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創造世界紛争  作者: 浅見洋
1/6

風の列車

「ああ、この風が俺のこの暗い気持ちを洗い流してくれる……」

「わけないだろーがぁぁ!」

 俺は思惟(しい)、よく考えて行動できるようにと親がつけてくれたらしい。

 俺は今絶叫している。

 でもその願い通りになったことはない。

「おいおい思惟、いきなり身もふたもないこと言うなよ、風がかわいそうだろ」

 こいつはガイ、中学からの同級生だ。

 いや、同級生だった。

「おいガイ、お前よくこの状況でも俺をいじりにこれるな」

 害は俺に憎たらしい目を向けながら、

「だってお前昔自分で、俺ダイヤモンドメンタルだからぜってー傷つかんわ、とかほざいとったやん」

 まじでこいつ殴りてえ。

「さすがにこんな時まで傷つかんかったらもう病気だからね?ガイ君」

 こんな時とは何なのか、それは約一週間前までさかのぼる。


*  *  *


「「は!?」」

 俺とガイは唖然とした。

 開いた口が塞がらないとはまさにこのことをいうのだろう。

 俺たちが見ていたのは成績表、ここまで来たら流石に何があったのかわかるだろう。

 そのとおり。

「単位落としてるんですけど」

 体感一分、実際は五秒で俺は声を発した。

「おいやべえってこれマジでやべえやつだって」

「おい待て、そして落ち着け」

「先生にヨバレテメンダンヤッテオヤガキテ……」

「おい思惟、途中から片言になってるから、あとそれ完全にフラグだから!」

「オトシテナイボクタンイオトシテナイ、タンイノサトリヲヒラクンダ、タンイタンイタンイ……」

「現実逃避するな、そしてそんな悟りを開くな!」

 ゴッ

 ガスッ

 二つの鈍い音が頭に響いた。

 おそらくガイが頭でも叩いてくれたのだろう。

 頭をうずめながらも視界の隅にガイが拳を握っているのが見えた。

「おいガイ、俺どれぐらい放心してた?」

 俺が顔を上げてガイを見てみると、ガイは俺の後ろを見つめて戸惑ったような表情を浮かべていた。

「ん?どうした?」

 ガイは無言で自分の席に戻っていった。

 ガイは軽く手を振っていた。

 その瞬間俺の頭は状況を理解するために高速回転を始めた。

 まず、二つの鈍い音。

 ん?二つ?

 それにガイが後ろを見ていたのは?


 あぁ、やっとわかった。

 さっき自分でも言ってたのをかろうじて覚えてる。

「思惟君、ちょっと生徒指導室へ来なさい」

 先生は軽くつぶれた日誌を持ちながらそう言ってきた。

 そして俺は心の中で叫んだ。

 ぜってーちょっとじゃねーだろ!


 俺は生徒指導室に連れていかれた。もちろんのごとく説教である。

「思惟は授業態度は悪くないんだけどねぇ、得点がほんとにひどい」

 ほんとにひどいとまで言っちゃいますか。

「二年生終了時点で英語だけで追試が十三回、一番いい数学ですら二回、なんでできないのかなぁ」

 そんなにやってたのかよ、ショックを通り越して清々しく思っちゃうわ。

 実際先生は怒るどころか笑ってしまっている。

 ただし留年になるのは嫌だから抵抗はしてみる。

「でも先生、俺ちゃんと追試はこなしていますよ?」

「英語に関して定期テストすべてで二回以上追試を、やってて単位をあげられるわけないだろ」

 そう言われるともう抵抗する余地がない。

 ツカツカ

 くっそ、ついに来やがったか。

 俺にとって一番この場にいられて都合が悪い人物、母である。

「すいませんお待たせしました」

 ずっと待たされてもええんやで?

「よくいらっしゃいましたお母さん、どうぞ席におつきください」

 あぁマジで憂鬱ゆううつ

「それで思惟に卒業できる見込みはあるのでしょうか?」

 いきなりひどいな、普通何とかならないのでしょうかとか聞くだろ。

「せめて追試が一回で終われば可能性はあります、それに今回も進級できる可能性はしっかりありました」

 え?そうなの?

