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素敵なお兄さん *翔平


 えっと、ちょっと冷静になって。ちょっと前の事を思い出そう。


 姉ちゃんが、意外にも何故かめいちゃんまたは、紘太をけしかけるような事を言って。


 まぁ、デートみたいねって言っただけだけれど。


 普通? ならそこで恥ずかしげに喜ぶと思われためいちゃんだったのだけれど、実際には不思議な顔して言ったのだ。


「何言ってるの? デートっていうのは恋人同士がするものでしょう?」


 って。


 …………うん?


 そこは恥ずかしがって、照れて喜ぶところではないのでしょうか、と思ったのは俺だけではないだろう。

 それに、やけに自然に聞こえためいちゃんの言い方は、まるで自分には恋人、というモノが自分には何の関係もないモノだというような、程遠い距離感を感じさせ。


「私、恋はしてないよ?」


 不思議そうにはっきりと恋はしていないと口にするめいちゃんに、姉ちゃんだけはそうね、ごめんなさいとすんなり頷いて謝っていたけれど……。


 ……うん?


 俺と同様に、紘太自身も不思議な顔をしていて。

 あぁ、俺じゃない。これは俺よりも紘太の方がダメージを受ける事だよな、と変な思考の方へといってしまう。


 だって、めいちゃん?

 あなた、紘太に恋しているのではないのですか?


 とてもとても不思議な顔をしていためいちゃんと、俺と、紘太。


 え?

 一体どういう事でしょう?


 分かった上で仕掛けただろう満足げなお姉様。


 いったい、どういう事ですか?


 ただ俺は、何も理解できずに目を瞬くことしかできずに、それだけを繰り返す。


 うん?


「え?」

「え?」

「え?」


 俺と紘太はつまりどういう事ですか? という意味で声を出してしまうと、次にそんな俺達を見ためいちゃんが不思議そうに小首を傾げ。

 また再び、変なトライアングルができてしまった。


 え?


 不思議な塊と化した俺達に、姉ちゃんだけはさも当然のように笑い。


「そうよね。めいちゃんはただ素敵なお兄さんと一緒にお出かけするだけだものね。デートではないわね」

「そうだよ? それに、私なんかじゃ紘太先輩に釣り合わないよ」


 姉ちゃんはやけにお兄さん、に力を入れて。俺達にも分かるように、どういう事かを説明してくれた。

 それはそれは、愉しそうに。


 そして姉ちゃんの言葉に、至極当然とばかりに頷いためいちゃんは……。


 めいちゃん。それって、紘太を持ち上げているの? それとも落としているの?


 よく分からない褒め言葉の様で、けれどお兄さん、という言葉がまる意味をなくしているような。

 だがしかし、割り切っていた先ほどまでとは違い、その表情には恥ずかしさも照れもある。


 それはまさに恋する女の子の様なのですが、めいちゃん。


 ……これって、つまり?


 つまり? これって……。


 これって、もしや。


 まさかまさかの、……無自覚、ですか?


 目の前で、頬をほんのり染めて可愛らしく笑うめいちゃんに、俺は目を見開きながらはっきりと理解する。


 まさか、まさかの無自覚なのですね、めいちゃん。


 つまりめいちゃんは、紘太に恋をしているものの自分では無自覚で。ただ単純に紘太の事を素敵なお兄さん、と思っているという事ですね?


 はたから見れば、こんなにも分かりやすいのに。


 これが世にいう鈍感女子。


 めいちゃん、パネェ。

 姉ちゃんとはまた違った意味で、恐ろしい子。


 そして、これはちょっと高すぎる壁を目の前に感じただろう紘太の事が不憫に思えて。 

 ゆっくりと、どこか衝撃を受けている紘太から視線を逸らしてしまうのはもう、しょうがないだろう。


 頑張れ、紘太。


「さすが翔平のお友達ね。これからも、うちのめいちゃんを妹みたいに思って可愛がってね?」


 言葉の裏に潜むものに気付かなければ歓迎しているその言葉は、いっそ爽やかに、優しく聞こえてしまう程。


 けれどそれでいてめいちゃんの気持ちも、紘太の気持ちも分かっている上でこんな事を言ってくる姉ちゃんは、やっぱり怖い。

 めいちゃんがちょっとと言って離れた隙に、威圧感ばりばり出して、


「分かってるわね?」


 なんて、真顔で告げてきたのももう怖い。

 けれどそれに、困った風に笑って紘太が受け流すものだから。


 恐怖政治を敷かれている俺としましては、紘太に尊敬の念を抱いてしまったのもしょうがないだろう。


 さすが、紘太。

  

 めいちゃんからの、悪気も意図もない、一つ間違えれば遠回しなお断りですか? な、お言葉に、傷つけられただろうその身でなお、姉ちゃんと張れるとは。


 そして紘太は、今日のおやつに出てきたレモンのパンケーキとはまた違うおやつをめいちゃんから受け取り。


 それがいつもの事だと知った姉ちゃんに、めいちゃんから見える角度ではまたいつでも遊びに来てね。と優しいお姉さんを擬態しつつ、紘太にまっすぐと向けられた目では調子に乗るなよと訴えられながら。

 また来てくださいね。スイーツバイキング、楽しみにしていますと満面の笑顔をめいちゃんに向けられながら。

 なんだかどっと疲れた俺は、同じ気持ちであろう紘太へと労りの表情を浮かべながら。


 紘太は、みんなに見送られて帰っていった。


 あれ? でもめいちゃん。素敵なはずのお兄さん、すでにいるはずなんだけどなぁ。


 うん?


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