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60 屠龍の侵攻

ヤバい、課題まだ全然手をつけてない……

 グロウ達はストムベール達の案内で部屋を移動し、部屋の中央に高さがグロウの頭が隠れるくらいの巨大な机が置かれているだけの、殺風景な部屋に集まっていた。


 真ん中にある机の上だけでも、人間だけならば軍隊でも余裕を持って整列できそうな広さの部屋も、巨大な龍種が何人も集まって居ては手狭に感じる。この部屋には、先程部屋に集まって居た龍種のほかに、この里の防衛などに携わっている龍種が集まっているらしかった。


 鋭い龍種の視線がグロウ達に突き刺さる中、グロウの頭の上に抱きついているストムベールは気にする様子も無く、机の前までグロウ達を案内する。そのままではグロウ達は机の上を見る事が出来ないので、グロウは対象を浮かせる事ができる【浮遊】の魔法で自分達を机の上まで浮遊させて、机の上に降り立った。


 机の上には、何やらこの大陸の地図が広げられている。それもかなり精巧に作図された、精度の高い物だった。ギルドで見せられた地図とは比べるべくもない、地形や国はもちろん、その場所の標高に気候、施設などまで事細かに作図された地図だ。これだけ精巧に作られた地図の用途など、そう多くはない。グロウが知る限り、精巧な地図の使用用途は行政か戦争だけだった。


「ここは、人間でいう司令部と言った所だ。主にこの里の周辺を見張り、里の侵入者に備えている。まあ、里に侵入されたことなど、この里が出来てからまだ一度もないがな」


 ストムベールがこの部屋を説明してくれる。この場所は里の防衛を司っている場所らしい。そんな場所をよそ者であるグロウ達に見せても良いのかと視線でストムベールに訴えるが、ストムベールは構わんとばかりに頷いて集まっている龍種に向き直った。


「さて、それで、屠龍の奴らが動いたのだったな」


「その様ですね。外の偵察に出ていた龍人族(ドラゴニュート)の一部隊からの連絡が途絶えました。場所は大陸北部。あそこには現在同盟を組んでいる『結晶龍』クリスタ二グス様の住む地。敗北は無いでしょうが、被害は免れないかと。援軍を送るべきでしょうか?」


「お兄ちゃん、屠龍ってなに?」


 ストムベールが近くにいた龍人族(ドラゴニュート)の報告を聞いている途中、ナケアが隣にいるグロウを見上げて質問する。


 同じく首を傾げていたルピナも、興味深そうにグロウを見上げた。エリカとソフィアとタマモは存在を知っている様で、二人ほど興味がありそうではない。


「屠龍と言うのは、ドラゴンとその近類種を狩ることを専門にしたギルドの事だ。セルゲンレイクのギルドは冒険者ギルドだからダンジョンや周囲の魔物の討伐を重点的に行なっているが、他の依頼も請けない訳じゃ無い。だが屠龍は、ドラゴンの討伐以外は請け負わない専門ギルドと言われているギルドだ。龍殺し(ドラゴンスレイヤー)とも言われる、ドラゴンにとっては天敵とも言えるギルドだな」


 その特異性から、当然グロウも屠龍と言われるギルドは調べている。グロウ達ドラゴンにとっては危険極まり無いギルドだが、人間にとっては強力なドラゴン、ただ純粋なドラゴンは下位の地龍族(クリーヒェン)含め絶滅したと思われているので、主に飛竜種(ワイバーン)龍人族(ドラゴニュート)、この里にはいない様だが、ドラゴンの近類種とは言われているが魔物や獣に近く、知能が低い竜獣(ドレイク)などを討伐してくれる人気のギルドだ。


 戦闘力ならばあのシルト騎士団にも匹敵すると言われ、最強のギルドとも噂されているらしい。ギルドに所属している構成員は百に満たない小規模なギルドだが、ギルドの構成員は全員魔道具で武装しており、ドラゴンの強靭な鱗すら貫く強力な攻撃力を誇っている。


 その他にも、ドラゴンの素材はどの部位も高額で取引されているため、財力も小規模ギルドでありながら大規模な冒険者ギルド以上と言われており、他国にすら強い繋がりを持っているのだそうだ。


 武力・財力・権力を持つ、ドラゴンにとってこれ以上ない程厄介な敵。それが龍殺し(ドラゴンスレイヤー)専門ギルド【屠龍】だ。


「屠龍コワイ! お兄ちゃんは、屠龍に勝てるの?」


「勝てるが、奴らは空白の時代の遺跡などから発掘される魔道具を多く所有しているらしい。その中には俺にもダメージを与えるかもしれない、強力な魔道具もあるかもしれないな。まあ、その場合は何としてもナケア達を守るから、回復は頼んだぞ?」


「うん! 任せて!」


 屠龍について教えると、ナケアは怖がってしまい、涙目でグロウの腰あたりにしがみついて心配そうにグロウを見上げてくる。


 確かに空白の時代、つまりグロウの人間時代に開発された魔道具の中には、ドラゴンすら消し飛ばしてしまう様な強力な兵器も存在していた。そもそも、ドラゴンが絶滅に近い被害を被ったのも、人間が作り出した兵器のせいだ。そんな物が発掘されていれば、幾らグロウとは言え無傷ではいられないかもしれない。


 それでも絶対に勝つと言う意思を込めて、グロウはナケアの頭を優しく撫でる。するとナケアも、安心した様に笑顔を浮かべて、まるで子猫の様に気持ち良さそうに目を細めて抱きつく力を一層強めた。


