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分かる訳がない! *翔平 おまけ


 そんなこんなで。

 ドン引き姉状態を披露してくださったお姉さまは、紘太の料理を美味しいと食べ。少し落ち着いたのか、いつもの外面を被り直してくれている。


 いつの日か、外面が本面になってくれないかと思うけれど無理だよな、やっぱり。

 大きなため息を心の中で吐き出して、さて。お姉さまのターンがもう一度。


「それで? うちのめいちゃんに、何してくれたわけ?」


 なまじ、にっこり笑顔での言葉に恐ろしさを感じるけれど。


 紘太は何もしていない。

 むしろ、何もしていないからこそと言うべきか。


 めいちゃんのクッキーを食べて”いない”。

 さすがに言うのがはばかれるのは十分わかるけど、それをめいちゃんに言っては”いない”。

 洋菓子店で由美子さんに腕をとられたのを、そのままにして払っては”いない”。

 それをめいちゃんに見られたのを知ら”ない”で、何もしてはいない。


 とまぁ、見事揃ったないないに、ある種の痛ましさすら感じさせられるけどその結果。


 ほら、紘太は何もしていない。

 いいのか悪いのか、何とも言えないけれど。


「姉ちゃん、紘太は潔白だよ」


 どちらかというと、何かしているのは由美子さんの方だしね。

 紘太を擁護していると思われたのか、姉ちゃんから返ってきたのは、


「うっさい!! 部外者は引っ込んでろ!」


 なんとも強烈なご返答。


「はい、スミマセン」


 従順であるべくこたえたけれど。


 あの、姉ちゃんも部外者なのでは……。

 なんて思いが心に浮かぶ。

 もちろん賢い俺は口には出さなかったけど、それでも俺の心を読んだのか、鋭い視線も、もちろんいただきました。


 ありがたくないです。

 姉ちゃんの一言に後は黙るしかない俺は、ただ紘太を見守ることにして。


 けれどそうやってあーでもない、こーでもないと話す姉ちゃんは、当然のことながら身内である俺以外には手を出すことがないので。

 安全面では保証されながらも、精神面では色んな意味でダメージを受けていく。


 主な原因は、姉ちゃんの変態具合に。


 いつの間にかシフトしていく、めいちゃんは可愛いという話。俺たちはただただそれに、引きながらも共感し、理解を深めるけど。


「……なぁ、翔平」

「……なんだとも、紘太君」

「これって、いつまで続くんだろうか……」


 げんなりしつつも、姉ちゃんの演説を邪魔して怒られないように小声で問いかけてきた紘太君。

 その問いに、答えて見せようとも。


「分かる訳がない!」


 きっぱりと、自信をもって告げますとも。

 いくら血のつながっている俺の姉であろうとも、あの生命体のことなんて、俺ごときが分かるものかと。


 ただ言えるのは、今姉ちゃんが話しているめいちゃん話が一歳の頃の話なので、順当に行くならばあと十五年分あるという事くらい。

 それを告げる勇気も、元気もすでに俺にはないのだ少年よ。


 察してくれ。


 力強く答えた俺の死んだような目を見ただろう、紘太は何も言わずにいてくれた。


 さすがだ、友よ。


 そして、時間は経っていき。

 やっと解放してもらえた紘太が、帰ろうと玄関に立った時だった。


「ただいまー」


 の声と共に開けられた玄関扉。それはもちろん、開けた人がいるわけで。


 めいちゃんが、帰ってきた……!


 ちょうど向かい合わせになった、紘太とめいちゃんにわたわたしてしまう俺。

 そんな俺をおいて、紘太はもう一つ先を行き、驚いた声を上げ。

 そんな紘太に向けられた、めいちゃんでも俺でも姉ちゃんでもない、やけに機嫌のいい自慢げな声。


「あら、紘太じゃない。休日に男友達と一緒? 不健康ね」


 めいちゃんの言う、綺麗で美人な大人の女性がそこに居た。



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