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14 ダンジョン

「良し、取り合えず一時間は魔剣を維持できる様になったな」


「は、はい……」


 エリカに魔法を教えて一週間の時間が流れたある日、一時間魔剣を召喚し続ける事に成功したエリカは、肩で息をしながら座り込んで休憩した。


「お姉ちゃんお疲れ様! はい、これお水だよ!」


「ナケアちゃんありがとう」


 ナケアは水の入った水筒をエリカに渡す。ナケアはこの一週間で文字の読み書きができる様になっていた。まだ知らない言葉は多いが、一般的な生活に困ることは無いだろう。グロウなら精査魔法を使わなければ一ヶ月は掛かっていただろうに、元々ナケアは天才気質だが子供の記憶力は羨ましいものだ。


「ナケア、エリカの魔力を回復してやってくれ」


「はーい!」


 ナケアが元気に返事をすると、水を飲んでいるエリカに抱き着く。エリカは少し驚いていたが水を零す事無くナケアを受け止めると、直ぐにエリカの体が白く輝き出した。


「終わったよ!」


「本当にグロウさんと言い、ナケアちゃんと言い、反則ですよね……」


 すっかり魔力が回復したエリカは、未だに元気なナケアを見て妹を見る姉の様に微笑みかける。


 魔法は無から有を生み出す様な物では無い。必ず魔力を消費して魔法を酷使するのだが、魔力を回復させるのなら自分の魔力を相手に渡さなければならないのだ。それに魔力を受け渡す時、自分の魔力を相手の魔力へ変換するためにも魔力を使うので、他人の魔力を回復させようと思えば相手以上に魔力を消費する必要がある。


 ナケアは『聖龍』故に、ほぼ完璧に最小限の魔力で相手の魔力を回復させることが出来るが、それでもエリカが立っていられない程の魔力以上の魔力をナケアは消費している筈だ。それなのに未だ殆ど変わらず、ナケアは楽しそうにそこら辺を駆け回っている。


「ドラゴンの魔力量は人間とは桁違いだからな。それじゃあ動けるようにもなったし、行くか」


「行くって、何処にですか?」


「何処って、それは勿論ダンジョンだ」


 それを聞いた瞬間、エリカが笑顔のまま固まる。そして固まってから数秒後、エリカはぎこちなく口を開いた。


「え、冗談、ですよね……?」


「こんな冗談を言って何になるんだ? 安心しろ、既に討伐依頼は受けている」


 そう言ってグロウは、アイテムボックスの中から依頼書を取り出してエリカに見せた。依頼はダンジョン内に出てくるホブゴブリンの討伐。ホブゴブリンは、駆け出し冒険者が最初に狩る獲物と言われるゴブリンが成長し、体が大きくなった魔物だ。


 ダンジョン内に出てくる魔物は、定期的にこうしてギルドから討伐依頼が出される。これはダンジョン内にいる魔物が育ち過ぎて、適正ランク以上の力を付けさせない様にするためだ。


 もし適正ランクがDのダンジョン内に、BやAランクの魔物が居れば大惨事は免れない。まず間違いなく、そのダンジョンに入ったパーティーは全滅するだろう。


 ホブゴブリンのランクはE+だが、成長すればCランクのゴブリンロードになる可能性がある。今回の依頼は、その可能性を危惧したギルドの依頼だ。


「ホブゴブリン……それってDランクに近い魔物ですよね!? そんな魔物、グロウさんやナケアちゃんならともかく、私じゃ何もお役に立てませんよ?」


「何を言っている? エリカだってもうDランクの冒険者だろ? 精々Eランクより多少強いだけの魔物、もう単独で討伐できるぞ?」


「無理ですよ! 私魔物はスライムも倒したこと無いんですよ!?」


 エリカは無理だと首を振っているが、エリカは今日で一時間魔剣を召喚し続けることに成功している。それが出来る時点で、魔力量は既にC相当であり、体力もDを超えている筈だ。筋力は確かにまだ付いていないが、それも身体強化の魔法で補える。


 つまり現時点でエリカは、Dランクの冒険者以上の実力をつけているのだ。そしてエリカには既に、魔法剣士の基礎を全て教えていた。後は実戦経験を積んで、技術と自信を付けさせるだけだ。


「安心しろ、今のエリカなら負けることは無いし、勿論俺たちも同行する。もしエリカがヤバそうなら俺が助けるから、取り合えず一人で戦ってみろ」


「グロウさん達が見ててくれるなら、頑張ってみます!」


 エリカがやる気になってくれたところで、三人は依頼書に書かれていた近くのダンジョンに向かって行った。



 ◇



「おお~! お兄ちゃん、この洞窟魔力がいっぱいあるよ! これがダンジョンなの?」


「ああ、ダンジョンは魔素が自然に堪った結果発生した、魔物みたいなものだからな。普通の魔物を何匹も生み出せるだけの魔力が、ダンジョン全体に通っているんだ」


「へぇ~!」


 三人がダンジョンに着くなり、エリカはその周りをキラキラとした目で調べ始めた。そしてその隣で、ナケアとは正反対の悲痛な面持ちを浮かべているエリカは、何やら掌に人と言う字を書いて頻りに呑み込んでいた。


