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まったくもう。


「それで? めいさんがここの所なんだか元気がなかったのは、紘太先輩に彼女ができたと思ってへこんでたって訳ですか」

「へこんでたといいますか」


 私の悩んでいた期間を、見事あっさりばっさり簡潔におっしゃられたさっちゃんさん。

 もごもごと言い訳めいた事を呟く私に、さっちゃんはなんだか呆れたような視線を向けてくる。


 ……違った。

 ような、じゃなく。

 大きなため息をついて、あきれたとさっちゃんはストレートに言ってきて、そのまま先日の話をまとめてくれた。


「ったく、もう。それでもってその疑惑彼女とばったり街で会って何だかんだと仲良くなってみれば、彼女なんかじゃなくて紘太先輩のおばさんで、家に帰ってみれば紘太先輩もいて、なおかつ朱莉さんとおばさん自体が知り合いだったって、……何それ状態なんだけど」

「世間は狭いなって思いました」

「まったくだ」


 私が出した結論に、うむうむと二人で頷いた。 


「と、いいますか。めいの眼が信用ならないのは置いておいても、そのおばさんって紘太先輩のお父さんのお姉さんなんだよね。そんな人が日下先輩と並んでも違和感ないって、どんだけ若く見えるのよ、その人」

「すっごく、綺麗でね! 年上のお姉さんとしか見えないんだよ!!」

「おぉう」


 ぐっと拳を握っての力説に、さっちゃんは少し引き気味だけど。本当に由美子さんは綺麗で優しくって、素敵な女性だったのだ。


 世間でいうところの、美魔女というやつだと思う!


 きりっと心の丈を叫んでみたかった。

 そんな私とは由美子さんへの熱量が違うさっちゃんは、話を戻すけどと、続きをご所望になりました。


「で、その後どうだったって?」

「えっと、そのあとね」


 ◇◇◇


「ほら、よく見なさいよ。お揃いよ、お揃い! それもめいちゃんから貰ったの。うらやましいでしょう」


 ふふんと、自慢げに。まだ髪に留めてくれているシュシュを紘太先輩に向かってアピールしている由美子さん。

 なんだか可愛いなぁと思いながら、喜んでくれているのがやっぱりうれしくて頬を緩めていると、あがる声。


「いや、別に。まとめるような長さもないし、第一男だし」


 至極まっとうな紘太先輩のコメントと、


「な、な、な、なんで!」


 同時に上がった、朱莉ちゃんのどもりながらの叫び声。

 ショックを受けたような朱莉ちゃんの様子に、困惑すると朱莉ちゃんは私に訴えてきた。


「なんで、私、めいちゃん、もらって、ないよ」


 ひどく断片めいた言葉のならびに、ますます困惑しながらも、だってと私は告げてみる。


「朱莉ちゃんの髪って、まとめられる程長くないよね?」


 戸惑いながら理由を告げると、朱莉ちゃんはそれでもと声を上げた。


「でもでも! お揃いがいい! めいちゃんだって、今は腕につけてるじゃない」

「そうだけど……」


 ご飯を食べる時だけまとめようと、その他の時は腕につけているだけにしているシュシュ。

 それを言われたら、……その通りだけれど。


 少しためらいながら、でも朱莉ちゃんが欲しいというならという気持ちもあって。

 どうしようかと悩んでいると、翔くんが助け舟を出してくれた。


「だったら、めいちゃんも姉ちゃんも使える別な物でお揃いにすればいいじゃん」


 確かに、と思える言葉に納得して頷いてしまった私だけど、朱莉ちゃんはすぐに言葉を返す。


「例えば?」

「いや、知らないけど。そこも二人で決めればいんじゃね?」


 そんな朱莉ちゃんの言葉にもやけにあっさりと答えた翔くんの言葉に、悲しい顔をしていた朱莉ちゃんの表情が明るくなって。


「じゃあめいちゃん、今度私とデートして」

「うん、いいよ」


 それならと私は断る理由もないから、楽しみだねと笑う朱莉ちゃんとそうだねと笑いあったのだ。


 ◇◇◇


「さすが朱莉さん。シスコンに衰えがない」

「もうちょっと、落ち着いてくれてもいいかなぁ」


 さっちゃんのコメントに、嬉しく思いながらも少し苦く笑ってしまう。


「それで、今度は朱莉さんとデートすることになったと。もてもてね、めい」

「嬉しいけど、ちょっとは男の人にももてたいかな?」


 ひゅーと面白そうに口笛ではなく、口で言ったさっちゃんは、次の瞬間私の言葉になんとも言えない表情になった。


「うわぁ」


 その何とも言えない表情に、何とも言えなくて眉を下げれば、そんな私にさっちゃんは笑う。


「ほんっと、めいさんはめいさんですねぇ」

「どういう意味でしょう」


 謎かけめいた言葉に素直に返すと、さっちゃんはかかと笑いそのままでいてくださいとまた笑う。


 もぅとむくれていると、さっちゃんはじゃあと言葉を紡ぐ。


「紘太先輩とのお出かけは?」

「? 今週の土曜日だよ?」


 さっちゃんの言葉の意図が分からなくて、いつ行くのかなという問いかけかと思って答えたら。

 それはもう、せいだいに吹き出して。

 それ! それ! と言いながら笑う。


 もう、訳が分からないです。

 またむくれてしまうと、めいちゃんの春は遠いですねぇなんて言うものだから。


「まだ七月だよ? 終わったばかりじゃん」


 そう返すと、とっても楽しそうにさっちゃんはうんうんと頷いて。


「さすがめいちゃん。めいちゃんはそのままでいてください」


 なんて。

 どこかで聞き覚えがある言葉を、また繰り返された。


 もうこれは、むくれるしかないよねっ!


 そうは思っても、楽しそうなさっちゃんの様子に私もまた笑ってしまうのだけれど。


 まったくもう。



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