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7 冒険者ギルド

「ここがこの街の冒険者ギルドです!」


 エリカの案内で街の中でも一際大きな建物へたどり着いたグロウ達は、冒険者ギルドと書かれた看板を見上げていた。


「随分と大きいんだな……」


「ボク達の住んでた洞窟よりもおっき~!」


 冒険者ギルドの外観はまるで一流のホテルの様で、材質は随分と丈夫そうな素材が使われている。高さもあるが面積も相当のもので、大型の魔物が何匹も入ってしまいそうだ。


「ここの冒険者ギルドはダンジョンも近いので、冒険者さんが多く訪れるんです。ギルドは宿泊施設も併設されているんですよ。更に冒険者さん達が大量のダンジョン素材を持ってくるので、それを保存、流通させる為の倉庫もあるのでこんなに大きくなったそうです」


 ダンジョンからは魔物の素材や魔晶石、ボスモンスターを倒せばダンジョンの最奥にある希少な魔道具や装備を手に入れることが出来る。


 何故そのような装備がダンジョン内に生成されるのかは謎に包まれていたが、土地以外の資源を使わずに希少な素材を手に入れることが出来るダンジョンの近くは、冒険者たちが多く集まり発展する事が多い。


 この街はその例に漏れず、更に美しい観光資源である湖もあったのでここまで発展したのだろう。冒険者ギルドからは、体格の良い冒険者と思われるパーティーが頻繁に出入りしていた。


 グロウ達も冒険者ギルドの中へ入って行く。ギルドの中は外観から受けた印象通りに整然としており、受付の横には依頼書が貼り付けられた掲示板があった。


 その横にはレストランも併設されており、表に冒険者ギルドと書かれた看板が無ければホテルとしか思えなかっただろう。


「うん? ところで、さっきから俺たち随分と注目されてないか?」


 このギルドに入った時から、あちらこちらに視線を感じる。害意は無いので無視しても良いのだが、久しぶりに感じる視線はむず痒い。

 グロウ達は視線から逃げる様に空いている受付へ向かった。


「すまない、冒険者登録をしたいんだが、ここで大丈夫か?」


「はい、大丈夫です――ってぇえ!? エリカさん、生きてらしたんですか!?」


 受付にいた女性は、エリカの顔を見た瞬間、目の前に死者でも現れたかの様に驚いて椅子から転げ落ちた。ドラゴンになって時間感覚が随分とずれていたのでグロウ達は気が付かなかったが、エリカは一週間、ダンジョンに行ったきり戻っていないことになっている。


 実際にはグロウ達のいた森に流れ着いていたのだが、それを知る者はいない。一週間も駆け出し冒険者がダンジョンから戻らないとなると、死亡したと考えるのは当然だろう。


「すみません、取り乱しました。エリカさんの所属していたパーティーの皆さんから、エリカさんはダンジョン内のモンスターハウスに誤って入ってしまい、そのまま亡くなったと聞いていたものですから……」


 おっとりとした雰囲気を纏った受付の女性は胸に名札を付けており、そこにはナタリアと書かれていた。ナタリアは何事も無かった様に椅子に座り直すと、エリカが居なかった一週間で起きた出来事を説明してくれた。


 その話によると、エリカを見捨てたパーティーはダンジョンから無事に逃げ帰り、冒険者ギルドで自分のパーティーメンバーが勝手にモンスターハウスの中に入り込んだから、助けてほしいと大声で騒いだらしい。


 だがパーティーメンバーの言う事も聞かず、不審な部屋に勝手に入り込んでモンスターハウスを起動させてしまったエリカを助けようとする者もおらず、結局エリカは事故死として処理されたそうだ。


 その説明はグロウ達がエリカから聞いた話と全く逆であった。これまでたった一週間とは言え、一緒に過ごしたグロウ達はエリカがそんなバカな事をしない事くらい知っている。


 その話は恐らく、パーティーメンバーを見捨てた最悪なパーティーと言う、周りからの非難を避けるためにそのパーティーが吐いた嘘だろう。


 そんな話をエリカの元パーティーが大声で騒いだため、エリカは死んだことにされていた。そんなエリカがギルドに帰って来たから、ギルドの冒険者たちは驚いてエリカを見ていたのだろう。


