表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/43

敵は、他にいる。 *翔平


「お前今、その子に告白されてんだろっ!?」


 紘太と揉めていてうるさかったはずの空間に、不意に訪れた静かさが、俺の叫び声の名残をやけに響かせて。

 言った瞬間、ガラリと変わった空気は、なにやら目の前にいる紘太から出てきたよう。


「……なぁ、翔平?」

「あぁ!?」


 けれど、熱くなっていた俺はすぐには切り替えなんてできずに、低く、低くなった紘太の声を一度受け流してしまう。

 俺自身、低く返事を返したのだけれど、


「お前さ、俺の事応援してくれてるの? それとも、邪魔してるの?」

「あ?」


 ごもっとも、な俺の矛盾を紘太は指摘。

 さらにぐっと、低くなった紘太の声に俺はやっと事態を飲み込み始めた。


「俺、大抵の事はどうでもいいから許せるけど、めいちゃんの事で俺の事疑うのはちょっと、心外だな」

「…………えっと」


 それと同時に、胸ぐらをつかんでいた俺の手を止めようとしていた紘太の手に、逆にぐぐっと力が入っていき、反対に俺の手の力は弱まって。

 今ではもう、どっちがどっちを捕まえているのか分からない状態で。


 いやに力の増した紘太の握力と、その眼光に、俺はもう……。


 挙動不審に陥ってしまった。


 だって、紘太……。


 これ、桜庭が言っていたやつである。


 認めたくないけれど、コレ……。


 紘太君、激おこ状態じゃ、ないでしょうか……?


「それにこれは、もともとお前が原因だって、少しはその足りない頭でも理解して欲しかったんだけど、」

「あっと、……?」


 一つ一つ、丁寧に。

 決して早口ではないゆっくりと、やけにはっきりとした単調で。

 こちらに理解させるかのように告げてくる紘太に、しかしながら追い込まれていくしかない俺である。

 

 紘太の意図とは反対に? 紘太の告げてくる言葉をすんなりと理解できないでいる。


 だって、紘太君、君、怖いのです。

 じりじりと、紘太が掛けてくる圧が凄くて。


 掴まれていなければ、ちょっと俺、今すぐ逃げ出したいなぁ、なんて。

 思ってしまうのは仕方ないだろう? コレ。


 若干現実逃避をしてしまっている俺をおいて、紘太は続ける。


「そんなにお前が俺の事、信用できないんだったら、別にいいけどさ、」

「こう、た、さん?」


 ここまで真顔で来ていた紘太が、それは爽やかに。やけに爽やかに不意に笑い。

 力を込めて握られていた俺の手が、ようやく離されたけれど。


 また、俺は別の物も切り離される。


「お前、今期の理系終わったな」

「紘太様!! すみませんでしたっ!!」


 これを言われてしまえば、もう終わり。

 中間は終わったからこその今期という一択に、最終通告は甘んじて受け入れるしかないだろう。

 素直に全面的に、こちらの負けを認めてしまう。


 言われた瞬間に頭を下げた俺に、紘太は呆れたようなため息を吐いて、自分の気持ちも切り替えたようで。

 いつもの紘太の調子で、柔らかくなった態度に、声音。

 その途端、すんなりと入ってくる言葉たち。


「俺さぁ、結構女子たちから翔平への取次頼まれるの多くて。そういうのってどうかと思って断ってたんだよね。でもお前、別にいいみたいだから。ちょうどいいしその子の話聞いてあげなよ。お前に話、あるんだって」

「!」


 その言葉たちに、この状況の意味を知る。これはもう、俺が全面的に悪い。


 めいちゃんの事なんて一切関係なく、紘太にとっては何もしてないのに、むしろ俺の事で迷惑かけられている所にその、本人が殴りかかってきたようなもの。

 見当違いも甚だしい。


「ちゃんと、聞いてあげなね?」

「はい」


 思えば始めから。

 俺がここに来た時の空気、それは決して甘いものではなく。


 そいうやこの子、紘太に向かってメンチ切ってなかったっけ?

 なんて、冷静になればなるほど今更な情報が今、頭に入ってくる。


 つまり、ちゃんと見てはいたという事で。自分の思考の狭さに嘆くしかないだろう。


 あぁ、俺ってほんとバカ。


 自分自身に呆れて泣きたくなっていると、紘太は続けた。


「あのさ、色々言いたいこともあったんだけど理解してくれたみたいだから。とりあえず、これだけ言っておこうかな?」


「告白されていると思ってる所に踏み込んでくるのも、どうかとは思うよ?」


 その全くもって真っ当な紘太の意見に、俺は全面支持に回り素直に頷く。


「ハイ」


 まぁ、落ち着いて考えれば言われるまでもない。

 状況によるけれど、真っ当な告白シーンであるならば邪魔するのは無粋すぎるから。

 今回は違ったからまだ良かったものの、これが本当の告白だったなら。罪は深すぎる。


 じゃあと、軽く手を上げて去っていく紘太を見送って、俺に用があるという女子に向き直れば。

 そこには紘太へと向けていた険しい表情ではなく、胸の前で手を組み、頬を染め、こちらを上目づかいで見てくる女子が一人。


 いやに速い変わり身に、やっぱり女子への苦手意識を感じてしまう。


 そもそも、よくよく考えてもみれば。

 桜庭にはめられたから今ここに、俺は居るんじゃないかと思ったけれど。あいつも上手いこと言ったものだ。


 確かに目の前に佇む子は黒髪のセミロング。

 表面上は、清純そうな見た目。


 それに、俺が勝手に思っただけで、あいつは一言も可愛い子とは言ってはいなかった。


 ある意味流石な桜庭だ。

 いい加減仲直りしろよという意図がそこには見えて。


 あぁ、それなら俺はこれもどうにかしなければならない。


「あの、翔平くん」 


 ためらい交じりに口を開いてくるその子の対応も、しなければならない。

 俺の知らないところで、紘太に迷惑かけていたのを気付けなかったことに、凄く、後悔してしまう。


 あぁ、ほんと。

 俺ってバカだなぁ。


 なんて思うと同時に、


 そりゃあ、めいちゃんも紘太の事好きになるよなぁと改めて納得してしまう。

 そもそも、俺も紘太の事好きなのだから、いい奴なのは分かっていたんだけれど。


 だからこそ、家にも呼んでいるのだけれど。


 これはもう、俺の完敗だった。


 それでも、一つだけ言えるのは。


 ……めいちゃん命の、小物も小物の俺よりも、もっともっと厄介者の、言うなればボス的存在。

 現時点での家のボスは、そう簡単にはめいちゃんとの仲を許してくれないだろうから。


 だからな紘太、俺は言っておく。

 

 敵は、他にいる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