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目指すは、屋上。 *紘太 おまけ

こういうことに対しての、うだうだはまた別なのであって。


 彼女のいない歴いこーる、年齢の俺にとっては、いくら友達の妹とはいえ、年頃の女の子に名前で呼んでもいいですか?

 なんて、気軽にたずねることなど出来ないのであって。

 

 翔平に向けて、本人の許可を取ったらな、なんて。

 あ、俺かっこいいこと言った。なんて思った言葉を、まぁ、あれ。


 別に本人がいない場所では、なんて注釈をしてなかったし、と言い訳こいて。

 翔平の意を汲んで、本人の前以外ではめいちゃん呼びをしているのだけれど。


 やっぱり、こういうことはなんだかまさしく青春漫画の青春ごとく、初めて友達を名前呼びにする時に似た、けれどそれ以上のこっぱずかしいものがあり。


 いざたずねようとすると、どもってしまう不思議。

 翔平と話してから一年経った今でもまだ、ご本人の前でははっきりと呼びかける事は出来てはいない。


 だがしかし、今日の俺は違うのだと決意を込めて聞いてみる。


「あの、さ」

「はい?」


 何度かこんなやりとりをしたような気がするけれど、それはデジャビュ。

 気のせいだ、とせいいっぱい強がって純粋無垢なるめいちゃんの瞳に耐えながら、聞いてみる。


「めいちゃん、って、呼んでもいいかな?」


 俺のせいいっぱいの問いかけに、めいちゃんはきょとりという顔をして。

 すぐにかえっては来ない返答に、あ、やっぱりいいです、なんでもなかったです、ゴメンナサイと謝りたくなっている気持ちをぐっ、と堪えていると。


 一転、花が咲いたような笑顔になって、力強く許可をくれた。


「はい! もちろんです!」


 そんなめいちゃんに、調子に乗った俺はついつい言ってしまったのだ。


「俺の事も、紘太でいいからね」

「あ……。えと、あの」


 今度は躊躇うような表情に変わっためいちゃんに、調子に乗りすぎだばか野郎め! と自分をののしりつつ。

 けれど、むしろ一年そこらでご本人に名前呼びの許可をたずねられた俺を褒めるべきだ!

 本来翔平よりはましであるものの、こと女の子に対して意気地のない俺が、よくぞここまで頑張ったものだ。


 と、悪態をついた片方で自分自身を慰めながら判決の時を待つ。

 判決人はもちろん、俺の目の前で何やら迷っているような、申し訳ないような顔をしている、はれてその広い心で名前呼びを許してくれためいちゃんだ。

 

 ただ俺は、めいちゃんのお言葉を待っているしかなく。

 そんな馬鹿なことをつらつらと考えていると、めいちゃんはこれまた躊躇い交じりに、口を開いた。

 その頬は、何やらあかい……?


「あの、」

「うん?」


 なにやら、思っていたような状況ではないのかも?

 少しばかりマイナス思考に傾いていた思考に、光がさして。


「かってに、なんですけど」

「うん」


 少しずつ話してくれるめいちゃんに、はやる心を抑えつつまぁ、待てと自分を宥めながら続きを聞く。


「願掛け、させてもらっていて」

「何を?」


 いよいよもって、これは俺が責められるような状況ではないぞ、という確信に安堵しながら


 願掛け?


 どういう事だろうと不思議に思いながら、めいちゃんの口から出てきた言葉に問い返す。

 すると、…………姉さん、事件です。


「私が、先輩と同じ高校に入ったら、紘太先輩って呼ばせてもらってもいいですか?」


 ほっぺを先ほどよりも赤く染め、恥ずかしげに視線を逸らすめいちゃんに、俺が落ちるのはたやすいことである。


 秒殺であった。


 しかしそれに耐えて、とてもドキドキしているだろうめいちゃんが、耐えきれなくなる前に返してあげなくてはいけなくて。

 俺は、心の底から湧き上がってくる喜びに顔をみっともなくも緩ませて。


「よろこんで」

 

 これはもう、むしろお願いしますと俺の方から頭を下げるべきな事件でした。



 ◇◇◇


 拝啓 居もしない想像上の姉さんへ。


  あなたの不肖の弟、紘太は只今とっても幸福の中におります。


 敬具  あなたの弟設定の紘太より。


 ◇◇◇


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