「お姉ちゃんはそんなことしないよ! 悪いのは全部そのパーティーの方だ!」


 ナケアがぴょんぴょんジャンプしながら、両手を上げてナタリアに抗議している。だがナタリアはナケアを見て困った様に微笑んだ。


「私も、いいえ、このギルドの職員は皆、エリカさんがそんなことをする人では無いと知っています。エリカさんの人柄は、この街に長く住んでいる人なら知らない人はいませんから。街の雑用から、冒険者の荷物持ちまで、人が嫌がる様な仕事を率先して受けてくれるので、ギルド側は随分と助かっていました」


 ナタリアに褒められ、エリカは顔を赤くしていた。心優しいエリカの人柄は、如何やら昔から変わらなかった様だ。


「ですが、ここに来る冒険者の皆さんは、殆どが外から来た人たちですから、エリカさんを良く知らない人が多いんです。ですから、私たちがどう思おうとエリカさんの噂を止めることが出来なかったんですよ……今までギルドに貢献して下さったのにこのような事になってしまって、本当にすみません……」


「いえいえっ! 私なんか、弱くて魔物の討伐が出来ないから自分の出来ることをやってただけで、結局あの時も囮くらいしか出来なかった役立たずです……」


「そんなことは無いと思うぞ? エリカの心は充分強いだろ? 囮にされて俺たちに出会わなければ死んでいたというのに、まだパーティーを恨まずに自分を責めるなんて、中々出来る事じゃない」


「ボクも、お姉ちゃんは強い人だと思う! ボクと遊んでいる時、魔物が現れたら真っ先に飛び出して行って、ボクの事守ろうとしてくれたもん!」


 全員から褒められて、エリカは手で顔を覆っていた。頭からは煙が出てきそうだ。エリカの実力は確かにそこまで高くはない。だが、優しさならば誰にも勝っているだろう。


「わ、私の事は良いですから! 早く冒険者登録しちゃいましょうよ! 私はこうして生きているんですから、もう何も気にしていません!」


「ですが……」


 ナタリアは尚も申し訳なさそうにしているが、これ以上エリカを褒めると本当に倒れかねない程顔を真っ赤にしている。ナタリアもそれを察して、心苦しそうに職務へ戻った。


「分かりました、謝罪はまたの機会に改めて。それで、確かそちらの方の新規登録でしたよね? ではこの書類に必要事項の記入をお願いします」


「ああ済まない、こっちのナケアも登録したいんだが、大丈夫だろうか?」


「えーと、その子もですか? 一応、冒険者の登録は10歳からとなっているのですが……?」


「ならば大丈夫だ。ナケアは10年以上生きているからな」


 嘘は何も言っていない。ナケアは見た目こそ10歳に満たない子供の姿だが、これでも80年以上は生きているドラゴンだ。それでも住んでいた所から出てきたのは初めてで、グロウに甘えて過ごしていたため精神も含めて完全にまだ子供だが、1()0()()以上という基準は満たしている。


「は、はあ、ではそちらのお嬢さんも書類に必要事項の記入をお願いします」


 まだ教えていなかった為、ナケアはまだ字を書けない。代わりにグロウが書類に必要事項を書こうとしたのだが、そこでグロウはふと手を止めた。


(俺も500年前の文字しか知らないな……さてどうするか……)


 グロウが渡された書類を読もうとすると、その文字が全く読めない事に気が付いた。よく考えれば、今はグロウの知る世界から500年は経過しているのだ。


 当時の文字は世界各国の書物を読むために全て覚えたグロウだが、戦争で一度文明が滅びたからなのか、新しく作られたであろうその文字は全く見覚えのない文字だった。


 エリカに代筆を頼むのでも良いが、何となくそれが出来なかったグロウは、渡された書類に魔法をかける。当時は精査魔法と呼ばれていた便利魔法で、解析や解読、痕跡などの捜査に持ってこいの魔法だ。


 その魔法で書類に書かれている文字を分析、解読する。これまで覚えてきた文字の様々なパターンに当てはめて、この文字に合うパターンを見つけ出した。


(分析完了、如何やらこの文字は当時のケルヌト帝国で使われていたケルヌ文字の派生だな。それじゃあここは当時で言うケルヌト帝国付近だろうか?)


