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だって俺、シスコンだから。 *翔平


 可愛い顔して眠っているところを起こすのは、心が痛むけれど。

 このままという訳にはいかないし(めいちゃんに風邪をひかせる訳にはいかないから)ご飯もできたので、早めに食べてお薬を飲んでもらってから眠ってもらいたいと思います。


 そう覚悟を決めたところで、行動に移そうか。


「めーいちゃん。めーいーちゃーん」


 軽く肩をゆすりながら声を掛けていくと、めいちゃんはむーと眉を寄せてから目を開き。部屋を照らす明りに眩しそうに目を細めた。

 けれど一応、起きてはくれたので。


「めーいちゃん。ご飯食べられる?」


 どうかなぁとさぐりさぐりに聞いてみると、うーんと寝ぼけ眼のぼんやりとした顔で。間延びしながら教えてくれた。


「……ちょっと、つらいかなぁ」


 まぁ、そうだよねーと頷きながら。でも、大丈夫。


 めいちゃん程美味しい料理は作れないけど、料理はできるのだ。

 こんなこともあろうかと、めいちゃんがダウンの時には定番になっている、レトルトスープも用意済み。

 体にいい温め効果のある食材を使っている、栄養士さんも推薦の、お野菜たっぷりレトルトスープ! ただレンジであっためて、深めのお皿に移し替えるだけ!


 簡単、簡単。


 勿論少し寝て具合が良くなっている時もあるので、ちゃんとした料理も調理済み。

 今の世の中便利なことに、とある素があればちょちょいのちょいでできるので、簡単ですとも。


 ただ野菜切って、素と一緒に炒めるだけ!


 てぃりってぃー。でーきーあーがーりー。


 ほらみろ。簡単なものなのですよ。ふふん。


 どやぁ。


 ただ今日のめいちゃんにはちょっとハードそうなので、今回はスープとなる訳ですが。家にはまだ他に、姉ちゃんもいるし俺の分と合わせて無駄にはなりません。

 

 料理とは極論、お湯を入れるだけでも料理だと思うから!

 今日の晩ご飯は炒める工程を挟んだ、立派なお料理だと激しくここに胸を張って主張したいと思います!

 お米だってばっちり自分で炊いたよ!


 ……ってことを踏まえ。

 

 文句があるなら自分で作って食べろ!

 と強気な態度でお姉様に挑もうかと思っている、まだ十七歳の初夏。


 まぁ、めいちゃんに比べるとつきとすっぽんだよって位で。

 別になんだかんだ食事に関しては文句を言われた事はないのだから、そんなに気を張らなくても大丈夫なんだけどね。


 ただたんに、姉ちゃんに対する条件反射と言いますか。

 まぁ、俺の事はともかく。今はめいちゃんだ。


「スープあっためたから、少しは食べて? お薬も食べてから飲んだ方が効くでしょ」

「うん」


 まだ眠そうなめいちゃんに、間延びした声でありがとうと言われながらスープと薬を用意して。

 きっちり全部を食べてもらってから、二階にあるめいちゃんの部屋まで付き添った。


 ちゃんと布団の中に入ったのも確認して、電気を消したら。めいちゃんが俺を呼ぶ小さな声。


 タイミング的に、このままがいんだろうなぁと部屋を暗くしたままでベッドまで近寄って。端の方にそっと座らせてもらいながら、問いかける。


「どうかした?」


 するとめいちゃんは、なんともまぁ。


「やっぱり、あの人彼女なのかなぁ」


 可愛いことを言ってくる。

 さっきの続きだとすぐに分かって。あり得ない事だと確信しているけれど、それでも昨日の紘太を思うと少しばかり考えさせられて。はぐらかすような言葉を選んだ。


「……でもめいちゃん、紘太には恋してないんでしょう?」

「してないよ?」


 すぐに帰ってきた答えに、ちょっと意地悪かなぁと思いつつ。内心苦笑いしながら、口にする。


「じゃあ別によくない?」

「…………」


 さっきとは違って黙ってしまっためいちゃんの反応には、思わず口が緩んでいく。

 全面的には紘太の味方と言えないのは、やっぱりめいちゃんが可愛いから。


 めいちゃんに甘いなぁと自覚しながらも、けれどもう紘太の邪魔をするつもりもあまりない。

 絶対ないとは言い切れないのは仕方がない事だ。


 だって俺、シスコンだから。


 だから、めいちゃんが笑っている方が俺にとっては幸せで。

 そのために俺ができることは、自分で自分の気持ちに、めいちゃんが気付けるように手助けするだけなんじゃないかと思う訳です。


 周囲が何か言ってもダメなのは昨日で理解済みだから、要はめいちゃんが自分で分かるように、そういう方向に向けて考えてもらえばいいって事でしょう?


 なんて事を画策して、めいちゃんにどんどん問いかけてゆく。


「でもやっぱり、気になっちゃう?」

「……うん」


 ためらい交じりに、どこか悩みながらもそれを認めためいちゃんに。ここでまで来たらもう後は背中を押すだけ。

 嬉しいような、寂しいような気持ちでもうひと押し。


「どうしてだろう?」

「……わかんないよ」


 俺の問いかけに、ぽつりとつぶやいためいちゃんはそれっきり黙り込み。

 そんなめいちゃんに、今度こそおやすみと、布団の上からぽんぽんして俺はめいちゃんの部屋を出る。


 紘太君、もうひと押しです。


 でもね、紘太君。

 どうせ彼女なんかじゃないだろうけれど、めいちゃんを悲しませているのは事実なので。


 後で、覚えておけよ。この野郎。

 強く闘志を抱きながら、俺はめいちゃんの部屋の前から立ち去った。 



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