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12 魔剣

「でも、魔剣って呪われているってよく聞きますけど、大丈夫なんですか?」


 エリカは心配そうに、グロウの前に突き刺さっている大剣を見つめる。


「確かに、魔剣は他の魔法と同じように制限を付ける事により、強力な力を発揮するものもある。俺の持っている魔剣の中にも”呪い持ち”はあるからな。だが自分で作った魔剣は、云わば()()()()だ。自分で制限を付けなければ、精々召喚中はずっと魔力を消費し続ける程度の欠点しかない」


 グロウが言うと、エリカはホッと安心した様に息を吐いた。この時代に【魔剣召喚】が無いとなると、この時代で魔剣と呼ばれている剣は、150年以上は残っている魔剣という事になる。本来【魔剣召喚】で作り出した魔剣は、魔法なので長い期間実体化してはいられない。


 それが実体化する程強力な魔力を取り込んだ魔剣となると、かなり強力な制限が掛けられているのだろう。そこまで強力な制限は使い勝手が悪く、あまり好まれていなかった筈だが、エリカが知っているという事はいくつか現存している様だ。


「取り合えず呪いについては後で説明しよう。まずは魔剣を作る。エリカ、使っている剣は持って無いか? 出来るだけ使い込んだ物が良い」


「使い込んだ剣……じゃあこれはどうでしょうか?」


 そう言うとエリカは、背負っていたバックの中から短い片手剣を取り出した。その柄は綺麗で上品な装飾が施されているがかなり年期が入っており、剣身は何度も打ち直された跡がある。一目で使い込まれていることが分かる短剣だ。ただ短剣の割には柄が長く、少し全体のバランスが悪い。


「これは?」


「この剣はお父さんの形見なんです……本当はもっと長かったんですけど、一度折れてしまってこの長さに……でも毎日の様に素振りや手入れはしています。これじゃダメでしょうか?」


 全体のバランスが悪いのは、一度折れてしまっているからか。だが一度折れていようが剣は剣。特に問題がある訳では無い。


「いや問題ないだろう。ではそこに魔力を流してみてくれ。さっきの様に魔法を使う時の様なイメージで大丈夫だ」


「分かりました!」


 エリカは手に持った短剣に魔力を込める。すると、手に持った短剣が淡く輝き出した。


「な、何ですかこの光は!?」


「ほう、その剣は魔力との親和性が高いらしいな。良い剣だ。次はその剣に宿る”剣霊”を引き出すんだ」


「”剣霊”とは一体何ですか?」


「”剣霊”は、剣に宿る魂の様な物だ。魔力を流していると感じるだろう?」


 グロウが集中してみろと言うと、エリカは目を閉じて集中した。魔力は体の延長線上にあるが、感覚は更に鋭く感じられる。魔力に触れている物は例え実態が無くても感じられる筈だ。


「剣の中から、何か温かい気配を感じる気がします。これが”剣霊”ですか?」


「そうだ。その感じた”剣霊”を、魔力と一緒に体の中へ取り込むんだ」


「やってみます!」


 エリカは目を閉じたまま、魔力を操って”剣霊”を引き抜こうとする。”剣霊”は実態こそ無いがあくまでも剣だ。その剣を鞘から引き抜けなければ、魔剣を作ることは出来ない。


 ”剣霊”は使用者を己で選ぶのだ。だからこそ、基本的には使い続けて予め使用者として認められた剣からしか”剣霊”を引き抜くことができない。


 もし引き抜けなければ、使用者として認められるまで剣を振るう必要があったのだが、エリカがそうなることは無かった。


 持っていた剣の放っていた輝きが、エリカの中に吸収されて行く。


「引き抜けたみたいだな」


「何か、剣の中にあった温かい物が、私の中に入って行った感覚がありました」


「”剣霊”がエリカの中に宿ったんだ。まさか一回で上手くいくとは思わなかったがな。相当その剣を使い込んだんじゃないのか? そうでなければ、エリカの魔力量で”剣霊”を引き抜く事は出来ないからな」


 ”剣霊”を一回で引き抜ける者は、実は結構少ない。家が騎士の家系で、幼少期から剣を振るっていた様な者でも、”剣霊”を一回で引き抜く事は出来ないだろう。その理由は、同じ剣を何年も使い続ける事は出来ないからだ。


 ”剣霊”は一つの剣に一つしか宿らない。一度でも剣を変えれば”剣霊”も変わる。変わった”剣霊”に認めてもらうまでまた剣を振り続けなければならないので、【魔剣召喚】はこの”剣霊”を引き抜く事が一番の難関になるのだ。


 魔力量に物を言わせて無理矢理引っ張り出すことも出来るが、グロウでもそれが出来る様になるまで20年掛かった。それはエリカにはまだ不可能、つまりエリカは最低でもその剣を何十年も使い続けており、並々ならぬ努力を続けてきたのだろう。


