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もやもやするのも、ぐるぐるするのも。 *紘太 おまけ


 いつもなら。

 翔平の邪魔もなく、めいちゃんと二人で話せることに普通に喜んでいたのだが。


 昨日の今日で、それはちょっと辛いものがあって。


 もちろん、それはめいちゃんのせいではなく。

 さらに言うならば俺のせいでもないと、主張したいところなのだけれど。


 まぁ、迂闊だったとは認めざるをえないだろうな。


 めいちゃんお手製のクッキーを食べられなかったという事実が、俺をとても後ろめたい気持ちにさせていた。


 まさか食べられるとは思いもしないだろ、普通。

 そうぐちぐち言うのも今更で、仕方のないことだとは理解しているけれど、それでも、って


 あああぁっぁぁー!!


 俺も大抵めんどくさい奴だなと、イラつく悪循環。

 翔平じゃないけれど、普段はもっと冷静で、大人になったなぁと自分でも思うほどなのに。


 まぁ、人の事。友達の事は言えないってやつでした。


 すまん、翔平。


 くどくどと、心の中で荒ぶるけれど表面上には出さないでいたのだけれど。

 まぁ、めいっちゃんには不審がられましたよね、コレは。


 不思議に小首をかしげるめいちゃんは可愛くて、余計に俺の心にはとげが刺さったのでありました。


 辛い。


 思い返せば、昨日の翔平の、あの労わるような表情も辛かった。

 ありがたくはあるものの、辛かった。


 おいちょっと、本物のお兄さんもっと頑張ってくださいよ、と言ってやりたかったよ、本当は。


 そんな風に思い返しながら、学校終わり元凶の人物との待ち合わせに向かえば、相手は携帯片手にすでに待機済み。

 むしろいなくてもよかったんだけどなぁと諦め悪く思いながらも、しぶしぶ近づいてゆく。

 

 なんでも、昨日めいちゃんのクッキーを食べて、クッキー熱が湧き上がったそうなのだ。

 そういう訳でもれなく、哀れな俺は拒否権などなく連れまわされるという訳で。


 まずは身近な場所からと、学校近くにあり、めいちゃんが好きなお店に強制的に連れてこられた。


 どうせなら、めいちゃんとこそ歩きたかった。

 そんな俺の不満など、聞く気もないだろう由美子さんは、俺とは真逆に浮かれ調子で歩いている。

 店から出て、ぐっと力強い腕に絡まれいつもの事かとされるがままになっていれば、なんだか鼻歌まで歌いだす。 


 うらやましいほどの、ご機嫌デスネ。


「……どうかした?」


 一応、気にかけておこうと思い、尋ねてみれば。


「んー? んふふ。すっごい可愛い子がこっち見てたから、粉をかけておいたの」


 ろくでもない事をしていたようだ。

 身内にならまだいいけれど、人様にまでご迷惑をかけるのはいかがなものか。


「やめてあげなよ、可愛そうだから」

「もー、なにがよ。あわよくばお友達になりたいじゃない」


 自分では、可愛く思っているのだろう。

 ぱちこんとウインクしてくるあたり、やめてもらいたい。

 ただの恐怖だ。


「……歳考えてよ」

「うん? 紘太君、君、今何か言った? 君の事、おむつの時から知っている、由美子さんに言ってみなさい?」

「スミマセンデシタ」


 思わず出てきてしまった本音は、当然聞き逃されることはなくて。

 目に見えて、いや、見えるはずもないのだけれど。増した威圧感は、昨日の翔平のお姉さんの比ではなく。

 けれど慣れ親しんでしまったそのある意味恐喝めいた、低く低いドスの効いたお言葉にはさっさと謝るしか道はない。


「聞こえないなー」

「すみませんでしたっ!!」


 腹に力を込めて再度謝罪を口にするけれど、愉しげにからかってくる由美子さんに、

 あぁ、これは付き合わなくてはいけない時間が、まだまだかかるぞと覚悟を決めさせられる。


 どうやら今週は、厄日がいっぱいらしい。


 それでも、何だかんだと悪い気持ちがあったのだろう。

 さんざん俺を付き合わせて、大量に買ったクッキーのそのほとんどを家に置いていって。俺に食べていいよと遠回しで言ってくるのだ。


 まったく、素直じゃない不器用な人だとため息を吐いた。


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