 グロウは解析を終えて、書類に必要事項を書き込んでいく。ナケアの分も書き込み終わると、書類をナタリアに手渡した。


「えーと、グロウ=ザカートさんとナケア=ザカートさんですね。それでは職業適性を調べますので、この魔動具へ触れてみてください」


「うん? 職業くらい自分で調べられるだろう?」


 自分の職業適性は【ステータス開示(オープン)】で調べることが出来る。態々魔動具を使うまでも無い筈だ。


「確かに、自分のステータスは自分で調べることが出来ますが、偶に職業を詐称する方が居るんですよ。魔法剣士さんや盗賊(シーフ)さんなど、職業で差別される方も、悲しいことに沢山いますから……そう言う人の多くは職業を隠すんです。ですが、ギルドとしては適正職業を間違えて把握してしまうと評価が正確にできなくなってしまいますから、こうしてこちらで確認できる様にしております」


 盗賊(シーフ)は覚えるスキルが対人、暗殺に向いていたり、気配や姿を消したり出来るものが多く、前世でも貴族や王族が数名抱え込んでいたが、それ以外は気色が悪いと基本的に冷遇されていた。


 差別の元になるのなら表示しなければ良いのにとは思うも、適正職業を詐称すればギルドの依頼斡旋に不備が出るかもしれない。例えば魔術師の火力を求める依頼に剣士を向かわせれば、ギルドの信用も落ちることになるからだ。


「分かった、これに触れれば良いんだな」


「これな~に?」


 グロウとナケアが同時に水晶の様な魔動具に触れる。すると、魔動具の中に文字が浮かび上がってきた。


「おお! ナケアさんは聖術師の適性がありますね。そしてグロウさんは……」


 水晶に浮かび上がったグロウの適性を見て、ナタリアは見るからに表情を暗くした。グロウの適性職業は魔法剣士だ。今の時代では冷遇されているので、それを想ってくれたのだろう。


「えっと、グロウさん、一応魔法剣士でも上級の冒険者はいらっしゃいますので、どうか諦めないで下さいね」


 そう言うとナタリアは、受付の後ろに設置されていた魔動具から出されたカードをグロウ達に手渡した。


「これが冒険者証になります。冒険者のランクはF~Aまであり、お二人は新規ですのでFランクからとなっております。身分証の代わりにもなりますので、くれぐれも無くさない様にご注意ください。冒険者証にはランクの他に職業、ダンジョンの通行許可証が表示されます。ギルドの依頼は自分のランクより上の依頼は受けることが出来ません。高ランク冒険者の依頼について行くことは出来ますが、その場合ギルドは一切の責任を持ちませんのでご注意ください。

 討伐依頼は依頼書が討伐数を自動でカウントしてくれますので、討伐依頼を受ける場合は依頼書を一緒に持って行き、無くさない様に気を付けてくださいね。無くした場合は、如何なる状況でも依頼は失敗とし、違約金を支払って頂くことになります」


「分かった、気を付けよう。ああ、それと魔物の素材を売りたいんだが」


「ああ、それでしたらあちらの買い取り窓口の方に――」


 その瞬間、ギルドの扉が乱雑に開け放たれた。その扉から姿を現したのは、若い冒険者と思われる男だ。頭や身体に傷を負っている様で、立っているのもやっとだと思われる。だが男はそんな事お構いなしに、息を切らしながら叫んだ。


「森に、災害級の魔物が出た……皆今すぐここから逃げろ……!」


 そして冒険者の男はギルドの床に倒れ込んだ。

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