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82 再び王都へ 

今回はちょっと短いです。スマン<(_ _)>

 生徒たちがダンジョンを攻略して一ヶ月、グロウ達がギルドの依頼で勤めている魔法学校の生徒たちは、いつもとは違いそわそわと落ち着きのない様子でこの日の授業を受けていた。


「このように同一視されがちだが、聖術と治癒魔法は根本的に違う魔法であり、治癒魔法は聖属性でも出来るが火属性や水属性の魔力が主に使われている。聖術は聖属性の魔力が使われており、呪いや毒を治すことが出来――」


「ゲイリー、あと何分だ?」


「……ニ十分ってところだろう」


 グロウが黒板に何やら文字を書いている隙に、トニーがゲイリーに時間を確認する。この街には、魔力時計と呼ばれる時間を測る事の出来る魔道具が、中央広場にある時計塔と学校の玄関、そしてこの地を治める領主の屋敷にしかない。

 それでも日の高さを見れば凡その時間が分かるので不便では無いが、一般人が正確な時間を知りたければ、基本的に時計塔を見に行かなければならないのだ。


 しかしゲイリーは、自身の魔法【風読み】で周囲の状況を知ることが出来る。学校の玄関にある時計の針まで正確に読み取るなど中々に高等技術であるのだが、ゲイリーは難無くこなして見せた。


「治癒魔法は体の構造を知り、治るまでの過程をイメージ出来れば飛躍的に効果を高めることが出来る。今度から治癒魔法を使う時は、その傷口がどのように塞がって行くのか良く見て見ると良い」


 キーンコーンカーンコーン


 学校に備え付けられている魔時計から、授業の終了を告げる鐘の音が聞こえてくる。


 すると、学校のあちこちから嬉しそうな声が聞こえてきた。


「おっと、もう終わりの時間か。そう言えば、今学期の授業は今日で終わりだったな」


「「「「「夏休みだー!」」」」」


 グロウの教室からも、生徒たちの嬉しそうな声が響き渡った。教師としては、生徒にここまで休みを喜ばれるのは微妙な気分になるのだが、グロウも気持ちは分かるので何も言えない。


「全員休みとは言え、問題などは起こさない様に普段から注意しろよ?」


「分かってるよ! 俺たちは明日から村に帰るんだ! とーちゃんたちに俺たちがどの位成長したのか見せてやるぜ!」


「ああ、お前たちは全員同じ村出身だったな。確か、セルゲンレイクの南に広がる森の中にある村だったか?」


 実はこのクラスに通っている生徒たちは、全員同じ村出身だった。セルゲンレイクの南には、グロウとナケアの故郷である山脈に囲まれた森もある。

 出身地を聞いた時は、自分たちの住んでいた場所から意外と近い場所に生徒たちの実家があったと知って驚いたものだ。


「そうだぜ! 俺たちの村はここから結構遠いし、帰るには危ない森を通んないといけないから滅多に帰れないけど、この夏休みだけはとーちゃんが迎えに来てくれることになったんだ!」


「トニーのお父さんは狩人で、弓の名手なんですよ!」


「ここに来る前は、自分より大きな熊を一撃で仕留めてたよね~」


 セルゲンレイクを囲む森の中は、街の周りは冒険者ギルドの冒険者が定期的に魔物や野生動物を討伐しているので危険な動物はあまりいないのだが、奥に行けば強力な魔物も生息しているらしい。


 そんな森の中で村を維持しようとすれば、当然それなりの戦力が必要となってくる。村を維持するだけでも、強力な魔物の徘徊する中では難しい。その為森の中で確認されている村は、今の所生徒たちの実家がある村しかないようだ。


「そうなのか。それは一度是非お会いしてみたいものだな」


「それでも、グロウ先生とは比べもんになんねーよ?」


 グロウと比べられるトニーのお父さんが可哀想だとエリカは密かに思ったが、口に出す事は無かった。

 魔法や単純な戦闘技術なら、グロウに匹敵するどころか、比べられる者すらいるか怪しい。しかし、他の武器の技術だけなら、グロウでも到達していない域にいる者も多かろう。グロウはまだ見ぬ達人の技を見たい衝動に駆られるも、この休みには既に予定が入っているので、トニー達の村に行くのは泣く泣く断念した。


