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22 退魔の剣

ポートフォリオ作るの怠い~_(┐「ε:)_

 ヴァカンの武具店を訪れた次の日、三人は依頼した剣を受け取る為に再び武具店に訪れていた。余程楽しみなのか、エリカは朝からそわそわしている。


 武具店に入ると、従業員と思われる男の案内で工房内に案内された。工房内には、まだ朝早い時間にも関わらず、真っ赤に熱せられた金属を叩くヴァカンがいる。


 ヴァカンはこちらに気が付くとハンマーを置いて、三人の元に近づいてきた。


「よく来たな。剣は出来ているぜ。使い心地を確認してくれ」


「ありがとうございます!」


 そう言うとヴァカンは、壁に掛けられている鞘に入った剣をエリカに渡す。長さと握りは大体エリカの魔剣である陽光の剣とほぼ同じで、エリカにとっては一番使いやすいであろう長さだった。


 剣を受け取ったエリカは早速鞘から剣を抜くと、まるで美しい宝石を見ているかの様にうっとりとその剣を見つめて、感嘆の声を漏らす。


「うわぁ~、とってもきれいです!」


 鞘から姿を見せた剣身は、陽光の剣と似ているが温かくも鋭い光沢を放っており、金色のダイヤモンドと言った美しい姿をしていた。剣身はかなり細かったが、不思議と折れる全く気はしない。


「そうだろう! まさか本当にこんな金属があるとは思わなかったぜ。兄ちゃん、本当に余った素材は貰って良いのか? こんな素材は見たこと無いが、それでもこんな上質な素材売れば一財産築ける筈だぞ?」


「俺が持っていてもしょうがない。生憎金にも困っていないからな。有効に使える奴に使ってもらった方が素材も幸せだろう」


「そりゃそうだが、随分と欲が無いんだな……」


 欲が無いと言うよりも、この程度の素材なら採りに行こうと思えば日帰りで採りに行ける。それに正直今の時代でこの鉱石がどの位の価値があるのか分からないので、下手に売って面倒な事になるのが嫌なだけなのだが、恩はいくら売っても損にはならないので気にしないでおく。


「まあ兄ちゃんがそう言うのなら、有難くこの素材は貰っておくぜ。今はそれよりも早くその剣を試してみてくれ。的は工房の奥に用意してあるからよ」


 そう言われて三人は工房の奥に目を向けると、確かにそこには頑丈そうな木偶人形が数体置いてあった。ヴァカンとエリカは待ちきれなかったのか、グロウ達を置いて直ぐに人形の元に向かう。


「その素材を使って剣を作った事が無いから、実はどれ程の性能が出るのか俺にも分からない。まあそれは見てからのお楽しみだな」


 グロウ達が到着したところで、エリカは新しい剣を構えて持ち手に力を込めて木偶人形を鋭い視線で見つめた。


「行きます! 【一閃】」


 目にも止まらぬ速さでエリカが木偶人形を斬り付ける。速度はダンジョンで放った【一閃】を遥かに超えていた。


 だが斬り付けられた木偶人形は微動だにしていない。ナケアは不思議そうに人形を見つめていたが、エリカは気にすることも無く次の木偶人形に、今度は剣技を使わずにそっと剣を右斜めに振り下ろした。


 剣は何の抵抗も感じさせずに木偶人形の中を進んで行く。そしてエリカの剣が木偶人形を通り過ぎた時、思い出したかの様にほぼ同タイミングで斬り付けた木偶人形と、先程【一閃】で斬り付けた木偶人形が半分になって地面に落ちた。


「何ですかこの剣!? 短剣の時と殆ど重さが変わらないのに、強度や切れ味は圧倒的に上がってますよ!?」


「そうだろう! だがこれはまだ序の口だ。嬢ちゃん、剣に魔法を当ててみてくれ!」


 ヴァカンが落ちている木偶人形の断面を指でなぞり、まるで鏡面仕上げをしたかの様に滑らかな断面になっていることを確認すると、冷や汗を垂らしながらも嬉しそうに魔法を使ってみる様エリカに指示を出す。


 エリカはヴァカンの指示通り、頭に疑問符を浮かべながらも剣に比較的周囲に影響の少ない水の魔法を発動させると、現れた水の弾を剣身に当てた。


 すると、水の弾は剣の刃に当たった瞬間真っ二つに両断され、二つの水弾はやがてそこには最初から何も無かったかのように弾けて消える。


「退魔の付与魔法(エンチャント)か。中々性能が高いな」


 エリカの持つ剣を鑑定の魔法で視て見ると、その剣には退魔の付与魔法(エンチャント)が付いていることが分かった。更にこの退魔の付与魔法(エンチャント)は、剣に危害を加える魔法のみに作用するらしく、上から新しい付与魔法(エンチャント)を掛けることも出来る。


 アダマンタイトとオリハルコンは魔力との親和性が高く、掛けられている退魔の性能も底上げされていた。新しい剣なので”剣霊”は宿っていないが、魔剣にならずとも充分魔王との戦いで活用できるだろう。


