる敵が攻めてこようと、どれだけ強力な魔物が暴れようとこの国を守り抜き、討ち滅ぼす最強の盾であり剣とも謳われるシルト騎士団」


「この時代の最強を冠する私たちが、そう簡単に負けるわけにはいきません。それが例え、正真正銘最強の生物が相手だとしてもです! クライヴ君、私に合わせてください!」


 クライヴに指示を出したトレーフルは、クライヴの反応を確認するより早く自身の持つ大盾を地面に突き立てた。


【魔盾:世界樹の落ち葉(イグフイユ)】


 地面に突き立てられたトレーフルの盾から、埋め込まれた宝石を中心にまるで葉脈のような模様が浮き出てくる。そして盾全体に模様が浮き出ると、今度は盾が眩い緑色の光を放ち始めた。


『世界樹を害すことは何物にも叶わず。主に降りかかる厄災は、落ち葉と共に流れ往く。世界樹の与えし役目を果たせ――』


【聖盾術:落葉の使命(フイユリューロ)】


 トレーフルの詠唱が終わると同時に、グロウは一息で距離を詰めて自身の持つ霊剣に全てを滅ぼす炎を纏わせ突きを放つ。


 どんなに頑丈な盾であろうと、どんなに優れた技術であろうと、グロウの持つ霊剣の攻撃を阻むことなどできはしない。それが分かっていても自分の前に立ち塞がるのなら何かあるのだろうと、グロウは期待に胸を膨らませて霊剣に宿る魔力を解放した。


【魔剣技:滅炎の龍牙】


 滅する炎で作られた龍が、トレーフルを喰らわんと至近距離から顎を開く。飲み込まれれば一瞬にして跡形もなく滅せられる筈のその攻撃は、しかしトレーフルの目の前で不自然に軌道を変えトレーフルの背後へ逸れて行った。


 しかし完全には受け流すことが出来なかった様で、トレーフルは自身の右半身を炎で焼かれガクリと膝をつく。数秒後には、トレーフルを構成している魔力が尽きて退場するだろう。トレーフルは悔しそうに歯を食いしばりながらも、直ぐにフッと力を抜いて微笑みを浮かべた。


「私の盾でも、ほんの少し軌道をずらすだけで精一杯ですか。でも、最低限仕事は出来ましたね」


 まさか正面から打ち破られるとは思わず、更に想定外の軌道を描いた刺突の動きも相まってグロウの体勢が僅かに崩れる。


 相手が常人ならば隙を突かれる前に反撃まで移れる程度の僅かな誤差。しかしその程度の僅かな隙でも、予めトレーフルが隙を作ってくれると信じて技を準備していたクライヴがグロウに反撃される前に一撃を放つには、十分過ぎる隙となっていた。


【占星術:激流泳ぐ双魚(アルペルグポワン)】


 体勢の崩れているグロウの背後から、クライヴが転移して膨大な水流と共に左右から鋭い斬撃が放たれる。

 霊剣を振る前に、グロウは成すすべなく激流に飲み込まれた。


「ハァ、ハァ……火属性には対極に位置する水属性の攻撃が一番効果的です。グロウさんでも流石に少しは効いたんじゃないですか?」


 大技を短い間隔で二度放ったことで疲労困憊と言った様子のクライヴが、グロウの生存を確信している口調で語りかけてくる。


 その期待に応えるように、未だ渦巻く激流の中から赤色と黒色の混じり合った炎が噴き上がり激流を散らした。


「世界樹の盾にリリーの持っていた魔剣。その二つは上級ダンジョン『世界樹の若木』で手に入る装備品だな? 俺も昔、魔剣の素材を採りに行ったことがある」


 最早炎の渦と化した斬撃の中、グロウは悠々と炎を分けてクライヴの前へ姿を現す。身体には掠り傷が数か所ついていたが、その歩みには一切の乱れは無い。自身の放てる最大級の攻撃を直撃させても、殆どダメージを受けた様子の無いグロウを見て、クライヴは思わず苦笑を浮かべた。