「そんなに緊張する必要は無いぞ? それに初めて来た訳じゃないんだろ?」


「それはそうですが、私は戦闘には一度も参加したことが無いので……やっぱり緊張します!」


 魔力が無ければ洞穴と見間違いそうな外観をしているダンジョンの前で、エリカは足が竦んで手は震えている。洞窟の先は見えないが、こういうダンジョンは恐らく外が見える場所に斥候をしているゴブリンが居るはずだ。


 そんなダンジョンの前でここまで震えていると、中のゴブリンが自分より弱い者と判断して積極的に襲ってくる。

 これは態々中の魔物を探す手間が省けて助かるな。


「灯りとサポートは俺たちがやるから、エリカは戦闘に集中しろ。行くぞ」


「分かりました!」


「おおー!」


 そして三人はダンジョンの中に踏み込んで行った。


 ダンジョンの中は日の光が届かず、奥に行けば行く程真っ暗になっていく。三人はナケアの放つ光を頼りに前へ進みながら、油断なく周囲を警戒していた。


 洞窟の道は一本道になっており、分かれ道や他の部屋などは無い。後ろから不意を打たれなくて良い分、探索はかなり楽だ。


 例え不意打ちを受けようと、殿を務めているのはグロウなので万が一にも被害が出ることは無いが。


 洞窟に入り日の光が完全に届かなくなった頃、エリカの探知魔法に三匹の魔物が映り込んだ。洞窟の暗闇で姿は見えないが、魔力の強さからホブゴブリンではなくただのゴブリンであることが分かる。


 ゴブリンの姿が見えないうちに、エリカは魔剣ではなくその元となった短剣を鞘から抜いて構えた。魔剣は召喚している間ずっと魔力を消費し続けるので、節約できる時はむやみに召喚しない方が良い。


 グロウの教えを守って短剣を構えたエリカは、ナケアの光に寄ってきたゴブリンたちの姿が見えるのと同時に、ゴブリンたちに斬りかかった。


「やあー!」


「「「グギャアッ!?」」」


 まさか闇の中から出てきた瞬間に反撃されるとは思っていなかったのか、三匹のゴブリンはエリカの放った剣を防御することもなく、綺麗に首を斬られて小さな魔晶石へと姿を変えた。


「本当に、倒せちゃった……」


 三匹のゴブリンを一瞬で倒したエリカは、信じられないと言った様子で落ちている魔晶石を見つめる。今まで魔物を倒したことが無かった分、今の驚きは大きい筈だ。エリカは何処か自分を過小評価するところがあるが、今のエリカはゴブリン程度の魔物なら10体出てこようと相手にならないだろう。だがそれ以上に――


「身体強化も随分自然に出来る様になったな。それにしてもその剣技、かなり洗練されている。確か父親が剣士だったな。相当腕の良い剣士だったんじゃないのか?」


 今のエリカの使った剣技は素晴らしい物だった。一瞬で複数の斬撃を繰り出す剣技【連閃】を三連撃まで繰り出し、寸分の狂いもなくゴブリン達の首を斬る。ここまでの剣技を使うには、エリカの才能の他にもその才能を伸ばした人物がいなければ不可能だ。


 剣の指導をしていたと言うエリカの父親は、相当腕が良かったのだろう。それはエリカの剣技の他にも、エリカの持っている短剣を見れば分かる。


「お父さんですか? お父さんは元Bランクの冒険者ですから、強かったと思います! でも私が物心ついた時から腕に怪我を負っていたらしくて、一度しかお父さんの剣技を見ていません……」


「一度しか見ていないのにあの剣技か。末恐ろしいな」


 重くなってしまった空気を物色するように、グロウは話を切り上げて先に進む。それに如何やら、全ての冒険者が弱体化している訳ではなさそうだ。エリカにここまでの技術を教えた父親が元Bランクの冒険者ならば、Aランクの冒険者は更にその上。そんな冒険者が居るのなら、突然強力な魔物が出てきて人類が滅びると言った事態はそうそう起こらないだろう。


 たかが狂化した魔物一匹で街が壊滅しかけていたというのに、これまで国単位の集団が維持できていた事が疑問だったが、強い奴は強いらしい。


 グロウはホッと胸をなで下ろし、そのままグロウ達の出番が来る事無く、三人は薄暗いダンジョン内を進んで行った。

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