 未だに驚いて剣を凝視しているエリカは、恐る恐ると言った手つきで改めて持っていた剣を眺めた。


「こんな剣、私が持っていても良いんですか……?」


「俺も驚いたが、嬢ちゃんの剣の腕は親父さん譲りで見事な物だった。嬢ちゃんならこの剣の性能を全て引き出せるはずだ。調節ならいつでも請け負うから、持って行ってくれ」


 ヴァカンはとても良く似合う豪快な笑みをエリカに向けると、エリカは嬉しそうに剣を鞘にしまい、剣を最近漸く覚えた収納魔法の中にしまった。


「ヴァカンさん、本当にありがとうございます! 今度は絶対に折らないように、大切に使いますね!」


「おう! 兄ちゃんたちも、剣が要り様になったらいつでも来てくれな!」


「頼りにさせて貰おう」


「お姉ちゃんの剣作ってくれてありがとう!」


 そうして三人は、ヴァカンの武具店を後にするのだった。



 ◇



 三人は街で少し早めの朝食を摂ると、いつもの森の中に足を運んでいた。目的は勿論、エリカの新しい剣の検証だ。


 魔法剣士にとって実態を持つ剣は僅かであるが不便なので、出来るだけ早く”剣霊”を宿して魔剣にしてしまいたい思惑もある。


 森に到着したのでエリカが収納魔法の中から剣を取り出すと、剣を鞘から抜いた。収納魔法の中に物を入れておくと、入っている物体の質量分魔力を消費するので、後で腰に下げられるようにベルトでも買っておこうとグロウは心に留めておく。


「さて、それじゃあ始めるか」


「はい!」


【魔剣召喚:絶壁の護身剣】


 グロウはいつもの大剣を召喚して、エリカの前で構える。剣の検証は、剣を打ち合えば大体分かる物だ。剣に”剣霊”を宿らせるのも、打ち合った方が何かと効率が良い。


 それに魔法の威力が変換されたMPと魔力に依存するように、剣技は筋力や技能に依存する。筋力は一先ず置いておいて、技能を高めるには結局道具を使い続けるしかない事だし、寧ろここで剣を交えない理由が無いくらいだ。


「ナケア、一応周囲に結界を張っておいてくれ」


「はーい! 【白銀の光壁】」


 ナケアが聖術でグロウ達の周りに光で出来た結界を張った。これでどんなに暴れても周囲への影響は無くなった訳だ。


「いつでも来い!」


「行きます!」


 結界が張られると同時に、エリカはグロウとの間合いを一瞬で詰めると剣を振るった。だがその剣は、グロウを丸々隠してしまう程巨大な魔剣に弾かれてしまう。


 それでもエリカは動じずに、二撃三撃と角度を変えて剣を振るった。剣を振るう速度だけなら、現時点でグロウと良い勝負をするだろう。グロウには100年のブランクがあるとは言え、それを抜きにしても剣一本では、守ることに集中しないと押し切られてしまう可能性があるくらいだ。


 この状況を動かすために、グロウはエリカの剣戟を防ぎつつ、剣戟に合わせて思いっきり剣を振った。エリカの剣は強く弾かれて、エリカ自身も体勢を崩す。


「もう剣速は充分だな。次は剣技と魔剣を合わせて来い」


「分かりました!」


【魔剣召喚:陽光の剣】


 エリカは魔剣を召喚して、両手に剣を構える。この日の為に、エリカには二刀流での戦い方も教えてあった。エリカの筋力では鋼で出来た重い剣では二刀流が難しかったのだが、比較的軽量の魔剣や新しい剣ならば、弱めの身体強化でも充分扱える。


 そのままエリカは踏み込むと、今度は両手で【連閃】を使いながらグロウに斬りこんできた。ほぼ同時に二本の剣で六連撃を繰り出す。


「ほう、両手でも変わらず【連閃】を使えるのか」


 そう言いながら、グロウは大剣を自分の左側に突き刺した。そして左側の斬撃を全て大剣で受けきると、右側の斬撃を体捌きだけで躱す。三連撃ならばまだ隙間は多い。いくら剣速が上がっても、技の練度が上がらなければやり様は幾らでもあるのだ。


「何ですか、今の動きは!?」


「今のは、剣技の軌道を読んで躱しただけだ。要は慣れだな」


「慣れって……グロウさんてドラゴンですよね? それに人型になったのは私とこの街に来た時ですし、いつ慣れたんですか? そう言えば剣を使えるのもおかしい気が……」


 グロウは今、表情に出さなかった自分を心の中で全力で称賛していた。転生の事は今の所、妹であるナケアにすら言っていない秘密だ。と言うか、自分のドジで餓死して死んだらドラゴンになっていたとか、かっこつかない上に言っても信じて貰えない。


 これだけはバレる訳にはいかないので、グロウは必死になって言い訳を考えていた。そこで咄嗟に思いついた言い訳が――


「なんか、出来た……」


 エリカとナケアの白い目がグロウに向けられる。帰ったら本気で勉強しようと、グロウは額に手を当てて空を仰いだ。

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