まっくろくろすけ。
そっとしておこうとは思ったものの、
…………なんだか、最近。
翔くんの、視線がうるさい。
というか、うるさすぎた。
何か用があるのかと聞いてみるのだけれど、良くて何でもないって返されて。悪くて、私の事を都合よく使ってくる。ジュースのおかわりとかね。
まったく、妹使いの荒い兄である。
あんまりひどくなったら朱莉ちゃんに泣きついてやろうと密かに心に決めて、けれど大したことでもないので自分のついでにすませてしまう。
「はい、どーぞ」
「ありがとー」
ほらまた。
飲み物を渡して終わりでしょ、って思っても翔くんの視線は私に向けられたままで。
そろそろ白状しませんか?
なんて思ってもいるのだけれど、実際のところ翔くんが何を聞きたいのかこれかなぁ? っていう心当たりはある。
だからきっと、翔くんにしてみれば私の方こそ白状しません? 的に思っているだろうと、可愛い妹は邪推しています。
だって最近、うすうす気づいてはいたけれど、
「めーいーちゃーん!」
「紘太、次の時間移動!!」
「めいちゃんってばー」
「紘太!」
紘太先輩と私が話していたり、偶に校内ですれ違ったりする時とか。見事なまでに邪魔してくるのだ。
この前家で紘太先輩と私が台所で話していた時もそうだし、昼休みにさっちゃんと話していた時もそう。
翔くんはきっと、私と紘太先輩の仲を疑っている。間違いない。
私が一方的に紘太先輩に慕っているだけなのに、まったくもう!
だいたい、翔くんは分かりやすすぎる。
これでばれていないと思っているのなら、翔くんは抜けている。
…………?
あれ?
なんだかどこかで、それも最近? 聞いたことがあるような気がする。
気がするんだけれど……。
まぁ、気のせいにしておこう。気のせい気のせい。
それはともかくとして、翔くんの勘違いで紘太先輩に迷惑をかけてなければいいけれど。
少しばかり不安になった私は、いい加減はっきりしようかという思いも込めて、聞いてみる。
一週間以上は待っているのだ、そろそろいいでしょう?
ちらりちらりと、問いかけを含んだ視線を飽きることなくむけてくる翔くんに、視線を合わせ。
「翔くん、紘太先輩と話してる時、わざと呼んでるでしょ」
断定的になってしまうのはもう、しょうがないでしょう。私としてはもうそういう事なのだと思っているから。
そんな私の言葉に、さすがは分かりやすい翔くん。
うろたえたようにまっすぐと私に向けていた視線を瞬時に背け、あっちにこっちに視線を泳がせ始めた。
それも、無理やりすぎる、硬くなった笑顔とともに。
明らかな挙動不審。まさしくこれが典型的と言うのだろう、挙動不審を体現してくれている。
「え? えー? なんのことかなー?」
チョット、オニイチャン、ワカラナイナー。
普段は自分の事をお兄ちゃんとか言わない翔くん。
これはもう、疑うことなきまっくろくろすけ。紛うことなき黒である。
分かりやすすぎて、ちょっとイラッとしてしまう。
「…………翔くん、明日のおやつなしね」
「えっ!」
食後のデザートこと食後のおやつ。
紘太先輩が遊びに来ない日は夕飯の前におやつを食べるのではなくて、食後にしている。
その、おやつ。
今日の分はたった今食べ終わっているので、取り上げることはできないから。
明日の、おやつ。
「あーあ、明日は翔くんの好きなじゃがいものメープルケーキにしようと思ってたのになぁ、残念だなぁ」
ちっとも残感をかもし出してはいないけど、翔くんからふいっと顔を背けて言ってやる。
焦ったように私の名前を呼んでくるけれど、何度かあげた機会をふいにしているのは翔くんだもん。
知らないふりをして、自分の部屋に戻ろっと。
大体にして、食欲旺盛な高校男児である翔くんのために作っている日々のおやつだ。
太りやすく痩せにくい私には、いい機会でしょう。
作っちゃうともちろん食べちゃうから、明日は休肝日ならぬ休お菓子日。
今週は土曜日曜と学校もないし、ちょうどいいからプチとも呼べないほどの、プチプチダイエットでもしようかな。
そうだ、そうしよう。
自分の考えに夢中になった私は、もう翔くんの事は頭の外にあった。