「屠龍ね、確かにこの里にとっては天敵かもしれないけど、どうしてナケア達が戦う必要があるの?」


 グロウ達が話合っていると、その会話を聞いていたソフィアが不思議そうに首を傾げていた。確かに、人間にとって屠龍は、一匹で軍隊に匹敵し得る危険で強力なドラゴンに立ち向かう正義の味方である。二人の正体がドラゴンであると知らないソフィアにとっては、二人の会話は理解できないだろう。


 ソフィアに隠し事をしているのが辛くなってきたのか、ナケアの表情が曇る。そもそも、二人がドラゴンであると隠さなければならない理由が、グロウには無い。ナケアも、単純にソフィアと今の関係が変わるのが嫌だと言う理由だ。まだ付き合いは短いが、ナケアにとっては初めてできた(見た目)同年代の友達。失うのがコワイと言うのは分かる。しかし、グロウから見てもソフィアがナケアの種族を知って、関係を変える様な人物だとは思えない。


 多少遅くなったが、そろそろ打ち明けても良いのでは無いか。グロウはそう思い、ナケアに問いかける。


「どうするナケア? ソフィアに本当のことを教えてみるか?」


「……っ!」


 グロウの言葉に、ナケアは少し迷って俯いてしまう。しかし直ぐに顔を上げると、覚悟を決めたらしくグロウの顔を見て頷いた。


「分かった。【龍人化解除(リリース)】」


 グロウが自分たちに掛かっていた魔法を解除する。勿論、机に乗ったままでは机が木っ端微塵に砕け散るので、無駄に広い部屋の隅に移動してからだ。


 魔法を解除して直ぐに、二人の体が光に包まれる。そして次の瞬間、光が収まると、二人が立っていた場所には二柱のドラゴンが立っていた。


 おおーー‼︎


 その光景を見ていたドラゴンから歓声が上がる。中には跪いている者もいた。後でストムベールから教わった話では、ドラゴンは絶対では無いが基本的に実力社会。上位のドラゴンであるグロウ達は、それだけで如何なる地龍族(クリーヒェン)よりも強い。


 その為、グロウ達はドラゴンにとって崇拝の対象になるそうだ。因みに、弱体化したストムベールでもグロウの魔力を込めた器に入っている為、そこらの地龍族(クリーヒェン)よりは強い。最古の世代であるベルグドラと良い勝負と言った所だ。


 上位では無いドラゴンの純粋な力は、種族によって若干誤差はあるが大体生きた年数で決まる。ただ寿命では地龍族(クリーヒェン)が最も長生きで、次に飛竜族(ワイバーン)、その次に龍人族(ドラゴニュート)竜獣(竜獣)が同じくらいなので、必然的に地龍族(クリーヒェン)が強く育つ傾向にあるそうだ。


「ナケア、なの……?」


 二人の変化を間近に見て、ソフィアが目を見開いて驚愕している。それでもどうにか声を絞り出して、辛うじてそんな質問を口にした。


「そうだよ。ボクは本当は人間じゃなくて『聖龍』って言うドラゴンなんだ。ビックリした?」


 その質問に、ナケアは声を震わせながら、恐る恐る答える。小さな人間の少女に対して、生物の中でも最上位に位置するドラゴンが怖がっている。意味を知らない他の龍種達は、その光景を見て首を傾げていた。だが、等の本人にとっては、これ以上恐れる出来事はそう無いだろう。


 今にも泣き出しそうに涙を堪えながら、ナケアはソフィアの言葉を待つ。そして数分、ソフィアは驚愕に染まった表情を浮かべながらも今の状況を理解すると、満面の笑みを浮かべてドラゴンのナケアに抱きついた。


「そりゃあビックリしたわよ! でも、ナケアがこんなに可愛いドラゴンなら何も問題ないわ! ナケアがこれまで、強力な魔法を簡単に使っていたのも納得ね。それにしても、この羽毛ふかふかね! 今日だけでいいから、このまま抱きついてていい?」


「う、うん!」


 ドラゴンだったことを隠していても、それを咎めることなく、ソフィアはナケアに好意を示す。やはり、ソフィアは二人がドラゴンであることを気にもしなかった。ナケアは最大の不安要素があっさりと受け入れられたことで耐えきれなくなり、大粒の涙を流していたが、その顔は笑顔だ。そのまま末永く友達でいて欲しいとグロウは切に願う。


 そうこうしている内に、ストムベールの方もある程度の対策が決定した様だった。


「この場所はまだ発見されていない様だな。流石にあの山脈は屠龍でも越えることはできまい。『結晶龍』は救援の報せが届くまで手を出さん方が良いだろう。こちらの数少ない戦力を『結晶龍』の奴に凍らされては堪らん。この場所は大陸の西にある。屠龍にとっては近くも無く遠くも無い。暫くは監視のみに留め、こちらに進行してきたのなら山脈に手こずっている間に奇襲するぞ」


「了解しました。では北の監視を強化しておきましょう」


「ああ、グロウ達も、北に行くのなら気をつけるのだぞ? それと、今日はもう遅い。部屋を用意しておいたから、今日の疲れをゆっくり癒すと良い」


「それは助かるな」


 正直、グロウ達はBランクの昇格試験の途中である。それも、今日の朝に王都へ移動したので、今日のうちにセルゲンレイクから王都、そしてまたセルゲンレイクの近くであるこの里まで移動しているので、何となく無駄骨感が合って疲れた。これからまた王都に行って依頼達成の報告に行くには、流石に御免被りたかったところだ。ここはストムベールの言葉に甘えて、旅の疲れをゆっくり癒すとしよう。


 そう言うわけで、グロウ達はまたストムベールの案内に従って、屋敷の中を移動して行った。

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