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9 弟子が出来た

 二つに分かれた魔物の体から魔素が抜けて行く。この魔素を取り込む事で自分のMPも増やすことが出来るのだが、消えるのも早い為倒した本人しか吸収できない。そしてグロウは既にMPは十分持っているので、魔素は取り込まれること無く霧散した。


 身体が魔素で構成されている魔物は、絶命すれば魔素が抜けるので、その身体の中でも特に魔素の濃かった場所以外が消えてなくなる。


 魔物が居た場所には既に魔物の死骸は無く、そこには魔物の牙と黒い毛皮、そして魔晶石が残されていた。


「Cランクの魔物にしては残った方だな」


 グロウは持っていた大剣を消して魔物の素材を確認する。骨や牙は魔素が多く含まれることが多いので残りやすいのだが、毛皮は結構希少だ。黒く変色する程魔素を吸収した毛皮は、防具に使えば良い素材となるだろう。


「うん? この魔晶石、随分と小さいな……」


 残った素材の中で出てきた魔晶石は随分と小さく、形が大きく歪んでいたが、これ以上魔晶石は要らないので問題は無い。グロウは魔物の素材を回収して、エリカ達の元へ向かった。


「これで街は大丈夫だろ」


「あ、その、ありがとうございます……!」


 もしグロウ達がこの場にいなければ、この街の戦力であの魔物を撃退することは出来なかった。この街が滅びていたかもしれない可能性がエリカの頭を過ぎり、戦闘が終わった安堵感と合わさって、エリカは涙を流しながら二人に深く頭を下げる。


 だが、そんなエリカにグロウは厳しい視線を向けた。


「それは良いんだがな、エリカ、お前は弱いんだ。後先考えずに突っ込んで無駄死にしていれば、お前の評価は今ギルドで流れていた噂と同様、無謀にも魔物に挑んで何もできずに死んだ、マヌケな冒険者になっていたんだぞ!」


「お兄ちゃん……っ!?」


 ナケアが初めてみるグロウの本気の怒りに驚いて、エリカの隣に蹲る。それでもグロウは構うことなく、エリカへ説教を続けた。


「でも……私はどうしてもこの街を守りたくて……」


「お前が行ってもこの街の未来は変わらなかった。あの時お前が取るべき行動は、俺たちに助けを求めることだけだ。弱い奴は何も守る事なんて出来ない」


「……っ!?」


 グロウは語気をより一層強めてエリカに言う。この言葉は、過去にグロウが尊敬する師匠に言われた言葉だった。


「弱い奴の行きつく先は、強者の糧か、仲間の枷だけだ」


 ここで心が折れれば、エリカを危険から遠ざけることが出来る。二度と先走って、危険な事をしない様に、グロウはわざと低く冷たい声でエリカへ言葉を投げかけた。


「…………」


 エリカは俯いたまま喋らない。残酷な事を言っている自覚はあるが、全て事実だ。弱い奴には何もできない。だからこそグロウは己を鍛えて強くなり、世界最強とまで言われるに至ったのだから。


 数分が経過し、エリカは俯いたままだったので、グロウは踵を返してギルドに向かおうと歩き始める。事後処理など、ギルドにはやることが沢山出来た事だろう。魔物が討伐されたところは数人の冒険者が見ているので伝わっているだろうが、証拠を見せるまではギルドも迂闊に動けない筈だ。


「グロウさんっ!」


 グロウが数歩進んだところで、エリカは覚悟を決めたように顔を上げた。その顔に絶望の感情は無く、ただ決意のみが浮かんでいる。


 その決意がどれほどの物か、過去同じ道を通ったグロウはエリカの方を振り返らずに、少し口端を上げて立ち止まった。


「私に、戦い方を教えて頂けませんか!」


「俺は厳しいぞ?」


「この街が守れるのなら、私はどんな事でもやります! だから、お願いします!」


 エリカが後ろで頭を下げる気配が伝わってくる。それにこの街の冒険者の使った魔法(?)を見てどうにかしたいと思っていたグロウは、元々誰かに魔法を教えておきたいと考えていた。だが、教える人間は良く選ばなければ、魔法を悪用されたり、暴走させたりしてしまうかもしれない。


 その点、エリカなら魔法を悪用することは間違いなく無いと断言できる。まだ出会って数日の関係だが、エリカの人柄の良さは良く分かったからだ。ナケアの遊び相手にもなってくれるし、これ程都合の良い人材もいない。


 是非エリカに魔法を教えたかったが、それでも本人の意思や、そもそも心優しいエリカは、生き物を傷付ける魔法を教わりたくないと言う可能性もある。その確認が色々回りくどくなってしまい、口下手にも程があるだろと苦笑しながら、確認を終えたグロウは決まっていた文句を口にした。


