20 休暇
明日はちょっと私用で休みます(>_<)
騎士の二人と出会った次の日の朝、三人はここ最近宿泊している宿屋の湖月荘を出ると、セルゲンレイクで多くの店が並んでいる大通りに足を運んでいた。
クライヴたちの話によると、魔王の討伐作戦が本格的に動き出すのは一ヶ月後になるらしい。その間に必要な戦力を整え、魔王の居場所を捜索するそうだ。
かつては魔王が出て来ても、優秀な魔術師や冒険者の手によって迅速に処理されていたのだが、やはり今の時代ではそれなりに時間がかかるのだろう。
魔王は狂化させた魔物を自らの配下として使役する。そして新しい魔王城としてダンジョンを形成するのだが、それまでは基本的に魔王自身が人に危害を加える事はない。
狂化した魔物を定期的に討伐していれば、一ヶ月くらいは保つだろう。
対策をクライヴたちに説明すると、直ぐに国中のギルドが狂化した魔物の討伐に協力してくれるよう、要請した様だ。
よって現在グロウ達は魔王関連でやる事が無くなり、修行をしようにも昨日魔力をかなり使ってしまった。体力の強化訓練をしても良いのだが、昨日は三人ともかなり無理をしていたので今日は休日という事にして、折角だからと街に繰り出していると言う成り行きだ。
適度な休息も立派な修行。そう思い、二人の希望もあってグロウもこうしてセルゲンレイクの街を観光している。ナケアは昨日から今まで以上にエリカに懐いていたので、今はエリカの隣で手を繋いで二人とも楽しそうに歩いていた。
「お姉ちゃん、あのお店は何?」
「あれは魔道具店ですよ。魔力で動く便利な道具とかを売っています」
「じゃああれは?」
「そっちは服飾店です。お洋服や装飾品なんかを売っているお店ですよ。そうです、折角ですから中に入ってみましょう!」
何となく疎外感を感じて寂しさを覚えつつも、グロウは二人の後を付いて行く。思えば、前世ではこのように誰かと街を観光などしたことが無かったと思い、こういうのも偶には良いなと二人の楽しそうな後ろ姿を眺めて呟いた。
店の中に入ると、中には様々な服や装飾品が並べられている。中は思っていたよりも広く、男性用から女性用、子供用から大人用の服や髪飾りなどの装飾品がずらりと並んでいた。
「そう言えばナケアには服を買っていなかったな。ここで何着か買っていくと良い」
ナケアは未だに、エリカから貰った白いワンピースを着ている。それでも十分に可愛いのだが、何かの拍子に着替えなければならない時も来るだろう。
それにまたいつこのような機会が巡ってくるか分からない。まあ、どうせなら着飾った妹の姿を見て見たいという好奇心が疼いただけでもある。
その様な下心もありナケアに言うと、ナケアは満面の笑みを浮かべて服を見始めた。
「エリカ、ナケアに服を選んでやってくれないか? 俺はこういう服は良く分からん」
「勿論です! ナケアちゃん、こっちの服なんてどうですか?」
こうして、エリカによるナケアのミニファッションショーが開催されたのだった。
三時間後――
「ありがとうございましたー! またいらしてください!」
ナケアの着せ替えを途中から手伝っていた服飾店の店員が、それはそれは良い笑顔で三人を見送っている。
「まさか、ここまで大事になるとは……」
そんな店員の笑顔を見ながら、グロウはドラゴンの身になって初めて覚えた疲労感にげんなりとしながら、大通りを歩いていた。
その手にはパンパンに詰まった紙袋を限界まで持っている。
「それにしても、ナケアちゃんの人気は凄かったですね」
いくら何でも買い過ぎだろう服の山を見て、エリカは店の中で起きた出来事を思い出して苦笑する。
どうしてこうなったのか、事の顛末は二時間ほど前、エリカの興が乗りナケアのファッションショーが開催されるまで遡る。
最初は三人だけで、楽しくこれは良いんじゃないか、あっちの方が似合うなどと話をしていると、当然と言えば当然に、ここの店の店員が話の中に入ってきた。
