66 臨時教師
今月中に、もう一話は投稿したい……!
グロウ達がギルドの闘技場で一方的な蹂躙を繰り広げている頃、フェルゴ王国の王都中心に聳え立つ巨大な建造物、王城の一室にて、三人の男が深刻そうな顔を浮かべて話し合っていた。
「あのネクロペイラをたった数日で完全に浄化しただと? それは確かなのか?」
「ええ、間違いありません。既に遠視の魔法を使える魔術士に依頼し、ネクロペリアの現状は確認されています。あの山の様に屍が積み上がっていたネクロペリアですが、今では一体も不死魔は確認できず、あの地より発せられていた瘴気も完全に消え去っていたそうですよ」
「遽に信じられませんな。あのネクロペリアは、ランクCを超える不死魔が無数に徘徊している。中にはランクB +の首無し騎士すら数体確認されているのですぞ? Bランクの冒険者でも、何組ものパーティーを送らねば到底あの地を浄化は出来ないでしょう。それでも年単位の時間を掛けることになるでしょうがね」
「だからこそ、あの情報が真実だと言う証拠になるのではないですか? こんな事、例えAランクの冒険者でも不可能なのですから。現に、聖術において歴代でも並ぶ者無しと言われている聖女様も、元Aランク冒険者にまで上り詰めた試験官のシルバーも、完全に本気だったにも関わらずまるで次元が違う実力を見せつけられていた様ですよ」
その言葉を聞いて、この場を取り仕切っている男、フェルゴ王国の国王エルネスト=フェルレクスは頭を抱えた。国王の隣では、一見落ち着いている様に見えるが幾度となく眼鏡の位置を直している宰相も、顔にこそ出してはいないがかつて無いほど動揺している事が見て取れる。
三人の中で唯一落ち着いている男は、王都にある冒険者ギルドのギルドマスターだ。今話し合われている会議の内容は、とある二柱のドラゴンについて。当然、グロウとナケアの事である。
昇級試験は、各冒険者ギルドの支部長以上が推薦する事で受ける事ができる。推薦すると言う事は、推薦された冒険者を冒険者ギルドは信用していると言うことの証。その為、Bランク冒険者の不祥事は推薦したギルドの失態にも繋がるので、冒険者ギルドは推薦する冒険者を念入りに調べて厳選する。
当然、グロウとナケアについても調べあげ、ギルドマスターには報告されていた。因みに情報源はセルゲンレイクの冒険者ギルド支部長であるリックである。
リックによれば、グロウとナケアは絶滅したとされる上位のドラゴンだと言う。そんな話、ギルドマスターも最初は全く信じてなどいなかった。何せ、これまで少なくとも百年以上は、亜竜と呼ばれる飛竜や龍人などは確認されているが、下位を含めても純粋なドラゴンは確認されていない。
だと言うのに、いきなりSSSランクのドラゴンが二柱も発見されたと報告されては、確認した者は気が触れたのかと考える方が余程納得できると言うものだ。
しかし、その報告を送ったのは全国のギルドの中でも信用できる支部長であり、確認しない訳にもいかない。その為、丁度良いタイミングだったBランク昇級試験を利用して、三人はグロウたちの正体を探ろうと動いていたのだった。
Bランクの昇級試験では、元Aランク冒険者のシルバーに手加減無しで実力を出させる様指示を出していた。嘗て飛竜すら単独で討伐したシルバーならば、例え上位のドラゴンでも実力を隠したままでは突破は難しいだろうと予想して。
そしてその結果は、ドラゴンの弟子だと言う一人の少女ですら実力の底を測る事はできなかったと言う。
最終試験では、ギルドマスター自ら依頼を厳選し、グロウたち以外のパーティーにあった依頼を受けさせる事でグロウたちが受けるであろう依頼を誘導。グロウたちは高確率で本来Aランクになる筈の依頼を受ける様になっており、見事思惑通りにグロウたちは高難度の依頼を受ける事となった。
その依頼は本来、Bランクのパーティーでも達成は困難であり、実際にBランクパーティーを派遣しても達成できなかった依頼だ。
浄化する範囲を考慮すれば、たった一組のパーティーでは魔力も確実に保たない。偶々昇級試験を受けに来ていた聖女様まで、そんな高難度の依頼に出てしまった時は肝を冷やしたが、もし本当にグロウたちがドラゴンならばそんな事は些事。
取り敢えずは経過を見ると見ると言う事で話し合っていた矢先、グロウたちは依頼を達成してギルドに帰ってきていた。
この時点で、三人の中でグロウたちが本当にドラゴンなのかは結論付けられた。自国の中で、SSSランクの厄災が二柱。今は何もないが、何かの拍子で暴走すればこの国はどうなるのか。
国王と宰相がこの問題に頭痛を覚えている中、ギルドマスターは報告にあった事実を淡々と述べて行く。
「狂化した魔物に、活性化した魔王城の攻略。〈愚行〉である黒妖狐の討伐依頼では、ある霊獣が関わっていると見られて依頼の難易度を上げようと思っていたのですが、その前に依頼を達成させてソールの森を見事開放。その他にもゴブリンロードやワイバーンの討伐。どれか一つでも冒険者としては一生ものの功績です」
