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七不思議


「懐かしー、我らが母校っ!」

「ってさっちゃん、この前卒業したばっかりだよ」

「あ、それ言っちゃう?」


 言っちゃうの? となんだか楽しそうに繰り返すさっちゃんに、つられて笑う。

 するとさっちゃんは不意に、そういえばと先日卒業したばかりの中学校へと視線を向けて呟いた。


「ねぇ知ってる?」

「ん? 何を?」

「私の卒業した小学校でさ、七不思議があって」

「……それって、怖い感じだよね?」

「そりゃあ七不思議だからね」


 気軽に尋ねた私の言葉に返ってきたのは、あまり嬉しくはないお言葉。

 恐る恐ると、否定してくださいと願いながら続けて尋ねたけれど、やっぱりあっさりと返された嬉しくないお言葉。


「でも、わりと新しいので卒業式関連のやつができたみたいで、それは怖くない」

「そつぎょうしき」

「そうそう。まぁ何か卒業式の日の夜に、女の人が校庭で泣くよってやつなんだけど」

「…………」


 充分怖そうです、さっちゃん。

 あんまり聞きたくなかったなぁと、詳細を聞いたわけでもなく思ってしまうのは、そういうのがとても苦手だから。

 けれど、さっちゃんは次に驚くことを口にした。


「私、見ちゃったんだよね、ソレ」 

「え」

「いやあー、よりにもよって卒業式の日に学校に忘れ物しちゃってさ、取りに行ったんですよ。とある物を」

「とある物」

「まぁ、それはおいといて」


 むしろ七不思議の方を、おいといて欲しかったなぁと思ってしまう。


「夜っていうか、夕方だったんだけどね。桜の木の根元で号泣してる女の人がいたんだよねぇ。なんか、出たかったとかなんとか言ってて。危ない人かと思って先生に言いに行ったらさ、複雑な顔してほっといてやれって言われて。むしろ卒業した日に忘れ物かよって私が呆れられたんだけど。とんだとばっちりだった」


 まったくもーと、七不思議どうこうよりも先生に呆れられた事に焦点をおいているさっちゃんは大物だ。


「って、先生達も知ってるの?」

「そうそう。だから所詮、七不思議なんてデマよデマ。ほら、怖くないでしょう?」

「うーん。まぁ、そうかも?」


 首を傾げながら、夜じゃないし、実際実在した人だったみたいだし?

 何だか別の意味で怖いような気もするけれど、七不思議の不思議ではないから怖くはないかな。確かに。


 というか、さっちゃんの母校と言えばつまり私の母校でありまして。

 小学校が一緒だったってわかったのは、中学二年になってからだったのだけれど。


「ちなみに、どんな人だったか覚えてる?」

「おっ? 興味出た?」


 こういった話題には踏み込まない私の問いかけに、意外そうにさっちゃんは言ってくるんだけど。


 なんだか、なんだかね。

 ちょっと、予感めいてしまったのだ。


「んーとね、髪はそんな長くなかったかな。セミロング? で、なんかスーツ着てた気がする」

「すーつ」

「ちらっと見えた顔はねー、美人さんだった」

「びじんさん」

「あれ? そういえば」

「…………」


 さっちゃんから教えてもらうごとに当てはまっていくピース。

 その言葉を繰り返していけば、さっちゃんも、気づいてしまったよう。


 まじまじと私の顔を見つめてくるから、なんとなく、顔を逸らしてしまう。


 私の母校といえば、つまり。

 翔くんの母校でもありまして。つまり。

 朱莉ちゃんの母校でもあるのです。


「……それって、朱莉さんだった訳」

「そんな気がします」


 びしびしと感じる朱莉ちゃん要素。ましてや私の小学校の時の卒業式の前日は大変だったのだ。

 さらりと前日の夜に告げられた言葉。


「めいちゃんの卒業式、私行くから」


 それに慌てたのは、私と翔くん。

 まだパパとママが海外出張に行く前の事で、もちろんその場に居たのだけれど。

 なんだか微笑ましそうに私たちを見ていて、朱莉ちゃんを止めてくれる様子もなく。


「まてまて、ねぇちゃん自分の入社式と被ってるじゃん!」

「パパとママが来てくれるから大丈夫だよ?」


 必死で止めようとする私たちに、頑として譲らなかった朱莉ちゃん。


「私が行きたいの!」

「あかりちゃん」 

「めいちゃんぎゅー」


 と、抱き着かれたので、どうしようかと手を彷徨わせていたのだけれど、そこでさすがの翔くんが立ち上がったのだ。


「姉ちゃん、姉ちゃん! めいちゃんのせいで姉ちゃんが自分の入社式に出なかったら、めいちゃんが悲しむぞ!!」

「…………」


 ぎゅうぎゅうとされていた手がぴたりと止まり。

 そこで朱莉ちゃんはそろそろとほんとう? と私の顔を見てきたので。私はうんとしっかりと頷いた。


「だからね、朱莉ちゃん。きちんと入社式に出てきて? 朱莉ちゃん代表で挨拶するんでしょう? がんばって?」

「……ガンバル」


 不承不承と言いたげな顔で、それでも頷いてくれたから。

 手を伸ばして、朱莉ちゃんの頭を撫でたらまた再び抱きしめられていた腕に力が入って、少し苦しかったのをまだ覚えてる。


 …………。


「と、いう事があったので」

「……入社式諸々が終わるとすれば夕方ごろで、スーツに美人。先生達の反応。あの言葉はめいの卒業式にでたかった、の”でたかった”」


 うむと一つ頷いたさっちゃんは、きりっとした顔つきになり。 


「間違いない! ってやつですわ、めいさん」

「だよねー……」


 きっぱりと断言した。私もそれに頷くよりほかはなく。


「さすが朱莉さん。まさか七不思議にまでなるとは」

「私もそこまでは予想できませんでした」


 感心すらしているようなさっちゃんに、何だか複雑な心境になるのでした。



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