俺の勘だと……! *翔平
昼休みも残り十五分を切った頃。
出て行ってから十分は経っているはずなのに、いまだ紘太は帰ってこない。
何だか落ち着かなくて、人が教室に入ってくるたびに視線を送るけれど、どれもこれも違うやつ。
別に紘太の心配なんかしてはいないのだけど、まぁ、なんとなく気になるかなぁ、という訳で。
あぁ、また違った。
今度こそ、と思った先にいたのは俺と紘太を絶交期間へと導いた情報提供者の桜庭で。
軽く教室を見回してから、目当ての奴がいなかったのか。目が合ってしまった俺に、声を掛けてきた。
「しょうー」
「んー」
今はあんまり感じ良くできなくて。ふくれっ面で返事をすれば。
「紘太知らねー?」
よりにもよって、ソレお前が聞いてくる? な質問に、ふてくされ具合は上がる一方だ。
「ったく、なんで俺に聞くんだよ」
「あ、わりぃーお前らまだ絶交期間中だもんな」
「…………」
おかしそうに笑う桜庭に、少しばかりのイラつきが。
ふっと、顔を背けると笑い声が増して。
「翔平、お前はやく謝っとけよー」
「なんで俺!? 悪いの紘太だし!」
やけに真っ当な事を言われてしまう。
反射的に返してしまった俺に、更に桜庭は続けてきた。
「はいはい、紘太が本気で怒る前に謝っといた方がいいぞー」
やけに真実味のあるその言葉に、一瞬反応してしまう。
確かに、めったに怒らない奴が怒ると怖いのは真実で。それは決して、紘太が例外な訳ではなく。
むしろ紘太の実例で、初めて知った真実というやつだった。
あ、俺いま詰んでる?
少しばかりの危機感が、ここで表面上になったけれど。
「んー、じゃあ女子に呼ばれてまだ帰ってきてないのか」
「あぁん?」
聞き逃せない事を言われて、顔を桜庭へと向け直す。
すると、俺の反応が桜庭の期待した通りだったんだろう。楽しげににやりと笑うその顔に、苛々が募る。
「セミロングの黒髪の子で、清純そうだったなー」
めいちゃんも、肩までのセミロング。
この学校はあまり派手過ぎなければ髪を染めても、うるさくは言われないのに、黒髪。
かつ、紘太が呼ばれるくらいの親しい子?
んでもって、清純そうで可愛い子?
めいちゃんしかいなくね??
そう思ったらもう駄目だった。
「桜庭、紘太どこ行った?」
音を立てて立ち上がり、ガンを飛ばしてしまうのはもう仕方ないだろう。
「あー? そこまで見てねぇよー」
そりゃそうだ。一々見る奴なんていないよな。
カッとながらもどこか冷静な部分でもっともだと思いながらも、桜庭に背を向け教室を出ていこうとした時、声は続く。
「けど! 俺の勘だとあーゆータイプの女子は、階段の最上階!」
面白そうに告げる桜庭の推測に、飲み込むより早く別のクラスメイトからヤジが飛ぶ。
「あ、桜庭の勘は大抵反対が正しいからなー!」
「おいおい」
情けなさを感じる桜庭の声を耳にして。
とりあえず、桜庭ではなくクラスメイトを信じて下に向かって走り出す。
◇◇◇
あまり探すことなく見つけることができたのは、果たして桜庭のおかげか、それにヤジを飛ばしたクラスメイトのおかげか。
どちらかは分からないけれど、俺の目の前には女子の姿とこっちに背を向けている紘太の姿。
けれどそこにあったのは、決してめいちゃんと紘太の幸せそうな密談ではなく。
まったく赤の他人の女子と、紘太の姿。
それはそれ。違う意味で、俺はムカついた。
「紘太!!」
「翔平?」
俺の呼びかけに、振り向く紘太は不思議な顔をして。呑気に返してくる。
「お前っ! 何浮気してんだよ!!」
「え? ちょ、ちょっとまて、翔平」
何めいちゃんじゃない子と、こんなとこで二人っきりでいるんだよ!
ここへ来るまでの気持ちとはまるで反対の想いが胸にこみあげて。そんな不満な気持ちを込めて駆け寄り、紘太の胸ぐらをぐっとつかんだ。
紘太は紘太で、戸惑いながらも慌てたように、制止するように声を掛けてくるけれど、
「待ったら何になるってんだよ! あん!? めいちゃんに向かって謝れ! 土下座しろ!!」
「めいちゃん? なんでめいちゃんが出てくるのか、ちょっと理解できないんだけど……」
あげく、
「それに今絶交期間じゃなかったっけ?」
なんて、どうでもいいこと言ってくるから!
俺はもう、ブチ切れるぞ、この野郎!!
「お前今、その子に告白されてんだろっ!?」
って、俺が叫んだ瞬間の空気はもう忘れられない。