目指すは、屋上。 *紘太
午前の授業が終わり一気に騒がしくなった教室で、同じクラスの友達と昼飯をとり。
人心地ついたと何の気もなく空へと視線を向けると、屋上に人影が一つ。
大っぴらに開けられている訳でもない屋上は、限られたやつだけが入り込む。
あまり真面目ではないやつ等が、教師に見られるとあまりよろしくない事をしたい時とか、ちょっとばかり一人になりたいやつとか。
そんな所で柵に腕をのせ寄りかかっていたのは、クラスは残念ながら違うけれど、高校に入ってから知り合い、なんだかんだと意気投合した友人。
昨日なんて家に招かれ、美味しいお菓子を妹さんに出してもらい、なおかつお土産までいただくという。
帰ってから食べさせてもらったそれもまた、当たり前だけれどそれはそれは美味しくて。
十分楽しませてもらい、美味しい思いもさせてもらった相手だった。
まぁ、つまり翔平という訳で。
「んー」
なにやらぼうっとしている翔平を、机に片肘をつきながら眺め、少し悩み。
視線を一転教室へと向けてからよしと、立ち上げる。
「紘太、どうしたー?」
「ちょっと野暮よー」
「いってらー」
「おー」
そんな紘太にかけられた友達たちの声に、適当に返したならばこちらも適当に返されて。へらりと緩んだ顔で歩き出す。
目指すは、屋上。
よっ、と。
入り方はそこにいる本人から聞いていたのだけれど、実際入るのは初めてで。
慣れないことなので、少しばかり手間取りながらも屋上へと入り込めば、さっきまで見ていた通りの姿の翔平がいる。
「翔平」
「おー、こーた」
声をかければ、驚くことなく気楽に帰ってくる返事に、肩をすくめ近くによった。
「昨日はありがとう。美味しかったって、妹さんに伝えてくれる?」
「だろだろ、めいちゃんはお菓子作りもご飯づくりも最高だからなー」
ちなみに、昨日お前が帰った後の晩ご飯も素晴らしかったです。
きっちりと、顔を見なくともステキな笑顔を浮かべているであろう弾んだ調子で返されて。このシスコンと呆れながらも、でもあの美味しさはそうなるよなと納得してしまいそうになる。
入り口から足を進め、ここでいっかと翔平の隣まではいかずに少し手前で腰を下ろして。
「あのさ、」
「うん?」
教室から屋上に一人でいる翔平を見て、邪魔しちゃ悪いなとも思ったけれど。
本当に一人になりたかったらあんな無防備に姿をさらしちゃいないだろ、と思い。
ちょうどいいなと押し掛けたのは、聞きたいことがあったから。
「どうして俺選んだわけ?」
妹さんが言うほど友達がいないわけでもないはずなのに、どうして俺を家に招いたのか率直に聞いてみる。
あんまりうだうだするのは好きではないし。
そんな俺に、翔平は苦笑いをもらし話し出す。
「俺さぁ、こんななりしってからそこそこモテちゃうわけですよ」
「突っ込みたいけど、突っ込めない」
「おう。事実だろ」
「悔しいけどな」
どこか自信満々に告げてくる翔平に、素直に頷いてやる。
確かにこいつの顔はいい。顔だけでもないけれど。
「そういうところ」
「うん?」
おかしそうに、笑い声を耐えるように。
けれど吹き出しながら答えた気になる翔平に、まだ意味不明だぞ、と首を傾げ先を促した。
「だからね、中学時代とかちょっと大変だったわけ。年頃になった女子が色づいちゃって、あげくに男には嫉妬されるし」
「…………」
「俺もさ、めんどくさいの嫌いだから陰でこそこそ言われたりするより、面と向かって言ってほしいわけよ、男の子ですから」
「まぁ、確かに」
「でもな、それがなかなかできるやつって少なくてね、そこいくとどーよ、紘太君」
「俺?」
「お前、素直じゃん」
自分が思う分にはいいけれど、なんだろう。翔平に言われると、なんだか……
「……なんだろう、バカにされてる気がする」
「褒めてんの! お前だったら、いいかなって」
「ったく」
呆れたようなため息を思わず吐いてしまいながら、そこは素直、である俺はまぁいいかと流してやって。
結局は、俺を認めて? くれているって訳だろうし。
「それでさー、」
「うん?」
何やら続いた言葉に、今度はなんだと促すと。
預けていた体を柵からはなし、むこうを向いていた体を反転させ、こっちを向いて口を開く。
「妹とか言ってんの聞かれたらめんどくさそうだからさ、出来たらめいちゃんって呼んであげて」
「本人がいいって言ったらな」
「おう! ってことで、また来週うちこいよ」
「いいのか?」
「めいちゃんも喜ぶよ、俺のために」
自信満々に大きく胸を張り、断言する翔平に昨日の妹ちゃんの様子を思い出し頷いた。
「愛されてますね」
「うらやましいだろ」
俺の言葉に、それはもう喜んでいる翔平を見ているとほんの少し悪戯心がうずいてしまう。
「……そんな愛されている翔ちゃんの、初めてのお友達として優しくされる俺。うらやましいだろ」
「まったくだ」
隙もなく真顔で頷いた翔平に、あぁ、本物のシスコンだ、と若干引く気持ちも無きにしも非ず。