獣人の国 3ー2
「よし、朝ごはんも食べ終わったことだし、本格的な作戦会議にしようか」
宿の女将さんに朝ご飯を特別に全員分作ってもらい、その朝ご飯を食べ終わったのがつい数十分前、朝日が王樹の陰に隠れ、大通りは今だ夜明け前のような静かさが漂っていた。
「作戦会議って、昨日から思ったけどそんなに急がないといけないの?」
「そうだよぉーイアちゃん! 恐らく明日辺りに私が狙われちゃうからね」
「どうして?」
「明日にはね、国王と、王妃のお葬式があるのよ。火葬なんだけどね、そこで精霊族が10人式に出ないといけないしきたりなのよ。普段は表に出ない精霊族が唯一姿を現さなければならない時よ。……もし、王族の中に犯人がいるなら滅多にないチャンス、狙ってくるでしょうね」
「そんなっ! なんでこの時期に!」
精霊族と魔人族、そこに俺達が合流したその日に王と王妃が死んだ。勢力が拡大し手がつけられなくなる前に精霊族を潰しに来た。
そう考えれば納得は出来るが……。
「精霊族はそんなにも数が少ないのか?」
「……ええ。全員で15人。……変遷を起こすというのは種の絶滅とほぼ同義だからね。間違っても変遷なんて起こっていいものじゃないのよ」
そんなことより詳細を教えろ、と言っても、約束は約束よ、とサラリと流されてしまう。
「じゃあ始めようか。……まず、敵は2勢力ある。1つは王族、もう1つは永劫の教団と思われる魔族よ。どちらも私達よりも数は多いわ。王族側はこの国の全勢力、魔族は数十体くらいと予測されているわ」
「その根拠は?」
「6つの都市が潰された時の情報よ。私自身が調べたからそこは信じられるわ」
神代と同等の力を持つ彼女が言うならそうなのだろう。彼女は俺が納得したのを確認して、再び口を開いた。
「はっきり言っておくわ。狙いは……王族よ。頭が潰れれば国は機能しなくなるわ。その騒動が収まる前にできるだけ魔族も駆逐する。王族が潰れた時点で手を引くでしょうけど、深追いをするつもりは無いわ」
「途中までは理解出来る。けれどなんで深追いしないんだ?」
正直、王族の首よりも魔族を駆逐しておきたい。パンドラと彼らが接触した時にどうなるか分からないからだ。
それに、吸血鬼の国にでも亡命されたら溜まったもんじゃない。1番の目的は吸血鬼の国の平和だ。厄介事は消しておきたい。
「こっちだってしたくないわけじゃないんだよ? けど、王族は闇を抱えてる。そんな国を相手にした後に魔族を相手に出来るとは思えないんだよね」
「そもそも、戦力なんて集まってるのか? 5つの都市を取られたのに王都に戦力が集結してるとは思えないんだけど」
「そこは安心しなさいな。王族の近衛騎士団は全員が揃ってるし、各地から続々と兵が集まってきてるそうよ。けれど王都周辺の見張りに回っているみたいね。まぁ包囲網は完成されたってところかしら」
ああ、なるほど……敵は集結と……。
「ダメじゃないかっ! そこは集結するのを阻止するべきだろうッ!」
「でしょうね。でも、それは時間の無駄よ、手が回り切らないわ。それにこの国の王族を潰した後も彼らがこの国を守るの。死んでもらっては困るわ」
「むー、そこはもういいけど魔族の目的はなんなのさ! 王族はこの国の不穏分子を潰すこと、その為に魔族の手を借りた。じゃあ魔族は?金だけで動かせる相手じゃないと思うけどな〜?」
ラプラスの駄々子モードと、その疑問に一同は黙り込む。確かにここまで魔族はただの駒として動いている。それに、6つの都市が潰された意味がわからない。
王族殺しの罪を擦り付けるなら、病死とは公表しないだろうし、そんな国の中心まで侵入された近衛騎士団の評判もガタ落ちだ。
そして、パンドラ。彼らの首領であるはずの彼女の目撃情報はおかしい程に皆無だ。
「……パンドラ……神代……精霊界……。なにか、なにか無かったか?」
「……っ!? まさかっ!? いや、そんな馬鹿な!!」
「なんだ! 何がある!」
俺が羅列した言葉を聞いたイア、もといパールヴァティーが激しく動揺した。
「……この地には…………古代兵器があるわ。……かつて冥王を殺すために堕天使共が作り上げた代物よ。威力はこの国を跡形もなく消し飛ばす一撃を連射出来るレベル、だったかしらね」
「「「「はっ?」」」」
「「それ如きで冥王を殺せるわけないじゃん!?」」
「「えっ? そっち?」」
前者はそれ如きで冥王を殺せたら苦労はしないという呆れ顔。後者は誰だよ冥王って、それより古代兵器やっべぇぞ、って感じの人達だ。
「まぁ冥王は置いといて、問題は兵器だ。万が一にもそれを魔族に奪われたら勝ちはなくなる。容赦なくぶっぱなす可能性が高い」
一同はゴクリと唾を飲む。一瞬、脳裏に木っ端微塵に吹き飛ぶ自分たちの姿を思い浮かべたからだ。
「今はその古代兵器はどうなってるんだ? 守護兵でも付けてるのか?」
「……冥王の娘…………エレシュキガルの領域だ。冥王は隠居生活を満喫しているそうだ。冥界の主はすでに後継者に任せたって言っていたよ」
結婚してたのか、という疑問はその後すぐに吹き飛ばされた。
「そうなのよ。あのジジィ! 私に全部任せてのんびり暮らしやがって!!」
「「「……………」」」
「大きな声が床から聞こえた気がしたんだけど……気のせいね」
「こらっ! 無視するなよっ!! せっかく遊びに来たんだからさ!」
そこには腰から上、つまり上半身だけが床からはみ出している黒髪の美少女がいた。
正体は誰もが予想していたが、出来れば会いたくないと誰もが思っただろう。
「はじめましてだよな! 私はエレシュキガル、冥王の娘で、冥界の王をやらされてるんだ! よろしくな!」
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