表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/43

じっと、見つめて。


 今日は家で何かするみたいで、私がいるのは都合が悪そうだったから外に出ては来たけれど。

 さっちゃんに今日用事があるのは前もって知っていたから、一人だし。


 とくに欲しいものも、今はないかなぁ……。


 紘太先輩の事で悩んでいたのも、答えが出ていないのも事実だから。気分転換という言葉にそれもそうかと思ってみたものの。


 結局は、したい事も目的もないので。

 ちょっと、どうしていいのか悩んでしまう。


 それでも、まぁ。

 とりあえず、いつものコースかなぁと駅に向かってみる事にした。


 すぐに帰っても、翔くんは困っちゃうだろうし。

 お昼も食べて帰ろうと、二駅先のターミナル駅を行先にして。

 待たずに乗れた電車に揺られながら、これからの予定を大まかに決めることにする。


 雑貨屋さんに、本屋さん。洋服に、ゲームセンターとか。お腹がすいたり疲れたらご飯にして。


 頭に浮かんだ所をゆるーく、決めていく。

 気になったところがあったら入ってみたり、一人気楽に行ってみよう。


 二駅くらいなんてすぐに着いて。

 電車を降りた途端、せかせか歩きだす人達の最後尾をのんびりついていって、改札を抜ける。


 ターミナル駅なのでそこそこ人はいるけれど、構内を出てしまうと皆さん色々な方向へと旅立って、そこまでお店や道は混んだりしない。

 都会のど真ん中じゃなくて良かったと、心底うれしく思いながら歩き出す。


 あまり人が多いところは気後れとか、酔ってしまう時もあるから。これくらいがちょうどいい。


 なんとなくと決めていた雑貨屋さんに着いて、お店の中をさんさく開始。

 これはさっちゃんが好きそうだなぁ、これは翔くんに似合いそうで、朱莉ちゃんならこれ。

 紘太先輩なら……これかなぁ。


 それぞれに、合いそうな物を下調べしておいて、誕生日が来たらの候補に入れておく。

 もちろん自分用で気になるものも一通り眺めて、次のお店へ。


 同じ建物に入っていて雑貨屋さんの向かいにある服屋さんにふっと寄ってみるけれど、でも今は欲しいもの、ないかなぁ……。

 自分のクローゼットの中と相談して、お店を出た。


 素敵なものもあったけど、今の私には似合わないだろうし。もうちょっと、大人になってからかなとやめておく。


 本屋さんもぶらついて。

 でも結局は、気になったものは下調べしてから買いたいのでパス、と。

 それでも本屋さんに行きたくなるのは何でだろう?


 効率悪いよなぁと自覚しながらも、やめられない不思議。


 駅に隣接している大きなお店を出て、道を歩く。


 大きな音もあまり得意ではないけれど、クレーンゲームには惹かれてしまう。

 いいのがあるかなぁとゲームセンターに入り、端から歩いて全部の景品を見てから気になったところに戻ってみる。


「可愛いなぁ」 


 見つけたのは手のひらサイズのうさぎのぬいぐるみ。

 鞄に付けられるようにボールチェーンもついているそれは、四種類ほどあってそのどれも可愛いくて。

 なかでも一番惹かれるのは、花柄のワンピースを着ている子。


 じっと、見つめて。

 眉を下げて見つめて。

 そろそろと、鞄からお財布を取り出し。ぎゅっと、百円玉を握ってもう一度、考えてみる。


 やっぱり、可愛い。


 うんと頷いて、覚悟を決めて参ります!


 狩人のごとく鋭く! 女らしくきっぱりと!


 ここだとアームを操作して、決定ボタンを押す。


 あとは、神様頼り!


 小さなクレーンの前でぐっと両手を握って、ただ結果を見届ける。


 位置取りはいいと思ったんだけど……。


 じっと見つめる中で、三つの爪が体を覆って閉じていき。

 掴んだ! と思ってそこで喜んでしまったら、上がる瞬間にバランスを崩して爪の間から落ちしまった。


「あぁー」


 そんなにクレーンが得意ではないないけれど、やるのは好きだから。この結果はある意味予想通りだったけれど。


 けれど、欲しいなぁと思ったから挑戦してみたわけで。結果に満足はできません。


 それでも落とし口には近づいている訳で……。


 …………。

 

 諦め悪く見定めて、お財布の中にある百円硬貨とご相談。

 一枚、二枚、三枚。全部で三百円。


 悩んだのは一瞬。百円を全部つぎ込むことに決めて、それでもそれ以上はやらないぞと心に決めた。

 しっかりと一人頷いて、残り三回のライフを慎重に使う事にする。


 もしかすると、一回でとれるかもしれないし……!

 希望的観測に基づいて、挑戦した結果。


「ですよねー」


 近づいては離れて、離れては近づいて。

 あまのじゃく具合をはっきしてくれた、うさぎさん。 


 もちろん、私の手の中には落ちてきてくれなくて。ただ四枚の、百円硬貨達に別れを告げた結果でした。


 なごり惜しくはあるものの、今日はついていないんだと自分を納得させて、次にいこう。


 そろそろお腹がすいてきたので、甘いような、しょっぱいような。気分を抱えてお昼をどうしようかと、歩きながらお店を見てゆく。


 十三時を過ぎているから、どこを選んでもそんなに混んでいないはず。


 ラーメン、チャーハン、エビチリ定食……中華の気分では、ないかなぁ。

 ステーキ、しゃぶしゃぶ……がっつり気分でもないし。

 クレープの食べ歩きはちょっと違うし、パンケーキも違うなぁ。

 ハンバーガーにポテトにナゲット。せっかくの休日にファーストフードもなんだか違う。


 並んでいるお店の前を次々に通過していき、足を止めたのは駅から少し離れたところにある個人経営のお店。

 結局は、ここもいつものお店という事で。この駅に来たらほとんどいつもここで食べている。


 大人な雰囲気の落ち着いたお店で。朱莉ちゃんに連れられて初めて来た時は、なんだか敷居が高く感じたけれど。

 一回、二回と来るうちに、優しくて、シュッとしたおじいちゃんマスターがいつも温かく迎えてくれるから、一人でも来れるようになっていた。


 扉を開けるとドアベルがなり、今日もぴしっと決めているマスターが微笑んで迎えてくれる。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは」


 私も笑顔を返し、好きな所へどうぞという言葉に甘えていつもの席へ。


 まだ砂糖もミルクもなしのブラックでは飲めないけれど、香りは好きで。お店いっぱいに広がるコーヒーの匂いを吸い込みながら、奥へと向かう。

 お水をもらって、ごゆっくりとだけ告げて離れていったマスターを見送り、メニューを手に取る。


 何にしようかな。


 どれを選んでも美味しいのは分かっているから、あとは今の気分で選ぶだけ。


 うーん。


 悩み悩んでいたら、ベルの音。

 あ、お客さんだ。と頭の隅で思いながら、迷いに迷う。


 そんな迷っている私の隣のテーブルに向けて歩いてきたお客さんが、ふと呟いた。


「あら?」


 何かに気付いた、そんな声につられて顔を上げて見ると。


「あ、」


 そこにいたのは、あの女の人。

 この前、紘太先輩と腕を組んで歩いていた綺麗な女の人だった。


 その人は、私と目が合うとにっこりとあの日のように微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