めいちゃん、陥落す
こーたこと、紘太先輩は兄である翔くんの唯一の友達と言っていい人である。
翔くんは友達なんていっぱいいるというけれど、私は一度も紘太先輩以外の友達を家で見たことがないので、却下する。
妹の私が言うのもアレだけど、うちの姉兄は両親に似て美男美女の血をがっちりとついでいるので翔くんのいう事も嘘ではないと思うのだけれど、
天真爛漫でスポーツ万能。そこそこの頭の良さ。とくれば、人気者になるのはたやすいことで。
ぶっちゃけてしまうと信者と呼んでも差しさわりないよね? これ。
という人がそれはもう子供のころからいらっしゃるので、友達とは認めていないのです。
というか、友達だと思ってるのなら家に連れてきて大丈夫なはずなのに、その条件をクリアしている奇特な方は紘太先輩だけなので。
よってぼっち認定である。間違いない!
……家族の中で一人だけ毛色が違い、スレンダーやましてやスポーツ万能でも成績優秀でもなく、ぽっちゃり路線をいく私のひがみではないと一応言っておこう。
…………まぁ、うん。
あ、血がつながっていないとかではなく、隔世遺伝子というやつで。
両親、姉兄ともにできすぎ君細胞なのですが、父親の方のおばあちゃんにとおおってもよく似ているそうなのだ。私。
なんでもおじいちゃんとおばあちゃんの出会いは、できすぎ君細胞をもったおじいちゃんが、ほんわかして可愛いおばあちゃんに一目ぼれしたところから始まるそう。
紆余曲折ありつつも、無事にゴールインを果たしたおじいちゃん、おばあちゃんは美男美女遺伝子の方が顕性だったのかそれはとっても見目麗しい子供を生み育て。
それが今日のお父上となるわけですね。はい。
そしてできすぎ君細胞はこんどはできすぎちゃん細胞と出会い。
できすぎちゃん細胞は、一応お父さんの事も好きだけどなんだかできすぎ君、ちゃん細胞に激強な、おばあちゃんにぞっこんになって嫁いできてくれたそうです。
で、お母様はできすぎちゃん、できすぎ君を生み、おばあちゃんにそっくりな私を産んだ、と。
つまりまぁ、そういうことです。
時たまその何を食べても太らない、できすぎ君ちゃん細胞に嫉妬したりはするけれど、
私はこのままの私がいいんだよと、おやつをむやみやたらに与えてくる家族ばかりだけれど。
私は、負けない!
女の子はぽっちゃり位が激かわなんだから!
と熱弁ふるおうったって、結局パパはママみたいなスレンダーとったじゃん!
女の子には適度な柔らかさが絶対必要なのよ!
って言ったって、おねぇちゃんの方が私より圧倒的にもてもてじゃん!
そんな家族のあまあま攻撃には負けません!
佐々木めいは、今、ここに、宣言いたします!
夜中のお菓子は、とってもおいしくても、いくら翔くんに誘われたって今後一切食べないと!
昨日のあのお菓子のせいで、いくら太ったかと、!
くそぅ。
……まぁ、でもほら。
お客様が来るのは明日だし。今日の内にはちゃんと出来ているか確認しといたほうがいいし。
ここでもし、ほら。失敗していたらやり直しできるわけだし。やっぱり、味見は必要だよね、うん。
紘太先輩には変なもの食べさせられないし。
いくら作りなれてても、絶対失敗していないっていう保証にはならないし。
逆に作りなれているからこそ、丁寧に手順を踏んでいるつもりでもちゃんと確認しといたほうがいいよね、うん。
……という訳で。
今日は特別! 明日から決意をあらたに頑張らせていただきます!
心の中でかたく、かたく、意志を固めて。
きっ、と眼差しをするどくし、ぐっと両手を握って誰ともなしに自分へと誓う。
そして目の前でなんとも素敵なにおいを放つ、自分で作った出来立てのお菓子に陥落したのであります。
「お菓子って、罪深い」
細心の注意を払って作り上げたお菓子は、それはそれは自分で言うのもなんだけど。ふっわふわで美味くて。
一晩ねかせてさらにおいしくなると思われるこれなら、立派なお菓子として提供できると一人、頷いた。