黒の異形
「……ツク」
体のあちこちが痛む、頭が揺れているようだ。
「海か……ここ、どこだと思う?」
俺より先に起きていたのであろう火村が、わけのわからないことを言い出す。
「何言ってんだよ、見るからにさっきまでいた駅だろうが」
「だってあそこの」
「そんなことより火村、皆が起きたみたいだぞ」
何かを言いかけた火村を放っておいて起きた皆の様子を見る。
「皆特に外傷はないみたいだな」
「でも体が痛むな」
皆同じように体が痛いらしく、白井が言った言葉に黄雷と黒田が同じくと反応する。
「陸と渚は?」
「大丈夫」
「ちょっと痛むけどね」
陸が大丈夫そうで安心した。
「とりあえず状況を整理しようぜ」
白井が皆をまとめはじめる。
「まず皆が走ってくる電車を見たのは間違いないな?」
全員が頷く。
「それじゃああの電車は幻じゃ無いのは確かだ、でも外傷らしい外傷が無いのも確かだ」
「でも強い衝撃は感じたわよ?」
「そうなんだよ、渚の言った通り衝撃は確かにあった、要はこの時点でいくつか矛盾店が出来ている……、なんか他に思い当たるところがある人いるか?」
「なんかあそこのえぐれてたとこが」
「なんかここに来た時と雰囲気が変わってる気がする……」
「さっきも言ったけど陸はちょっと霊感あるからな、信用できるな」
「このシスコン野郎!さっきから無視されてんのは俺に信用無いからか!?」
「じゃあこの辺り探索してたらなんかわかるんじゃねえのか?えぐれてた所とか(笑)」
「黒田まで無視しだした!?しかも俺が言ってた事自分の手柄にしようとしてやがる!」
「どっちの手柄でもいいけどえぐれたとこがどうなってんだよ」
全員がえぐれていた所に視線を向けると……
「……えぐれて、ない?」
俺の言葉に皆が反応する。
「じゃ、じゃあ私達がいた駅とは違う所ってこと?」
「黄雷がビビるって珍しいな、つまりはここはあの浦見駅なんかじゃないってこった」
火村がおちょくりながらも冷静に分析している。
「これは、ちょっとここを出て探索した方が、」
――――!?
白井が話していると突然、何故か背筋に冷気が走った。
ここにいる全員が冷気を感じたようで……
「今の冷気は……」
「扉の先からかな……」
俺が恐怖で動けない中、白井と黒田は恐怖を無理矢理押さえつけてしゃべっている。
扉と言うのは改札のあるホールと、線路のあるホームを分離させている扉のことだろう。
俺はどこからの冷気か見当も付かなかったが、余裕があったのか二人には分かったようだ。
「ちょっと様子を見てくる」
「俺も行ってくる」
白井と黒田が扉に向かって行く。
「じゃあ私も」
「ダメだ。危険なことは年上のお兄ちゃんに任しときなさい」
行こうとした黄雷を火村が止めて代わりに行く。
「ちょっと待てよ!」
「待って!行っちゃ駄目!」
火村と陸がそう叫ぶと同時に、白井と黒田は扉の先を覗いた、その二人の少し後ろで火村は追いつき、俺を含め、他の皆は離れたところで三人を見守っている。
俺が話している途中だったからかすぐに分かった。
「やっぱり変な感じがするな」
「黒田は霊感あったっけ?」
「……ないよ……たぶん」
「そっか」
「それじゃ開けますか」
俺と黒田はゆっくりと扉を開けた。
正面には何もないようだ。
「なんだ何もいねーぞ」
「でもこのホール横にも広かったはず」
俺がそう言うと黒田はホールを覗き込もうとした。
俺も一緒に覗き込もうとすると……
「ちょっと待てよ!」
「待って!行っちゃ駄目!」
後ろから大きな声がした。
二人の言葉が誰に向かって言われたのかは分からないが、その言葉に反応するにはもう遅かった。「「……ツ!?」」
覗き込んだ先にいたのは、まるで雲のような、黒い、形のままならない、まさに異形ともいうべき何かだった。
ザアアアアア
まるで砂のように形状を変えた何かはまるで……怪物の牙。
「っぶねぇ!」
「うおっ!」
ガキィィン
「戻るぞ黒田!」
「わかってる!」
何かはまるで水のように成形されていた形を崩し、スライムのように集まっている。
今がチャンスだ、俺と黒田は全力で後ろに下がった。
ガキィィン
「なんだ!?」
大きな音と共に白井と黒田の騒ぐ声が聞こえる。
「「みんな逃げろー!」」
「なんだ?どうしたお前ら!?」
慌てて戻ってくる白井と、困惑する火村。
「「はぁはぁ」」
「ど、どうしたの?」
渚が二人に開きながら水を渡そうとすると、白井が慌てた様子で扉の方に指差した。
皆が扉の方を見ると……
「ひっ!?」
「なんだあれ!?」
黒い何かと……
「お兄ちゃん!」
取り残された火村。