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こな?


 家へと帰ると、まず私が目の前に居た紘太先輩に驚いて。

 その紘太先輩は、私の後ろにいた由美子さんに驚いて、そして。


「めいちゃん帰ったの? お帰りなさい」


 満面の笑みで迎えてくれた朱莉ちゃんも、玄関へとやって来ると。


「あれ? 日下さん?」

「あら?」


 朱莉ちゃんと由美子さんも驚いた。


「あぁ、そういえば佐々木さん、だったものね」


 朱莉ちゃんと由美子さん。二人ともお互いを知っている様子な事に、また私は驚いてしまう。


 なんだか、今日はいっぱい驚いている気がする。

 だけどお互い知り合いのように話す二人の様子に、驚いたのは私だけではなくて。

 目を瞬きながら、翔くんも朱莉ちゃんに向け聞いていた。


「知ってるの?」

「会社が同じビルに入ってて、その関係」


 そして、こんにちはと改めて挨拶をし直した二人は、


「こんなかわいい子が妹に居たのね、うらやましい」

「はい、自慢の妹ですから」


 なんて。

 私にとってみればなんだか恥ずかしい内容で盛り上がり始める。

 気が合っているのは何よりだけれど、せめてそういう話は私がいないところでしてほしい。


 うぅ。


 そんな風に俯いていたたまれない気持ちになっていた私に、そっと掛けられた紘太先輩の声。


「ごめんね、めいちゃん」


 突然に謝られて。何のことか分からなかった私は、顔を上げて紘太先輩の顔を見つめた。


「先輩?」


 すると、それが伝わったんだろう。紘太先輩は苦笑いを浮かべると、どこか躊躇いながらも続きを口にする。


「俺のせいで元気がなかったって、翔平に聞いて」

「あ」


 それは、紘太先輩。元を言うと翔くんの言う通りで。

 紘太先輩のせい、とははっきり言えないけれど。でも、まったく紘太先輩が関わっていないかと言われると、それも違って。


 ただたんに、私が勝手にぐるぐると悩んでいただけで。


「えっと、でも紘太先輩のせいじゃなくて」

「でも、クッキーの感想言えてないよ」


 申し訳なさそうに、どこか悲しげに目を伏せながら告げられた言葉に、そういえばと。

 紘太先輩の珍しい話を聞いた流れで、先輩と、由美子さんの関係性を知り。そっちの方に気がいって、その時は流してしまっていた言葉を思い出す。


 それを思い出してしまうと、なんだかそのまま笑ってしまい。

 突然笑い出した私に、驚いたように視線を向けてくる先輩に対して、笑いをこぼしてしまいながらごめんなさいと謝った。


「由美子さんから聞きました、全部食べちゃったって」

「…………」


 私の言葉に、眉を寄せて珍しくも不機嫌そうな顔をする紘太先輩をくすぐったく思いながら見つめていると、紘太先輩はまた視線を逸らし。


「俺も、食べたかったのに」 


 なんて。

 小さくこぼしてくれるものだから。


 うずうずとした胸が止まらない。


 どしようかと、持てあます感情を抑えながらも、ただなんだかうれしくて。


 私は、自然と笑っていた。

 すると紘太先輩も、照れくさそうにしながらも笑い返してくれて、二人で笑いあう。


 いつの間にか途切れていた大人の女子組の会話に気付いて、私たちを見つめていたみんなの視線に気づき。顔を真っ赤に染めてしまうのはもう少し後。


 ◇◇◇


「それで? 由美子さんは何でめいちゃんと一緒な訳?」


 照れ隠しのように、急に不機嫌な顔でいう紘太先輩に、緩みそうになる口元をぐっとかみ締めて。

 由美子さんに向けられた質問だからと、私は黙っておく。

 今はまだ、もう一度みんなからの視線を受けるのも、ちょっとつらいから。


「街で会って、運命だと思って声を掛けたのよ」

「運命?」

「ほら、この間。すっごい可愛い子が居たって言ったでしょ?」

「この間?」


 由美子さんの言葉に、少し悩んでいた紘太先輩だったけど。すぐに、何かに気付いたのか声を上げる。


「まさか、こなをかけた相手って」


 絶句。と言わんばかりに驚いて、目を見開いた紘太先輩。


 こな?


 首を傾げる私をおいて、由美子さんはそれは嬉しそうに頷いた。


「そうよぉ。めいちゃんに決まってるじゃないの」


 ふふと笑う由美子さんは続けて、


「みごとお友達になって、今日はデートしたのよね」


 ねーと私を向いて首を傾げて笑うから。私もそれにくすぐったく思いながら、そうですねと由美子さんに合わせ首を傾ける。

 そんな私に、何だかえ? え? と戸惑った? ような顔になる紘太先輩。

 不思議に思って先輩に視線を向けると、なんだか先輩はため息をついて、翔くんに慰められている。


 どうしたんだろう?


 とは思っても、何でもないよと笑う先輩に尋ねることはできなくて。私に向けられる紘太先輩の視線も優しいものだったから。


 あぁ、本当に気にすることでもないんだろうなって心から思えた。


 なんだか、胸があったかい。



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