46 第二試験
自称“水刃のミュレイ”と名乗る冒険者が担架で運ばれて行くのを尻目に、次の挑戦者が雷光虎の前に歩み出た。
前の冒険者が余りにも間抜けだった為、疑惑の目でグロウは次の冒険者を観察する。次の冒険者は短い茶髪を後ろに流した、筋肉隆々の重戦士の男だ。男は手に大斧を持っている。
「次は俺が挑戦しよう」
シルバーが頷くと同時に、雷光虎が男に襲いかかった。雷光虎の通り道は、追従する稲妻によって黒く焦げる。音速に迫る速度で男に接近した雷光虎は、男を切り裂こうと、その鋭い爪を振り下ろした。
「速いな。だがーー」
男は素早い動きで迫る雷光虎の攻撃を、僅かに体を捻るだけで回避すると、すれ違い様に斧を振るう。
その一撃で、雷光虎の首が宙に飛んだ。
(今のは【豪技:豪斧断頭】か。練度も申し分無いな)
軽くガッツポーズをしている重戦士の男を見て、グロウは現代の冒険者の評価を改める。如何やら、さっきの冒険者が間抜けだっただけらしい。この重戦士の男は、間違いなく確かな実力を持っていた。
「さっきの豪技、凄い威力でしたね。たった一撃で、骨まで斬れてましたよ」
「豪斧断頭は、使用者の筋力に比例して威力が上がる、単純故に実力がそのまま反映される技だ。相当鍛えたんだろうな」
エリカも驚いて重戦士の男を見ていた。首を斬られた雷光虎は、体を維持できなくなり、構成していた魔力に戻って辺りに霧散して行く。
自分の召喚獣が簡単に倒されたと言うのに、試験官のシルバーは何処か嬉しそうにその様子を見つめていた。
「ふむ、中々やるな。この試験は合格だ。よし次!」
召喚獣が倒されても、肝心な魔法陣は壊れていないので、魔力を流せば幾らでも先程の雷光虎を召喚できる。シルバーは魔法陣に魔力を注ぎ込んで、新たな召喚獣を召喚した。
その後、雷光虎に冒険者が列を作り次々と挑んで行く。エリカとグロウは様子を見る為に列の一番後ろに並んだ。冒険者達は、大体三人に一人は雷光虎の討伐に成功していた。討伐に失敗した冒険者は、担架に運ばれて部屋の外に運ばれて行く。
グロウ達の順番が来るまでに、この部屋に残った冒険者は十名以下となっていた。そしていよいよグロウの前に並んでいた、エリカの順番になる。
「次はお前か。楽しみだな」
「えっ? 何か言われましたか?」
「こっちの話だ。それでは試験を開始する!」
シルバーが魔法陣に魔力を注ぎ込む。だが、今回魔法陣に注ぎ込まれた魔力は、明かに先程までの魔力とは比べられない量の魔力だ。あれでは、Bランクを超える実力を持つ召喚獣が召喚されてしまう。
シルバーが楽しそうに口端を吊り上げる。確実に確信犯だった。
「あれ? さっきまでの召喚獣と、纏ってる雷の色が違くない?」
「本当だ。でも、あのシルバーさんが召喚したんだから、失敗って事はないだろ。偶々色が変わったんじゃ無いのか?」
既に雷光虎を倒し、部屋の隅で邪魔にならない様に見物している冒険者が、召喚された雷光虎を見て首を傾げている。
それもその筈で、先程まで召喚されていた雷光虎の纏う稲妻の色は薄い青色だったのだが、今回召喚された雷光虎の纏う稲妻の色は濃い紫色で、尻尾は鋭いトゲが何本も生えていた。
そして、先程までの違いはそれだけでは無い。見物している冒険者は全員魔法を使えないので気がついていない様だが、秘めている魔力量の桁が違うのだ。
「見たところ、ランクB +の召喚獣だな。あんな召喚獣は見た事ないが、あの試験官の固有魔法か」
エリカは召喚された召喚獣を注意深く観察する。召喚獣はそんなエリカを見て、いつでも飛び掛かれるように姿勢を低くして唸っていた。
紫電を纏う召喚獣は、鋭い目付きでエリカを睨みつける。そして召喚獣の纏う紫電が大きく弾けた瞬間、召喚獣は音速を優に超える速度でエリカに襲い掛かった。
「なっ⁉︎ 速い⁉︎」
見物していた冒険者が、紫電を纏う召喚獣の動きを見て驚愕する。召喚獣の動きを完全に捉えられた者は、この部屋では三人だけであった。
一人はこの召喚獣を召喚したシルバーだ。シルバーは報告書から、グロウ達がドラゴンであり、エリカがその弟子である事は知っていた。だがドラゴンはとうの昔に滅びた種族。報告書を何度見返しても、ドラゴンが本当に生きている事など、信じられることでは無い。
その為こうして、彼なりの方法でグロウ達を見極めようとしていたのだ。
(俺の固有魔法である紫電之虎王は、Aランクを超える実力を持つ。報告書通りドラゴンの弟子であるのなら、この召喚獣も倒す事ができる筈だ)
もし討伐出来ない様なら、召喚獣を送還してしまえば良い。にわかには信じ難いが、報告書にはSランク以上の魔物を瞬殺したと書いてあった。もし報告書が真実ならば、この程度の召喚獣を倒せる筈。どちらにしろ真実は確かめられると、シルバーは事の成り行きを見守っていた。
召喚獣の動きを完全に見切っているグロウは、シルバーの召喚した召喚獣を見て黒い笑みを浮かべる。
グロウは、前に出現したワイバーンをあっさりと討伐していた事を、今でも悔いていた。折角エリカの特訓に丁度良さそうな相手だったと言うのに、勿体無いと。
あれだけの魔物は、この時代では十分国家すら脅やかす程の強力な魔物なのだ。もしそんな魔物が目撃された場合、即座に討伐隊が組まれ、個人で戦う事など不可能に近くなってしまう。
丁度発見されたばかりで、まだ討伐隊が到着する前に戦える事は、滅多にない千載一遇のチャンスだったのだ。そんなチャンスを自分の手で潰してしまった事に、後悔の念を禁じ得ない。
そう思っていた所に、丁度良さそうな相手が出てきてくれたのだ。グロウは内心、試験官であるシルバーに感謝していた。
そして、召喚獣の動きを捉える事が出来ていたエリカは、Bランクってやっぱり強いんだなぁと呑気に考えながら、流れる様な動作で召喚獣の攻撃を回避し、腰に下げている剣を抜いて召喚獣に斬り付けていた。
すれ違いざまに斬り付けられた召喚獣の尻尾が落ちる。観戦していた冒険者達が反応も出来ない速度で反転したエリカは、その勢いのまま更に五回、召喚獣の背中を斬り裂いた。
その攻撃で召喚獣は力尽き、淡い光と共に辺りへ霧散して行く。その様子を見ていた冒険者とシルバーは、目を見開いたまま固まっていた。




