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貧民街の異端児 2ー2

「ラーメン一つ!!」


 キター!! この世界でやっと出会えたラーメン! 待ち遠しくて仕方がない!


「ほいっ! お待ち! お代は」

「このバッジでいいの?」


「おお、お? 貴方みたいな生徒会役員見たことないけどそのバッジはどうしたんだい?」

「生徒会長にさっき貰った! それよりもう食べてきていい?」


「ほいほい、庶民の定番に何をそんなに急ぐことがあるんだか」

「初めてなの! 」

「……そうかい、いつでも食べにおいで」

「うん!」


 ほんのり温かい目で見られたが、それは貧民だから食べたことがないということだろう。


 事実、貧民に対して料理を振舞ってくれる料理店は少ない。それに振舞ってくれる店のほとんどがぼったくり、貧民をただの金蔓としか思っていないクズが経営する店だ。


 あの食堂のおばあちゃんはいい人だ。これからも仲良くやっていきたい。


「おっラーメンを頼んだんだね! 私はグリークまんにしたよ! 」


 窓際の席に先輩は席を取っておいてくれた。

 先輩の手には緑色の肉まんのようなものが握られている。


「はい、ずっと食べてみたかったんですよ! 先輩のグリークまん? 美味しいんですか?」


 熱々の汁を絡ませ、外から差し込む日光を反射してキラキラと輝く麺を啜る。濃厚な汁は麺によく馴染んでいて口当たりも良い。チャーシューは何の肉を使っているかは分からないがとても柔らかい。


 それに比べ、グリークまんはとてもではないが食欲が湧く色合いではない。外は緑色、中は青色だ。


「美味しいんだよこれが! 外は薬草、中は人喰いウツボ草の葉肉、一口あげるよ!」


『人喰いウツボ草』は魔物の一種である。森などにも出現することがあるが、一定量を手に入れるためには迷宮で狩る方が確実な方法だ。


「では一口だけ」


 匂いはザ・薬草って感じで美味しそうな匂いとは言い難い。


「(先輩もあんなに美味しそうに食べていたんだし大丈夫だろ……)

 っ!? 苦い!? いや脂っこい!?」


 あっはは! という笑い声が食堂のど真ん中当たりから聞こえた。

 味はほら、まあ、食べてみれば分かる。……そこらの草の方がよっぽどマシだ。


「む〜やっぱりダメかー。どうも味覚が違うんだよね」

「まさかここまでとは思っていませんでした」


 うう、すみません。と言って水を受け取る。ああ、水が甘い。味覚が壊れたのかな?


「美味しいでしょ! そのお水は獣人族用だよ」

「これが? こんなにあま、く。成程、味覚が壊れてなくて良かったです」


 つまり、獣人族用の食べ物は極端なのだろう。

 味の変化に疎い獣人族の舌は一般的な種族の繊細な味付けでは満足出来ないということだ。


「まぁーたやったんだ、カルナ姉」

「あっティナ君! また一人?」


 さっき大声で笑っていた人ではないな。今入って来たのかな?


「好んで一人なのではない、俺の力についてこれる奴が少なすぎるのだ!」

「紹介するね、この子が同じ部活の後輩。シャルテアちゃんの一個上の先輩になるのかな」


 身長は低いかな。うん、かなり低い。俺と一緒くらいだ。髪の毛は綺麗な赤毛でおちゃめな目をしている。

 思わず頭を名で撫でしてあげたくなる可愛さだ。


 当の本人のセリフを聞かなければの話だが……。


「カルナ姉紹介がへただよ!後輩よ、改めて名乗らせて頂こう」

「ど、どうぞ」


 片手を顔に当てる。そう、何故かどの世界でも誰もが一度はかかってしまう病気……厨二病。

 片手ポーズはそれを連想させる。


「俺の名は、ティナーグ・ハイボサルト! 漆黒の竜騎士となり竜人族の未来を切り開く見習い騎士だ! 我が爆炎は地を裂き、山を砕き、海を割る! 常に俺の周りには世界の力が」

「長い! いつも通り分かんない!」


 パコッ! 先輩はポケットに入っていた紙を筒状に丸めて擬似ハリセンを作り、遠慮なく頭に振るった。


 頭でいい音を響かせながら自己紹介を中断されたティナーグ・ハイボサルトは如何にも不服な顔をしている。


「カルナ姉、まだ途中」

「もう充分だよ、ねぇ? シャルテアちゃん」

「あっはい。もういいです」


「そ、そうか。俺のことは気軽になんとでも呼んでくれ」

「は、はい。それではティナ先輩で」


 バッチリ患者だったな。男たる者一度は必ずと言ってもいいほど患う病気だが、不治という訳ではない。

 時間が解決してくれるだろう。それにこの黒歴史はいいネタになる。


「ティナ君準備終わったの?」

「当たり前じゃないですか、もう後二十分で始まります」

「あれっ? もうそんな時間!?」


 時計の針はとっくに十二時を過ぎ、三十分を越えたところを指している。


「そろそろ行きますか?」

「ごめんねシャルテアちゃん! 色々教えてあげたかったのに」

「いいですよ。こちらこそ食堂まで連れてきて下さりありがとうございました」


「講義堂の場所は分かる?」


 講義堂は今からオリエンテーションがあるところだ。確か中等部の校舎と上等部の校舎の間だったかな?


「俺が案内していくからカルナ姉は先に行ってくれ。準備貴方だけ終わってないし」

「そ、そうだった!! ごめん、あとは頼んだよ!」


 バタバタといった生易しい足音ではない。ドンッ! バビューン!! って感じだ。流石はハイブリッドビースト。


「それじゃあ行くぞ……後輩」

「ああ、私はシャルテア、ただのシャルテアです」


「行くぞシャルテア! 先輩の俺をどんどん頼ってくれ!」


 うわぁー、この人も裏表がなさそうな表情をするなぁ。

 いい笑顔、前世は死に際まで汚い人間との血みどろの生活ばかりだったので少し眩しすぎるが、悪くは無い。


「では、さっそく一つ。先輩はなんの部活をしているんですか?」

「聞いてないのか? カルナ姉と同じ『日常研究部』だ! てっきりシャルテアも誘われてるかと思ってた」


「えっと、そんなに大きな部活なんですか?」


 内心、超マイナーな日陰クラブかと思ってたのだが、以外にも人数は多いのか?


「初等部と中等部で六人だ! 上等部はいない、というか今の部長が作ったらしい」


 前言撤回、普通に超マイナーどころかほとんど活動してない系クラブではないだろうか。それこそ不定期、夜に遊びに行くだけみたいな感じの。


「えっとカルナムート先輩ではないですよね」

「カルナ姉は違うよ。まあ続きはお楽しみ、客席で聞いててくれ!」


 いつの間にか講義堂の前についていた。ティナ先輩は裏口から入るらしい。何でもそっちの方が舞台袖に近いとかどうとか。


 俺は内心少しウキウキしながら扉の中に足を踏み入れた。

 一歩で俺は、少し場違いなことに気がついた。

読んでくださってありがとうございます!!

感想等宜しかったらお願いします。

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