「今回留年になったのはテストだけではなく、遅刻と追試を受けなかったときがあったからですね」

「でもその追試は後で受け直しました……が」

 その瞬間からものすごい殺気を感じた。

「思惟、あなたは点数が伸びないからそれ以外はしっかりしなさいってはっきりと言ったわよね?」

 母は微笑んではいたがその背後にどす黒いオーラを漂わせていた。

「まぁ思惟君が一生懸命やっているのは提出物を見てれば分かるので、単純に頭のスペックが足りないのかと」

 それだけストレートに言われるとは思ってなかったよ。

残りの面談は勉強法の提案だったがすでに全部やったことがあるものばかりだった。


 帰りの車の中でももちろん説教が始まってしまった。

「なんで遅刻とかしちゃうかなぁ、前から言ってたよね?しかも遅刻のせいで留年になっちゃてるんだよ?」

 こんだけ怒ってるともう俺の声は届かないからどうしようもない。

 でも毎回すぐに治ってるから今回も明日には治っているだろう、と思っていた。

 でもその時からその怒りが収まることはなく、俺は愚痴のマシンガンを食らい続けた。


*  *  *


 そしてそのマシンガンから逃げるためにこの自転車で二時間かかる辺鄙へんぴなところに来たわけである。

「わかってるよ、でなきゃこんなところまで来ないしな」

 ちなみにガイが辺鄙なとこに来た理由は……

「もしかしたら励ましてくれるかも、とかまんざらでもないこと思って呼んだ自分が馬鹿だったよ」

「え?俺らの関係ってけなしあって築いていくものじゃないの?」

「そ、そうだな」

 それは確かにそうだ、俺たちはこれまでもそうやってお互いを知っていった。

 でも何だろう、この心の中のもやもやした感じは。

「それにしても、なんで遅刻やら、追試やらなかったりしたんだ?」

「……お前それは本気で聞いてる?」

「これは本気で聞いてますけど?」

 え?マジで?この人本気で聞いてるの?

「……」

「あれ?もしかして俺のせいでやらかしちゃった感じ?」

「よし、お前がなにしたか分かりやすく説明してやろう」

「しなくていいですけど」


*  *  *


 あれは夏休み直前の終業式の日。

 俺はいつものように自転車で登校していた。

「明日から夏休みか、結局テストの追試は夏休みまで持ち越しだよ」

「おーい思惟―、一緒に行こうぜー、ちなみに拒否権はない」

「なら聞くな。一緒に行きたいなら勝手についてこい」

 こうやっていつもと同じ会話をしていた時、事件は起きた。

「思惟は家から学校まで一時間もかかるんだろ?よくやってられるよな」

「なんだ急に、同情か?」

「んーまあ、そんなところだ」

「もう長いこと通ってて慣れちまったからな、一時間走るのが凄いのかどうかわっかんねえや」

「感覚が完全に狂っちまってるな……あ!やべえ俺今日体育当番じゃん!ちょっと先に行ってくる!」

「は?待て待て、今日は終業式だからそもそも授業がないぞ……行っちゃったよ、後でいじってやろう」

「それにしてもそんなに一時間って長いのか?ちょっと意識してみるか」

 あと二十分、あと十五分…

「よし、この横断歩道を渡ったらあと十分ぐらいだな」

 確かに意識してみると随分長く感じるな。

 俺がそう思っているとついに事件が起きた。

「くらえ思惟―!」

 ガッシャーン

 二人の自転車が勢いよくぶつかった。

「ガイてめぇよくもやってくれたな!」

「逃げるが勝ちだー」

 ガイはすぐに自転車を直して走っていった。

 もちろん俺もすぐに直してガイを追いかけた。

 バキッ!

「あれ?うわっペダルが折れた!」

 割れ目がさびていたからさっきの衝撃で折れたのだろう。

「くっそ、母さんに電話して車で送ってもらうか…ってスマホ家に置いてきたんだった!」


*  *  *


「後は自転車を押して学校に行ってもちろん遅刻だ」

「次の日から夏休みだったから俺知らなかったんだな。ちょっと罪悪感あるからもう帰るわ、もうすぐ電車来るから気をつけろよ」

 ガイはそう言って自転車で去っていった。

「ガイ、俺はその電車に乗るためにここにいるんだぞ」


*  *  *


 二十分後やっとその電車が来た。

「そういえば、ガイに追試のほうの話するの忘れてたな」

「まあいっか、しばらくたてばいくらでも話せるし」

 俺は電車に乗り込んだ。

「なんで最後に心配するんだよガイ、乗るのにちょっと戸惑っちゃったじゃないか」


 風たちはその電車をためらいなく、高く高く押し上げ続けた。

 複雑なグレーを乗せながら。


*  *  *


「昨日、浦見(うらみ)思惟さん、十七歳が電車にはねられ死亡しました。警察は自殺とみて調査を進めています。


Bad end

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