「良いだろう! 俺の持てる全ての知識を教えて、エリカを人類最強の魔法剣士にしてやる!」


 結局、何かを成すためには成すに足る力を持たなければならない。そして覚悟を決めた人間は強くなれる。


 グロウはドラゴンに生まれ変わって初めて、駆け出し冒険者の弟子が出来た――



 ◇



 魔物を討伐してから数分後、グロウ達はギルドにそのことを報告すべく、ギルドへと帰っていた。腰の抜けた魔術師の男を背負いながら、グロウはギルドの扉を開ける。すると、ギルドの中にいた全ての人間がグロウ達を見て静まり返った。


「エリカ、討伐証明はどの窓口だ?」


「えっと確か、素材の買い取り以外はどの窓口でも良い筈ですよ?」


 全員が注目している事に気付かずに、グロウ達はギルドの受付へ歩いて行く。グロウは視線を感じる事は気付いていても、最初に入った時も同じように視線を感じていたので気にしていなかった。


 途中で腰を抜かした魔術師のパーティーと言う者達に魔術師の男を預けると、受付に見知った顔があったので、グロウ達はその受付に歩み寄る。最初にグロウ達の対応をしてくれたナタリアだ。


 人間、何も知らない人よりも、ほんの少しでも知っている人の方が話しかけやすいと言う物だ。まあ、グロウとナケアの二人はドラゴンだが。


「魔物の討伐をしたので処理をお願いしたいんだが」


「……っ!? はっ、はい! ではここに魔物の素材をお願いします……!」


 グロウは受付の上に魔物の牙と毛皮、魔晶石を取り出して置く。すると、ナタリアは目を見開いて魔物の素材を見つめていた。


「えーと、取り合えず査定させて頂きますね……少々お待ちください」


 そう言うとナタリアは、受付の奥から大きな魔動具を持ってきた。持ってきた魔動具の中に、魔物の魔晶石を乗せる。そして魔動具を起動すると、内部の魔力が増幅された感覚と共に魔力が魔晶石を通り抜けた。


 魔動具に取り付けられていた水晶版の中に、恐らく素材の査定結果が映し出されるのだろう。表示された文字を覗き込んだナタリアは、その姿勢のまま笑顔で固まってしまった。


「どうしたんだ?」


「はっ! 失礼しました! 表示された内蔵魔力量が、確かに天災級の魔物と同程度だったので……その、この魔物は本当に皆さんで討伐したんですか?」


「天災級かどうかは良く分からんが、魔物を討伐したのは俺だ」


 ナタリアは信じられない者でも見るような目で、グロウの顔を呆然と見上げる。そしてため息を吐くと、とても良い笑顔を浮かべて言った。


「訳が分かりません!」


「いやそんな事言われても……」


「対応できる者を連れて参りますので、少々お待ち下さい!」


 逃げる様にギルドの一室へ向かったナタリアの後ろ姿を眺め、グロウは何か起きたのかと首を傾げる。数分後、ナタリアが入った部屋の中がやけに騒がしくなったと思ったら急に静まり返り、部屋の中からナタリアと、このギルド内にいるどの冒険者よりも屈強な筋肉の鎧を身に着けた男が出てきた。


 凡そ人間とは思えない熊の様な体躯をした男を見て、ナケアとエリカは揃って震えあがっている。


「君たちが魔物を討伐したと言う冒険者か?」


「そうだが、あんたは?」


 グロウがそう答えると、出てきた男はその強面の顔に良く似合う豪快な笑みを浮かべて笑った。


「ガハハッ! いや天災級の魔物が出現したと聞いて頭を抱えていた所だったが、良くやってくれた! 俺はこのギルドの支部長をやってるリックだ。よろしくな!」


 リックはその太い腕を三人の前に差し出して、ニカッと口角を上げる。


「グロウだ」


「ナケアだよ!」


「えっ、エリカですっ!」


 三人はリックの手を取って握手を交わすと、簡潔に名乗った。ナケアはもう慣れたのか、元気よく名乗っていたが、エリカは未だにガクガク震えている。


「さて、ここだと話し辛い事もあるからな。場所を変えても良いか?」


「ああ、構わん」


 リックは先程出てきた部屋に向かって歩き出したので、三人もそれに続く。部屋の中は真ん中に机と革張りのソファーが置かれており、壁に取り付けられた棚には何かの資料がぎっしりと詰まっていた。先程まで書類仕事でもしていたのか、積み上がった書類が机の上に乱雑に置かれている。


「ここは俺の執務室兼応接室だ。外にここの会話は聞こえないから、安心してくれて良い」


 何を安心すれば良いのか分からないが、グロウ達は取り合えず促されるままに机の前のソファーに座った。その対面にリックが座り、先程の笑顔とは違い真剣な表情を浮かべて話始める。


「単刀直入に聞くが、グロウ君、そしてナケアちゃん、君達は()()()()()()()()()?」


 リックは不敵な笑みを顔に浮かべ、驚愕している二人の顔を面白そうに眺めていた。

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