「私のお父さんは剣士だったので、私にも剣を教えてくれて、毎日この剣で剣の練習をしていたんです」


「なら、剣の形を教える必要はあまりなさそうだな。それじゃあ魔剣を作ってみるぞ」


「いよいよですね!」


 ふんすっ! とエリカが気合を入れる。グロウの予想では、この時点で日が暮れていると思っていたのだが、予想以上にエリカの飲み込みが早い。グロウは黒板に見立てた岩に魔法陣を刻むと、エリカに説明しだした。


「これが魔剣を作る為の魔法陣だ。この魔法陣を自分の足元に刻んでみろ」


「こんな感じですか?」


 エリカは足元に、グロウが刻んた魔法陣と同じ魔法陣を刻み込む。魔法陣を使えば、例え構築理論を知らない魔法であろうとも、魔力を込めるだけで使える様にすることが出来る。この魔法陣の構築理論を一から説明しようとすると一年や二年では足りないので、ここは時短させてもらう。


「良い感じだ。次はその魔法陣の中に、さっきの”剣霊”を宿した魔力を送り込むんだ」


「分かりました!」


 足元に刻まれた魔法陣に向けて、エリカが魔力を送り込む。すると魔法陣が魔力の光で輝き出し、魔法陣の中からエリカの持っていた短剣の柄を持った、細身の片手長剣が出現した。


「こ、この剣は! 折れる前の剣ですか!?」


 エリカが驚いて魔法陣から出現した剣を見つめる。やがて魔力の供給が終わり、魔法陣から光が消えると、エリカの足元には僅かに剣身から金色の光沢を放つ片手剣が突き刺さっていた。エリカの持っていた短剣はバランスの悪い形をしていたが、今エリカの足元に刺さっている魔剣の形は見事の一言に尽きる。


「その剣は”剣霊”の姿だ。魔剣の第一段階と言った所だな」


「第一段階? それじゃあ、これ以上にも段階があるんですか?」


「ああ、魔剣は魔法だ。使えば使うほど研磨されて強力に、そして体に馴染む様になる。例えばこの大剣だが、実は元々ナイフの様に小さな短剣だったんだ」


 グロウは地面に突き刺さったままの大剣を担ぎ上げ、「信じられないだろ?」と言った目をエリカに向ける。


「その大剣がですか!? それによく見たらその大剣、中にとてつもない量の魔力を感じます! どうして今まで気が付かなかったんでしょう?」


「それはエリカの魔力が、さっきの魔法酷使で周囲に散っていたからだな。エリカの魔力が俺の大剣に触れたから、俺の大剣に含まれている魔力が分かったんだろう。因みにその技術を応用したのが探知魔法だ」


 今この場所はエリカの魔力に満ちている。この場所だけならば、エリカは目を閉じていても問題なく行動できる筈だ。


「取り合えず、これでエリカの魔剣が出来上がったな」


「これが、私の魔剣……うぅっ……!」


 地面に刺さったままの魔剣を引き抜き、エリカはその魔剣をまじまじと見つめる。するとエリカは唐突に泣き出してしまった。


「お、おい! どうして泣くんだ!?」


「いえ、一度折れてからもうこの剣の姿を見る事は無いと思っていたので、嬉しくて……」


 そう言えば、あの短剣は父親の形見だと言っていた。その形見が折れてしまって諦めていた所、思いがけず元の姿の剣を見て、泣いてしまったという事か。


「どうせなら使い勝手を確かめてみろ」


「はい!」


 今度は満面の笑みを浮かべて、エリカは剣を構えた。その構えには隙が無く、相当練習していることが窺える。そしてエリカは何度か剣を振ると、直ぐに息を切らせて座り込んでしまった。


「ふむ、剣筋は素晴らしいな。剣速も悪くない。ただ魔力と筋力は要修行だな」


「え、えっと、どうしてこんなに直ぐ、疲れるんですか……まだ数回、剣を振っただけなんですが……」


 疲労困憊と言った様子で、エリカは持っていた魔剣を見る。魔剣は先程までとは違って半透明になっており、直ぐに消えてしまった。


「ああ、剣が……」


「魔力切れだな。魔剣を出現させている時は、常に魔法を使っているのと同じ状態なんだ。だから、魔力が尽きれば剣も消える。魔力が回復すればまた出せるようになるから、それまでは休んでいると良い」


 エリカはこくりと頷くと、その場で大の字になって寝転がった。エリカはナケアとの鬼ごっこで基礎体力は十分に付いていたが、今までろくに魔法を使っていなかった様なのでやはり魔力量が多くない。


 グロウはこれからエリカをどう特訓するのか計画を立て、エリカを待っている間に受注していた薬草採取をするために、森の中へと入って行った。

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