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めんどくさい。まったく面倒くさい奴である。 *紘太


 ◇◇◇


 拝啓 居もしない想像上のお姉様へ。


  あなたの不肖の弟、紘太は只今友達に一方的に絶交週間を宣告されています。

  いい加減、面倒になってきたのでそろそろやめてくれるように言ってくれると助かります。


 敬具 あなたの弟設定の紘太より。


 ◇◇◇


 最近やけにめいちゃんと話している時とか絡んでくるなぁと、思った途端にこれで。

 あげく自分から始めた絶交期間だというのに、当の本人である翔平の視線がうるさい。

 ちらちらと俺をうかがうように見てくるのだから、いい加減諦めて宣言撤回すればいいものを。


 ったく、めんどくさい。まったく面倒くさい奴である。


 だいたいあいつ、宣言した次の日から土日と休日で、あけて月曜日の一発目なんて自ら声をかけてきた程だった。

 言った直後にあ、なんて抜けたことを呟いていたので一度は見逃してやろうと、あまりにも間抜けた行動、間抜けた顔に免じて、許してやった。


 そもそも、一方的に訳も分からずふっかけられている絶交なので、こちらとしては付き合う義理もないのだけれど。


 そこはまぁ、友情ってやつで。

 ちゃっかり来週いっぱいとか言ってたし。それくらいならいいかと、しかたなく。


 けれど、少し離れた場所から、どこか居心地の悪そうにこちらを見てくる翔平に付き合うのも飽きたので。


 とりあえず、トイレにでも行きますか。


 内心大きなため息を吐いて立ち上がり、


 あー。感じる感じる。


 背を向けた途端にがっつりと感じる翔平の視線を浴びながら、廊下へと出た。


 ったく、普段は頭のいいやつなのに、ことめいちゃんの事になると熱くなって馬鹿になる。残念なイケメンとはこのことだろうな。


「おー、こーた」


 トイレはまっすぐと伸びた廊下の先。

 のんびり歩いて向かっていると、他のクラスの友達と壁を背にして話し込んでいたクラスメイトの桜庭が、声をかけてきた。

 この面倒週間の、発端者と言ってもいいだろう奴。


 普通にいい奴なのだけれど、女の子に軽いのはいただけない。

 まぁ、大抵は声をかけるだけの軽さなのだけれど。


「よー、ってかお前この間は余計な事言ってくれやがって」


 翔平のいる所で話すのも何なので。今まで何も言わなかったし、言うつもりもなかったけれど。

 声をかけられたからには一応文句を言っておく。


 すると、発端者桜庭よ。お前って奴は。


「あん? まだ絶交中なの? うける。小学生かよ翔平」


 他人事のように爆笑してくださりやがった。


 まぁ、他人事だろうけどさ。


 そんな桜庭の言葉に、まさしく真理だと重々しく頷いておく。


「まったくだ」


 躊躇いなく頷いた俺を見て、話を聞いていた友達は笑い、桜庭も笑って。


「で? あのかわいい子だれ?」


 お前、忘れてなかったのかと思うような事を聞いてきた。

 そっちは忘れてもらっても良かったんだけどな、さすが桜庭。


「はいはい、あの子はやめとけ。翔平が怒るぞー」


 あの時翔平が睨んだ? 察知した? 通り、桜庭に見られていたかわいい子、はめいちゃんだった訳で。


 翔平のシスコンレーダーには恐れ入る。

 軽いながらもただ真実だけを言っておくと、桜庭はすんなり飲み込んだようだ。


「あ、翔平の片思いの子なの?」

「そんなもん」


 恋愛で言うならば、片思いも何もないけれど。

 シスコン愛で言うならば、ぶっちぎりの片思いと言ってもいいだろう。

 めいちゃんもめいちゃんで、翔平の事は好きだろうけれど、翔平のあのうっとうしさには敵わない。


「ならしょうがねぇな」

「賢明だな」


 すっぱりと諦めた桜庭はなかなか空気を読める奴で。これはこれで女子に人気なのも頷けた。


「紘太も翔平とばっか遊んでないで、偶には俺たちとも遊んでよ」


 遊びのお誘いに、そうだぞーと桜庭の友人達も言ってくれて。

 気が進まないわけでもないけれど。

 このタイミングでそれだと、ますます翔平がめんどくさくなりそうな事も予想できて。


「機会があったらな」


 大人の常套句でかわしておく。

 まぁ、それは桜庭にも分かったようで。


「でたでた。機会は作るもんよ?」


 呆れた顔を挟んだうえで、きらーんと背景に効果音でも背負っていそうなほど、決まった言葉を決まった顔で言ってくる。


「おー、桜庭かっこいい」

「あ、やっぱり?」


 男の子としては素直に称賛してやると、調子に乗って当然とばかりに返してくる桜庭。

 これもこれで憎めない。


「自画自賛」


 とりあえずそれだけは言っといて。じゃあなと手を振れば、気軽に返してくれる桜庭とそのお友達。


「またなー」

「おー」


 次々に掛けてくれる声に適当に返して、止めていた歩みを進めた。


 ……進めたんだが、だがしかし。いくらも行かない場所で、


「日下君」


 今度もまた声をかけられた。


 あーぁ、俺はいつになったらトイレに行けるのか。

 

 切羽はつまってはないものの、行こうとしていけないのはなかなかに辛いものがある。


 少しばかり辛い気持ちで振り返り、相手を見れば。


 あぁ、これまた違う面倒ごとだ。


 面白くなさそうな顔をした、女子が立っていて。

 去年と今年は別のクラスになったけれど、1年の時は同じクラスだった女の子。


「ちょっと、いいかな?」


 なんて。

 断る事なんて想像もしていない女の子は、言うと同時に背を向けて。ついて来いよと背中で語っている。


 待って。

 俺も言いたい。


 ちょっと、いいかな?


 ちょっと、トイレいかせてくれない? と。


 けれど、後ろを確認するでもなく進んでいくその子に、俺はなすすべもなくついていくしかないんだろうな、コレ。

 

 未練がましくトイレのある方に視線を向けてから、ため息をついて後を追った。


 ああぁぁぁ。


 これもそれも、翔平のせいだ。



……といれ( ´・ω・`)

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