42 Bランク昇級試験のお誘い
「ギルド長! この言われた通り森へ調査に行ったら、この魔晶石が!」
「この大きさ、内蔵魔力量、間違い無くワイバーンの物だな」
グロウが本当にワイバーンを討伐していたのか、リックからの依頼でワイバーンの痕跡を探しに出た冒険者が、抱え込む程大きな魔晶石を持ってギルド内に入ってくる。
隣に立つ冒険者も、ワイバーンの物と思われる鱗や牙、先に爪の付いた大きな飛膜を抱えていた。その鱗だけでも、抱えている冒険者の顔を完全に隠すくらいの大きさがある。倒されたワイバーンは、如何やら予想以上に巨大な個体だった様だ。
「素材もこれだけ落ちておりました。これ、膨大な魔力を感じるんですが……」
「まあ、どちらにしろ脅威は去ったんだ。今はそれを喜ぼう」
「「「オオオオオッーーー‼︎」」」
ギルド内に、冒険者達があげた歓喜の声が響き渡る。グロウ達がギルド内に入った時、全員が神妙な面持ちを浮かべていたが、それだけ不安だったのだろう。
リックの依頼で森にワイバーンの痕跡を探しに行った冒険者を待つ間、ずっと羨望の眼差しで見つめられていたグロウは、ギルド内にいた冒険者にギルド内に併設されている酒場に連れて行かれた。
グロウの前に、あれよあれよと美味しそうな料理が運ばれてくる。エリカ達もちゃんと近くの席に座り、全員の前に料理が運ばれていた。男の冒険者の視線が、軒並みタマモのある一点に注がれている様に感じるのは、多分気のせいでは無い。
「いや〜、ワイバーンが現れたと聞いた時は如何やるかと思っていたが、何事もなくて本当に良かった!」
「実際、冒険者の何人かは別の街に逃げやがったからな。もしグロウさんがワイバーンを倒さなかったら、ここのギルドは致命的な被害が出てただろうな」
「この街にはあの、天災級の魔物をたった一撃で倒したグロウさんが居るんだから、心配する必要何てないのにな!」
「良く言うぜ! お前が一番ビビってたじゃねーか!」
酒場では不安の元凶が消えたからか、全員が笑顔で酒を飲んでいる。ここ数週間で、グロウ達はかなり受け入れられて来たと思う。
最初はこの時代で不遇とされて来た魔法剣士も、この街ではその評価が改善されつつある様だ。それはグロウがこの街に来た時、魔物を一撃で倒した事が大きいらしい。
グロウが偶にギルドへ顔を出すと、リックから魔法剣士について講習を開いて欲しいと頼まれた事もあった。それだけグロウの使う魔法が評価されているのだろうと嬉しくなり、グロウは寝る間も惜しんで魔法の基礎が書かれている教科書を作っている所だ。
「全く、俺達が必死で対策を考えている間に、ワイバーンを倒して来ちまうなんてな。グロウがこの街にいてくれて本当に良かったぜ。勿論報酬は払わせて貰うから、今日は好きなだけ飲んでいってくれ!」
何やら持っていた書類を投げ捨てて、酒場にリックも入ってくる。グロウにとっては、気付かぬ間に倒されていた魔物でここまで喜ばれると非常に居心地が悪いのだが、この祝勝会気分を壊すのも悪いと思い、何も言わずに料理を口に運んだ。
「ああそれと、グロウ達のパーティー、今回の件でBランク昇格試験に挑戦できる様になったぞ! もしこの試験に受かれば、この街で二組目のBランク冒険者だ。グロウ達なら必ず受かるだろうから、受けておいた方が良いぞ?」
場の雰囲気に流されて、出される料理に舌鼓を打っていると、リックがそんな事を言ってきた。
Bランクの冒険者は、冒険者としてベテランと言って良い確かな実力を持つ冒険者だ。その依頼は危険な物も多くなるが、その分報酬が高くなり、知名度も飛躍的に上がる。
貴族や王族からの依頼も入る事があると言うのだから、信用においても下位の冒険者とは一段違う物になるらしい。
グロウが人間だった時は、最上級であるAランクの冒険者であったが、此処まで早くBランクに上がる事は無かった。
その話が聞こえて来たのか、エリカ達もグロウの座っている机の近くに来ている。ただ、グロウは何もした覚えがないのだが、どうしてBランクに上がれるのかをリックに聞いた。
「俺達は何かした覚えは無いんだが? 依頼もそんなに受けていなかっただろう?」
「確かに、普通ならこんなに早くBランクの試験を受けられる様にはならないんだがな、今のあんたらの討伐記録、下位を除いてもCランク145体、Bランク67体、Aランク12体、更にSランク以上が4体だぞ? 寧ろ昇格しない方が可笑しいくらいの功績が溜まってるんだよ」
Cランクは、エリカの修行で入ったダンジョンで狂化した魔物、魔王城の道中で出現した雑魚、そして最近では黒妖狐達のことだろう。Bランクも同じ様なものだ。Aランクは、魔王城でも少し強かった雑魚やワイバーン、ダンジョン内で狂化していたボスだろうか? Sランクとなると、魔王城のフロアボスくらいしか思い出せないのだが、如何やらルピナやタマモの事だと思われる。
ルピナやタマモは倒していないのだが、無効化に成功したと思われた様で、勝手に討伐記録が記録される冒険者証に記録されていたみたいだ。
Bランクの昇格試験の返事は、まだ時間に余裕があるそうなので取り敢えず返事は保留にして、グロウ達は料理をたらふく食べた後に、この日はいつも宿泊している宿に帰ることにした。