やはりこういう店で働いているだけはあり、その知識やセンスは本物だったので、その店員にも意見を聞きながら服を選んでいると、そもそも元がかなり良いナケアが可愛くならない筈もない。
というより、可愛くなり過ぎてしまったのだった。
最初はフリルの付いた白いブラウスの上に黒のジャンパースカートを着ているなど、良いところのお嬢さんといったファッションを重点的に探究していた店員とエリカの二人の元へ、その様子を見ていた別の店員がならば完全な貴族の御令嬢コーデにしてみないか意見を出し、ヘッドドレスやリボンのカチューシャなどを追加。
ナケアも楽しんでいたので楽しんでいたので任せていようと様子を見ていると、いつの間にか夢中になったエリカや店員の中に一般女性も混ざりだし、これも似合うだとかこれも着てみてだとか、ナケアに似合いそうな服を店に来た客全員で選ぶというカオスな状況が生まれてしまった。
その後にナケアは疲れたのかエリカの手を握ったままうとうとと船を漕ぎだすと、その様子を見て更に火が付いた客と店員たちは、寝ているナケアを全く起こさない様に一瞬で着せ替えると言う、無駄に洗練された神業を披露しながら、静かに、それでいて熱狂的に似合う服を店中から探し出してナケアに着せて、結果的に本当のファッションショーが開催されてしまった。
その状況が先程まで続き、店にある子供用の商品全てを試し終わった為、本当に残念そうに客たちが帰り始めたことで、こうしてグロウ達も漸く解放されたと言う訳だ。
似合いそうな服は店側が楽しませて貰ったお礼にと、結構値引きしてくれたので全て購入してある。眠ってしまったナケアは両手が塞がっているグロウの代わりにエリカが抱きかかえていた。服装は最初に着たフリルの付いた白いブラウスと黒のジャンパースカートに落ち着いている。
「丁度昼食時だな。何処かで飯にしよう」
「分かりました!」
丁度昼の鐘がなり、ついでにグロウのお腹も鳴った。服飾屋では店に来た女性客に押し潰され、気と体力を大分使ったのでそれも仕方ないだろう。ついでにこの服をアイテムボックスに入れるために、一度荷物を下ろしておきたかった。
三人はエリカの案内で湖の見えるオシャレなレストランに入る。その頃にはナケアも起きて、三人で談笑しながら昼食を食べた。
湖で獲れたと言う魚料理に舌鼓を打ちつつ、外の湖に目を向ける。太陽の光を反射して虹色に輝く湖は観光地の目玉として相応しい美しさだ。
美味しそうに料理を食べているナケアを見ても、100年ぶりに外の世界に出て来て良かったと思える。
前世ではダンジョンに潜ったり、国からの依頼をこなしたりと、何かと多忙な日々を送っていた。それが今ではここまで平和な日々を送ることになるとは思いもしなかったと、グロウは久しく忘れていた幸せを思い出して目を細める。
食事が終わり店を出た後は、三人で途中にあった武具店や鍛冶屋を見て回った。理由はエリカの剣を買う為である。
エリカの剣は魔剣以外だと、魔剣の元になった短剣しかない。それでは魔王相手に心許ないので、新しい剣を買うように言ったのだ。
幸い、費用はゴブリンロードの魔晶石を売ったことで大量にある。あんな歪な形をした魔晶石がまさか金貨500枚で売れるとは思わなかったが、金貨500枚もあれば家でも買えてしまう。
金遣いは心得ているが、装備に出し惜しみする程バカでもなければ金にも困っていない。どうせならエリカに合わせてオーダーしても良いとまで考えているくらいだ。
相変わらずエリカは遠慮していたが、そもそも冒険者にとっては命を預ける装備なのだから、少々強引にでも良い剣を持たせたい。ここは少々強めに言ってエリカには納得してもらった。
街にある中では最も腕が良いと評判の武具店に入ると、中には質の良い鋼で作られた剣や槍、盾などが所狭しと並べられている。
如何やら評判通りの店らしい。剣の作りはどれもしっかりした物だし、これならば後で付与魔法を施せば充分戦闘にも使えるようになるだろう。
グロウは店の中に並べられている武具を見て、どうにかオーダーメイド出来ないか交渉する為、店の店主を探した。




