敵は、他にいる。 *翔平 おまけ
「ただいまー」
「おかえりー」
何だかんだと授業が終わった後も紘太と話をしてから帰ってきたので、いつもよりも遅くなりながら帰れば、そこには姉ちゃんがいて。
うぉ。タイムリー。
いつもよりもお早いご帰宅に、いつもと逆転した挨拶を交わした。
「今日は姉ちゃん、早いね」
「めいちゃんが私の、好きな物作ってくれるって言ったから」
ふふん、うらやましいでしょ。
と言いたげな、誇らしげな表情には最早何も言うまい。
だって、基本俺と同じ思考ラインにいる人だ。その気持ちはよく分かる。
そしてまったくもって、その通り。うらやましいと俺の顔にも出ているのだろう。満足げに俺を見やるその目は、愉悦を孕んでいて。
「今日は頑張ってみましーた」
はずむ声色に、けれど基本めいちゃんは皆のリクエストを聞いてくれるので、実質あまり自慢するまでもないことなのだがしかし。
それはそれ、これはこれってやつだろう。
いいなぁと思う気持ちは止められない。
くそ。
なんて思っているところに、めいちゃんの声。
「早かったもんね。お疲れ様」
柔らかな可愛らしい笑顔で、姉ちゃんを労うめいちゃん。
あー、可愛い。
そんな笑顔を向けられている姉ちゃんも、それはそれは嬉しそうに微笑んでいて。
「ありがとう。めーいーちゃん」
いい大人のゆるゆるな表情に、弟はちょっと引き気味です。
まぁきっと、人の事は言えないだろうけど。
「おかえり、翔くん」
「ただいま」
そしてちゃんと、俺にも笑顔を向けてくれるめいちゃんに、世の中の妹嫌い人口への理解できない思いが深まった。
今日は色々あったけれど、今日もめいちゃんに癒されて一日が終わる。
あぁ、なんて素敵な生活だろう。
のんきに幸せな気持ちに浸っていたのに。
「あぁ、翔平。後でちょっと顔かしなさいね」
さらりと告げられた、めいちゃんに対する優しさなど、一ミリも感じられないお姉様からのお達しによって、そんな気持ちは一気に吹き飛んでゆく。
それも、めいちゃんが俺のご飯を用意するために台所に行っている間に言ってくる辺り。
さすが、わがお姉様。
あぁ、なんて浮き沈みの激しい一日なんだろう。
せっかくの幸せ状態から一転、予想しうる恐怖の幕開けに俺は体を震わせた。