「ただ有能な冒険者ならば、大歓迎なのだ。問題は、それがただの有能な冒険者ではなく、明らかに我々、いや人類の手に余るくらい有能過ぎる冒険者だと言う事。過ぎた力は猛毒になり得る。今は敵では無い様だが、いつその牙がこの国に向くのか分からないのだ!」
「ドラゴンの牙など、向けられれば人類に抵抗の手段などありますまい。敵対した時点で対応は不可能故、対策など考えても無駄。今は事を荒立てない様、地道に見守ってどうにかご機嫌を取るしか無いでしょうな。幸い、そのドラゴンは人と友好的な様子。此方が下手に動かなければ問題は無いでしょう」
宰相の言葉に国王は暫し考え込むと、諦めた顔で溜息を吐き、力なく首を縦にふった。
「今はそれしか無いだろうな。宰相、ドラゴンの力に目が眩む愚か者が出ないとは思えん。しっかり目を光らせておいてくれ。上手くいけば、ドラゴンに恩が売れるかもしれんしな」
「はい、お任せください」
「ギルドマスターは引き続き情報提供を頼む。こんな事は言いたくないが、冒険者は良くも悪くも自由すぎて何をしでかすか分からない。しっかりと監視しておけよ?」
「勿論です。しっかりと目を光らせておきますよ」
こうして三人の会議は終了し、三人は席を立って疲れた顔を浮かべながら部屋を出ていくのだった。
数分後、ギルドに帰ってきたギルドマスターがグロウ達に喧嘩を売った冒険者の話を聞いて、泡を吹いて倒れたのはまた別のお話である。
◇
グロウたちがBランクの冒険者になってから、既に一ヶ月が経過していた。
ケル達と模擬戦をした後は、三人が気絶してしまったので後処理をギルドに任せ、魔王城で知り合ったデューク達に挨拶をしておきたかったのだが、依頼を受けている途中だと言う話を聞いたのでその日のうちにセルゲンレイクに帰っていた。
ソフィアは教会に戻らなければいけないと言う事で、別れを惜しむナケア達にまた必ず会いに来ると言う約束をして、現在は教会に帰っている。グロウ達なら数時間でセルゲンレイクから王都まで走破出来てしまうので、二人とも泣いてはいたが悲しむ事なかった。
ケル達は、あの後王都の冒険者ギルドに留まる事ができず、気がついたら姿を消していたらしい。
そしてめでたくBランクになったグロウ達は、現在リックから勧められて受注した依頼を受けて、ギルドの隣に建てられている学舎にきていた。
「この様に、魔法には火、水、風、聖、闇などの属性がある。そして魔力には陰と陽の性質があり、自分がどの性質の魔力を持ち、得意な魔法の属性を知る事が魔術士として強く為の第一歩となる訳だ」
「はいせんせー! その属性や性質はどうやれば分かるんですか?」
「属性は、調べる為の魔道具をギルドから借りてきたから、後で調べてみる事にしよう。性質は、一度自分に向けて魔力を放ってみると良い。少しでも衝撃を感じれば陰で、何もなかったり、力が上がったりすれば陽だな」
学舎では、ナケアとそう変わらない外見の子供達が集まっている。全員魔法に適性があり、将来は冒険者や宮廷魔術師を目指している子供達だ。
現在グロウ達が受けている依頼は、ギルドの運営している冒険者学校の臨時教師になって欲しいと言うもの。知識や経験を誰かに教えるためには、より分かりやすく説明するために自分が深く理解していなければならない。
そのため、魔法の理論を教えるとは自分にとっても良い勉強になるのだ。この依頼を受注したのも、エリカに魔法の理論を深く理解してもらうためである。
何故かこの学校の生徒と一緒に授業を受けているナケアを含め、十人の子供に魔法を教えるために、グロウは人生初の教壇に上がり、子供達に授業を行なっていた。
「エレナ、生徒達に魔力を放ってみてくれ」
「は、はい! えっと、こんな感じですか?」
「あっ、なんか体があったかくなった気がする!」
「ほんとだ!」
「ぽかぽかする〜」
グロウの隣に立って、ガチガチに緊張しながらも教室中に行き渡る様にエリカが魔力を放出すると、子供達は気持ち良さそうに目を細めていた。
「エリカの魔力は陽の性質を持っている。陽の魔力は、主に付与魔法や治癒魔法など、人体に有益な効果をもたらす魔法を使う事ができるな。俺は陰の魔力を持っているが、こっちは攻撃魔法や黒魔法を使える」
へぇ〜と、子供達は頷きながら机の上に置かれているノートに今グロウが言ったことをメモしている。ナケアには何度も教えているのだが、他の生徒と同じ様にノートへメモを取っていた。ルピナも連れて来ているが、今日は朝が早かった為、机に突っ伏して可愛い寝息を立てている。
「さて、座学はこのくらいにして実技に移ろう。全員裏の運動場に移動してくれ」
「「「「「は〜い!」」」」」
元気な返事と共に、子供達は学舎の裏にある運動場に移動して行く。元気な子供達の後に続いて、グロウと寝ているルピナを抱いたエリカも、微笑みながら運動場に向けて歩き出した。




