絶交宣言 *翔平
憎らしいほど天気のいい空に、中間が終わって一息ついた今日この頃。
一向にやる気は出てはこない。
さらに言えば今日は週末で、明日は休みだというのに……! 最早朝から気分は憂鬱だった。
正確に言うなら、昨日の晩ご飯、昨日の夜のおやつの直後から。
そりゃ最近めいちゃんと紘太の邪魔をしていた自覚もあるし、ごまかした挙句にめいちゃんを使ってしまっているのは悪いとは思っているけれど。
それでも、だって、なんだ。
その。
……自他ともに認めるシスコンとしては、面白くはなかった。
くそっ。
それもこれも全部紘太のせい!
俺の今日のおやつがないのも、めいちゃんお手製のお弁当が、今日は野菜オンリーだったのも、全部全部、紘太のせいだ。
ひどく幼稚な思考だと分かっているけれど、止められない。
思わずジト目になってしまうのはもう、仕方がないとあきらめてくれ。
どことなく、機嫌の良さそうな紘太に八つ当たりせずにはいられない。
から、えいっと前の席にいる紘太の椅子の下を蹴ってやる。
「うおっ」
当然そこに座っている紘太にダメージが行ったわけで。
驚いたように声を上げてなんだなんだと後ろにいる俺を振り返った紘太に、もうはっきり聞いてやる。
「……なんか最近、めいちゃんと仲良くない?」
低くなっていると自分で分かっている声で、ジト目とともに聞いてやる。
すると紘太は、なんだかめんどくさそうな、それでいて少しばかり気まずそうな!
残念だったな紘太、俺の眼はごまかせていない。
様子で、視線を逸らした。
あぁ、こいつは黒である。
俺に対して疚しい気持ちを持ち合わせているぞ、こいつ。
さぁ、さくさく吐いてもらおうかと思ったその時、ふと何気なくクラスメイトが紘太に向けて問いかけた。
それはもう、紘太にとっても俺にとっても? 起爆剤と言えるものだっただろう。
「おーい、紘太! さっきかわいい子と一緒だったなー」
気軽に、誰だよあの子ー、とクラスの中でもチャラい部類に入るそいつが紘太に絡んで。
それに対して紘太は、一瞬やばいなぁという顔のまま俺の顔を見た。
その視線はすぐに逸らされはしたけれど、ずっとお前を見ていた俺の眼はごまかされません。
あーあ、そうですか、紘太さん。
そういう事ですか。そういう事ですね。
何だか移動教室が終わったあたりから嫌に機嫌が良かったのもそういう事ですね!
俺がトイレ寄ってた間に、そういう事があったんですね!
はい、こっちは朝から気分が低空飛行だったというのに、あぁ、紘太さん。それは何だか、ひどい裏切りですね。
と言いますか、元はといえば紘太が最近めいちゃんと仲が良いのが悪いのに!
お前一人だけ良い思いをしすぎではありませんかね?
ふつふつと、俺が紘太に対して不満をためている間に、紘太はこれ以上余計なことを言わせないようにクラスメイトを追いやったようだった。
だが残念、紘太君。
そんなことは最早意味のないことなのです。
「……翔平?」
口元を引きつらせながら俺の名前を呼ぶけれど、分かっているよね? 紘太君。
俺とお前のたった三年目の付き合いと言えど、それはもうなかなかに仲のいい時間を過ごしてきているはずだから。
分かっているよね? 紘太君。
「紘太、お前とは来週いっぱい絶交な! めいちゃんのお菓子を食べれるなんて思うなよ!!」
ちょうど、来週は紘太が前に好きだと言っていたお菓子を作ろうという事になっていたはずだ。
俺ばっかり損しておいて、そんないい思いをさせてたまるかと、本格的に阻止してやることに決めた!
今、心に決めた!!
「おい、翔平。待てって」
今更慌てたって遅いのだよ、紘太君。
音を立てて席を立ち、ばんっと両手を机について紘太を睨み付けたその時だ。
俺の頭にぴしっと、わがクラスの担任が持つ出席簿が綺麗な音を立て、直撃。
「はいはい。次の授業始めまーす、何か決めてるところ悪いけど、席についてくださーい」
担任の言葉に、いつの間にやら大人しく席についていたクラスメート達が笑い。紘太は、何やら呆れ顔で前に向き直る。
それにならって大人しく椅子に座りなおした俺は、ふくれっつらで紘太の後頭部にガンを飛ばしておいた。
これも全部、紘太のせいだ。