桜プリン
今日もまた、翔くんに連れられて紘太先輩が家に遊びに来てくれて。
いそいそとおやつを用意して食べてもらったのだけれど、今回も好評だったよう。
ちなみに今日のおやつは和風に、若鮎に挑戦してみました。
楕円形に成型したしっとりとした生地の中に、求肥とかあんこを包んで魚の鮎のように見立ててあるお菓子で。顔やしっぽ等はチョコペンで描いてみて、自分なりにはとっても可愛く出来たと大満足です。
昨日のうちに作り終えていたので、今度こそ純粋な気持ちでつくったお菓子としてさっちゃんにも進呈済み。
さっちゃんには特別に別バージョン。
さっちゃんは粒あんが苦手だし、チョコが好きなので中身をチョコレートにしてみたら。
これもまた、美味しいと喜んでくれました。
次はずんだ餡も作って入れてみようと決意して、夕飯の準備に取り掛かる。
冷蔵庫を開けると、紘太先輩からもらったお菓子が置いてあって。自然と緩む頬は抑えられなかった。
ついでにはな歌までうたってしまおう。
紘太先輩が家に遊びに来てくれるようになったのは、翔くんが高校一年生。私が中学二年生の時だから、約二年のお付き合い。
初めて家に来てくれた時からほぼ一か月に二回、多くて三、四回程遊びに来てくれて。
その度にお菓子を提供しているのだけれど、家は三人きょうだいなのでそれに一人分増えたところで大して変わらないし、逆に翔くんのお友達ではあるけれど、お客様なので。
張り合いというか、やる気というか。
丁寧さがぐっと上がったくらいなので、迷惑なんてかけらもなく。ありがたいほどなのです。
一月なんてお正月用に買ったお餅があまっちゃって、それをおかきにしておやつに出して食べてもらったほどだし。
ありがたや、ありがたや。
なのだけれど、紘太先輩はもらってばかりも悪いから、とたまにお菓子をくれるのだ。
そんな経緯で貰っているお菓子なのだけれど、それこそ悪いなぁと。
毎回毎回こちらから押し付けているようなものなのに、迷惑じゃないかと思ったこともあって。
翔くんに相談したらそれならそれで本人が言うだろうし、紘太先輩自身、本心で喜んでくれているとのことだったので、遠慮なく作ったお菓子をお持ち帰りしてもらっている。
そして、買ってきてくれるお菓子は私が好きなお店のプリン。
何やら翔くんに私の好きなものを聞いてくれたらしくて、季節ごとで変わっていく味をその度に紘太先輩は買ってきてくれている。
それも、翔くんの分と朱莉ちゃんの分と、私の分とで三人分。
申し訳なさが倍増です。
けれど、いつものお礼と魔性の微笑みと共に渡してくれるので、ありがたくいただくしか私に術はなく。
もっともっと、美味しいものを作ります! と心で誓って次の励みにしております。
それに去年は私が、今年は翔くんと紘太先輩自身が受験生となるので遊びに来てくれる回数がぐっと減るだろうし。
一つ一つをより丁寧に作っていこうと思うのです。
◇◇◇
晩御飯を終えて、お風呂も入って。
さぁデザート、デザート!
はずむ気持ちで貰いもののプリンを手にすると、瓶に入ったプリンはまだ春の物で、淡く色付けがされてある桜プリン。
旨みが凝縮している、ちょっと硬くなった上の部分を一口食べて。
それからとろける層へとスプーンを進めていけば、最後にはとろりとしたソースが待っている。
ああぁぁ。
いい意味で変わらない美味しさに、私は毎度のごとく陥落してしまう。
やっぱりプロの味にはかなわないのだけれど、私は私で家庭で作るような素朴なお菓子の最上級を目指さねば。
ぐっと決意とともに、食べていくとすぐに瓶の底の範囲が増えていき。
あっという間に、食べ終わり。
「ごちそうさまでした」
今回の桜プリンもありがたくちょうだいいたしました、紘太先輩ありがとうございます!
先輩自身にももちろんお礼は言ってはいるものの、何度でも言いたくなるのです。
桜プリンの美味しさに浸っていた所に、お風呂から上がった翔くんがやってきて。
「なになにー? 今回は何ぷりん?」
「桜プリンー」
髪をざつに拭きながら聞いてくるので、私は余韻に浸りながら返しておくと、翔くんはそのまま冷蔵庫へとむかい自分の分をとってくる。
「うん、うまい」
自分の席に座ると同時に食べ始めた、その一すくい一すくが大きくて、翔くんもあっと言う間に食べ終わる。
私と違ってその間、三分も経ってはいない。
あぁ、もったいないと思いつつも、人それぞれなので口にはださずに。
自分のついでと、翔くんからも食べ終えて空いた瓶とスプーンを受け取って、台所へと持っていく。
「……めいちゃーん」
「うーん?」
シンクにそのまま置いて、少ない量なので自分で洗ってしまおうと。スポンジを手に取ったところで翔くんからの呼び声。
洗剤をつけながら気楽に応えたのだけれど、翔くんから次の言葉がなかなか返ってこない。
「翔くん? なにー?」
すぐに洗い物は終わって。
水にぬれた手を拭きつつ、台所からダイニングのテーブルに座っている翔くんを見ながらもう一度、聞いてみる。
すると翔くんも、私の方を向いて何か言おうと口を開くのだけど、結局やめてしまって。
大きなため息をつくと、何でもないってあきらめた。
「そう?」
目を瞬いて、変な翔くんと思いつつ。
まぁ何か用があったらまた言ってくるでしょうと、一人で納得してそっとしておく。
翔くんも、お年頃だしね!
気の使える妹としては、そっとしておくに限ります。