「トレーフル様と協力してもこの程度のダメージしか与えられないなんて、自身を無くしてしまいそうですよ……」


「安心しろ。俺の身体に傷を付けた奴はそういない。お前たちは十分強者だぞ」


 グロウがそこまで言うと、元々魔力が少なく力を使い切ったクライヴがガクリと膝をつく。そのすぐ後ろでは、トレーフルの身体を構成している魔力がとうとう尽きて退場する姿が見えた。


 大技を使い魔力の大半を使ったクライヴも、間もなく退場することだろう。魔剣は魔剣事態にある程度魔力を込める事ができ、何時でも込めた魔力を引き出すことが出来るが、大技を何度も放てるほど大量の魔力を込めることのできる魔剣はそう無い。


 それでも自身の魔力を使い無理してまで大技を出したのだ。更に度重なる転移も、魔力枯渇の原因であろう。そしてそれだけの事をしても、グロウに掠り傷を付ける事しか出来ない。


「そう言っていただけるのは嬉しいですが、如何やら私たちはこれまで最強の騎士団ともてはやされ、慢心していたようです。やれやれ、これは明日から今の訓練メニューを変更する必要がありそうですね」


「それは、次の機会が楽しみだ」


 お互いにまだまだ戦意の漲る鋭い視線を飛ばし合いその数秒後、クライヴは身体を構成している魔力が尽きてトレーフルの後を追い、戦場から退場して行った。


「そろそろエリカの方も終わるころか。今回の演習は予想以上に楽しめた。次はエリカに上級ダンジョンを攻略させて、装備を充実させてから戦わせてみるか。騎士団に俺の魔道具を幾つか提供するのも面白い」


 一つの死闘が終わった直後だと言うのに、既にグロウの頭の中では次の演習の予定が組み立てられていく。


 世界最強の生物であるドラゴンになって約百年、人間の時でもグロウと戦える人間や魔物はあまりいなかったと言うのに、ドラゴンになってしまっては尚更だ。ただ腕を振るうだけでも、多くの生物にとってそれは必殺の一撃となってしまう。


 その為、ドラゴンになってから今までグロウはまともに動き、戦闘することが極端に少なかった。並み大抵の生物では、戦闘となる前に死んでしまうから。


 現在は本来の姿とは力の出力も違う人間の姿とは言え、ここまで動いたのはまだ魔王だった時のルピナと戦った時以来。いや、あの時もそもそも殺す気で挑むことはしなかった為死んでも問題ない《仮想戦場》内とは言え、死闘となるまで本気で戦った経験は本当に少ない。


 百年のブランクがある人間の体による戦闘に慣れると言う意味でも、大変有意義な時間だったと言えるだろう。


 霊剣をアイテムボックスにしまい、呪いによって浸食され殆ど使い物にならなくなった右手を肩より少し下の位置で切り取る。属性龍にとって自身の身体は魔力で作られたただの器であり、実は腕を切り落とそうが直ぐに魔力によって生成することが出来るのだ。


 と言っても、かなり魔力を消費してしまうのでリリーの魔剣によって魔力を封印されている今、腕を生やすことは出来ないのだが、霊剣の呪いは霊剣を手放しても進行するのでこうしないとグロウも後数分で退場してしまうだろう。


 それに治療はナケアに頼んだ方が、属性龍の力も加わるので消費魔力をかなり抑えられる。そもそそ《仮想戦場》から出れば、この腕は勝手に元に戻ることになるので気にする必要は無い。


 そうしてグロウは、戦闘によって地面が所々消え去ったこの場を後にして、エリカ達の戦っているであろう場所に視線を向ける。


 その瞬間、グロウの顔から一瞬にして血の気が引いて行った。


「あっ、最悪だ――」


 グロウの視線の先には、予(・)想(・)通(・)り(・)リリーの魔剣がエリカの胸から背中にかけて貫いている光景の他に、


 目を見開いてその光景を見て激しく動揺し、身体が白銀の光に包まれて行くナケアの姿があった――

一月は、学校の卒業制作に就活に引っ越しの準備にと、色々忙しくて中々時間が取れず投稿できなくて済みませんでした(´;ω;`)

そして多分二月も投稿頻度はあんまり早く無いと思います。

それでも出来る限り頑張って行きますので、同かこれからも応援よろしくお願いします!

ブックマーク、評価もどうかよろしくお願いします!

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[一言] 更新お疲れ様です 『次回グロウ死す!』
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