「俺たちは、この休みは王都にいる。それでも何かあれば、この【通話】の巻物(スクロール)を使ってすぐに呼べ」


「またサラッととんでもない物を……」


 呆れた表情を浮かべた生徒たちは、しかしこの数ヶ月で大分グロウの行動に慣れたらしく、グロウの取り出した巻物(スクロール)を受け取る。


「それじゃあ全員、楽しく夏休みを過ごすように。休み明けに皆の元気な姿を見れる事に期待するぞ」


「皆さん、休み明けに会えるのを楽しみにしていますね! 私がそれまで生きているか微妙ですが……」


「シュティーちゃん、帰ってきたらまた遊ぼうね!」


「……ばいばい」


 授業が終わると、生徒たちはグロウ達に手を振って嬉しそうに教室を出て行く。教室内が静かになり、少し寂しそうにナケアとルピナが顔を俯かせた。

 その為、グロウとエリカは努めて明るく二人を励ますように声をかける。


「さて、そろそろ王都に観光に行くか。前回は余りゆっくり見る時間が無かったからな」


「ナケアちゃんもルピナちゃんも、王都にはユーナさんもいますしソフィアちゃんとも会えますよ」


「あ、そっか! ユーナとソフィアちゃんに会える! ルーちゃん、楽しみだね!」


「そふぃあ、たのしみ」


 魔王城攻略の際に助けた冒険者パーティーの聖術士であるユーナと、今代の聖女であるソフィアはナケア達の数少ない王都での知り合いだ。


 ルピナはユーナの事は知らないが、ソフィアとは仲が良かった。ナケアもルピナも、そしてエリカも二人に会えると聞いて嬉しそうに顔を輝かせる。


「騎士団に呼ばれているのは明後日だが、早く行っても問題ないか。それじゃあ俺たちも、王都に向けて出発するとしよう」


「了解です!」


「王都のお菓子も美味しかった! また食べに行こうね!」


「おー」


 こうして四人も、寂しくなった教室を出ると夏休みを利用して久しぶりの王都に向けて出発した――



 ◇



「おーとだ~!」


 相変わらず、転移できるにも関わらずセルゲンレイクから走ってきて数時間。王都に入る為の関所を通過すると、ナケアは両手を上げて嬉しそうに叫んでいた。近くを通る通行人は、ナケアの様子を微笑ましそうに見ると通り過ぎて行く。


「ハァハァ、グロウさん、どうしてナケアちゃんを背負ってここまで走って来たのに、息一つ切れてないんですか……?」


「そもそも人間じゃないからってのもあるが、魔法で身体能力を高めたり、空気抵抗を軽減させると同時に並行して重力の操作を――」


「あっ、もう大丈夫です……」


 グロウ達のペースに合わせたエリカは、流石に息を切らせながらルピナを背負っているグロウを見て呆れ半分に肩を落とす。

 エリカはグロウが元々人間だったという事は聞かされているが、グロウならば人間だった時でもこの程度の事は準備運動代わりにこなすのだろうなと、今の自分との差を痛感していた。


「ところで、相も変わらずどうして妾は召喚されておるんじゃ?」


「もふもふ」


「まさか、それだけか……?」


「ちょーだいじ」


 そして王都に到着してグロウの背中から降ろされたルピナの腕の中には、子狐形態のタマモが死んだ魚の目をしながら抱きしめられている。


 四人+一匹の集団は結構目立ち、王都の通行人からチラチラと視線を向けられているのだが、グロウは無視して今日泊まる為の宿屋を探すために歩き始めた。


「まだ試験の日から数ヶ月しか経っていないが、大分景観が変わっているな。いくつかの店は、前来た時には無かっただろ?」


「この国は、両隣に接している二大国から様々な物が流れてきますからね。直ぐに新しいものが取り入れられますから、その分流行らなくなったお店は直ぐに追いやられてしまうそうです。その中でも競争を勝ち抜いたお店は、大陸中に名を轟かせる程の大商店になってたりするらしいですよ」


 前来た時は酒屋だった場所が、今は装飾品店になっていたり、八百屋だった場所が良く分からない奇妙な仮面を売る怪しげな店となっていたりと、数ヶ月見ないだけですっかり王都の景観は変わっていた。


 それでも宿屋や鍛冶屋など、無くなっては困る店はそのままだったので前に王都へ来た時に泊まった宿屋へ向かう。


 この日は学校が終わってから王都へ向けて出発したため、既に日は傾き家へ帰るであろう住民の姿や、依頼を完了したと思われる冒険者のパーティーが、笑顔で話し合いながらギルドへ向かう姿が見て取れた。


 流石に今からソフィアに会いに教会に行くのは気が引ける。ナケアもルピナもそのことは分かっているので、無理を言わずにグロウとエリカの後についてとことこと石畳で舗装された街路を歩いていた。


「あっ、あのお店のお肉美味しそう!」


「そうだな。そろそろ飯時だし、屋台で飯でも買っていくか」


「わぁ~い!」


 グロウからお金を貰い、美味しそうな匂いを漂わせている串焼きを売る屋台へ駆けて行くナケアをエリカとグロウは見つめる。


 ルピナはグロウに背負われていたとはいえ、猛スピードで進むグロウの背中を掴み続けていたので疲れて眠くなってきたのか、こくこくと船を漕ぎだして召喚したタマモのもふもふとした背中に顔を埋めていた。


「ルピナちゃんはもうおねむですか?」


「……うん、ねむい」


「ちょっと待て! 妾の背中に涎を垂らすな! いえ垂らさないで下さいお願いするのじゃ!」


「グロウさん、私がルピナちゃんを宿屋に連れて行って部屋を取っておきますね。前に泊まった宿で良いんですよね?」


「ああ、それじゃあ頼む」


「はい!」


 ルピナを背負い、送還されるまでは帰ることのできないタマモを抱いて、エリカは宿屋に向けて歩いて行った。この時、グロウもエリカもナケアから一瞬だけ目を離してしまった。

 ナケアは上位の属性龍。世界最強の生物の一角。人間ではどうにもならない存在だと言うのが、グロウとエリカの注意力を無意識のうちにほんの少し緩めていたのだろう。


 だからだろうか。この時、グロウとエリカは気が付けなかった。屋台に向かって歩いていたはずのナケアが、いつの間にか姿を消していたという事に――

トラブル体質なのはナケアだったり……!?


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