かくかくしかじか。 *翔平
まぁ、そんな訳で。
不幸体質に陥っている紘太に、もう一つ。予想される不幸のお知らせ。
姉ちゃんの行動パターンを考えれば、心構えをさせておくべきかなと思ったのだ。
ので、神妙に告げておく。
「紘太、多分姉ちゃんから呼び出しあると思う」
主にめいちゃんの事で落ち込んでいる紘太は、どこか諦めたように力なく頷いて。
どっと疲れたように見える紘太の様子に、けれど俺も他人事じゃないんだよなぁと嘆いておく。
今日の朝、逃げるようにして家を出てきたから。俺の方が先に呼び出され、
……最悪、精神面での殴り込みに合うだろう。
早ければ今日の夜。
俺が部屋へと逃げ延びるか、それとも、姉ちゃんが俺の部屋に乗り込んでくるか。
どちらにせよ、今日が終わるまでは安心できない。
まぁ、今日が終わっても安心なんかできないんだけどな。
そして、そんな俺の嬉しくもない予想通りに。
姉ちゃんは、俺の部屋に乗り込んできた。
うおっ!!
その様はめいちゃんが幼稚園の年少さんの頃、同じうさぎ組の男の子がめいちゃんと一緒に仲良く遊んでいたのを、姉ちゃんが見た時を上回るものであり。
顔は、とてもではないが直視できるようなものではなくて、ですね。
自動再生されて浮かぶあの時の顔は、今でも忘れられない恐怖体験で。
般若、阿修羅の顔とはこういうものかという程の威力があったほどのアレを、上回る今日のコレ。
もう、今夜は悪夢にうなされる事が確定されたわけですが。
そんな姉ちゃんの形相に固まり、姉ちゃんが部屋に入ってきた途端逃げる間も言い訳する間もなく、ぐっと力強く握られた胸元からはギシギシとシャツの悲鳴が聞こえてきて。
「ぐえっ」
もはや泣きたい気分です。
「で”?」
姉ちゃん、あなたはそれしか言葉がないのでしょうか。
恐れおののく弟に、少しの恩情すらなく。それはもう飛び切りの度低い声で放つ言葉がそれですか。
もちろん、十分な威力はありますとも。ありすぎて、何も言えない位です。
ただただ力なく、
……おかしい。
男女の力の差があるはずなのに、そんなものが一ミリも発揮されることなく俺の力では抵抗できないのはおかしい。
俺が全力を込めた両手で抵抗しているのに、らくらく片腕でそれをまさる握力、腕力なのもおかしい。
理解できない現実に直面しながら、心の中で滂沱の涙をながし物理的につるし上げをくらうしかない俺。
そんなんもう、全面降伏しかとる道はないのである。
かくかくしかじか。
そりゃあもう、必死こいて一に宥め、二に宥め、三四がなくて五にも宥めて。
終始姉ちゃんに逆らうことなく、宥めながら供述を行ったところ、こちらもまぁ大方の予想通り。
紘太君の呼び出しが確定したわけです、ハイ。
◇◇◇
「という事で、今度の日曜日あいてますか?」
「……空いてなくても、だろ?」
昨日の姉ちゃん襲来の影響で大分疲れた状態で、予告通りに家へのご招待を告げると、紘太は諦めた様にため息をつき分かってると頷いた。
不運続きの紘太君。一応、励ましておこうと力なく応援すると
「ふぁいと」
「お前もな」
片眉を上げ、どこか呆れたような表情ですぐに紘太からも返されて。
「おぅ」
力なく、応えるしかなかった。
まったくもって、その通りであるからして。
……辛い。
◇◇◇
さてさて、紘太を家に呼ぶという事は議題内容が議題内容なので。めいちゃんが家にいると困ってしまうというものなのでありまして。
「と、いう訳でめいちゃん」
「どういう訳?」
突然の俺の言葉にきょとんと首を傾げるめいちゃんは可愛いけれど、そこは察してもらうしかない。
ただそれに頷くだけで答えることにして、先を進めましょう。
「どうやら何か行き詰っているようなので、ちょっと気分転換でもしてきたらどうでしょう?」
「きぶん、てんかん」
未だ自分自身の状態が、恋煩いによるものだとは気付いていないめいちゃんは、それはもう真剣に。可愛いほど真剣に悩んでいるのが可愛いのですが。
結局は、可愛いのです。
何を言っているのか分からない?
まだまだあまちゃんだな、めいちゃんは可愛い。それが真実だ。
とまぁ当たり前なことはおいておこう。
いつもよりも元気がないめいちゃんに、ウィンドウショッピングでもどうかと進めてみる。
少し悩み気味なめいちゃんに、早奈枝ちゃんでも誘ってみてと言っておく。
それでも何やら考え込んでいるめいちゃんだったけど、最終的には苦笑いぎみにどこかぎこちない笑みを浮かべて頷いてくれた。
「うん、じゃあ行ってみようかなぁ」
半ば無理やりにお出かけしてもらう事に、その間めいちゃん関係で紘太を呼んでの尋問が控えている事に。
後ろめいた気持ちでいっぱいな俺はそれでも、計画は遂行しなくてはならなくて。
罪悪感いっぱいで、当日めいちゃんを送り出し。
めいちゃんと入れ替わるように訪ねてきた紘太を迎え入れた。




