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貧民街の異端児 2ー1

 結果を知った上で見る結果発表ほど安心する物はこの世には存在しないのではないのだろうか?

 今俺はそれを大いに実感している。


「ほっ、ちゃんとあった。ハーダック・ウィズマークがナンバーワン……か」

「様は付けないの? 王子様だよ?」


 自分の双子の弟に様をつけろと言われてもなー、本人の前なら努力しようか。


「まあ、そうですね。それよりナンバーはありがたいです」


 ナンバー制度、それはこの学園だけでなくこの国にある四つの王立学園で使われている制度だ。

 特待生枠である五人に実力順に与えられる。半期に二度、特待生枠、つまりナンバーをかけた下克上試合が行われる。


 ナンバー持ちはこの国で大きな意味を持つ。色々な施設を無料、または特典などが得られる。


 その代わりと言ってはなんだが、他に色々厄介なことはある。


 それを含めてもこの初めにナンバー持ちになれたのは大きなアドバンテージとなる。

 主に……金銭面的に。


 試験結果は完全に実力、座学と実技を合わせた結果だ。

 実技では勿論の事ながら、座学でも差が出たか? 流石は王子様と言うべきなのだろう。


「入学オリエンテーションまでまだ少し時間あるね」

「そうですね、あと一時間後くらい」


 この後は新入生を歓迎、もとい部活、委員勧誘会と呼ぶに相応しい行事がある。

 しかしそれが始まるのは一時、今はまだ十二時前だ。


「先輩、ここの学食で昼食をとろうと思っているのですが案内してくれませんか?」


 別に先輩に案内してもらわなくても迷うことはないとは思うのだが、合格発表まで見に来てくれた先輩だ。できるだけ大切にしたい。


「もちろん! 元々学校案内するつもりだったしね!」

「そうでしたかありがとうございます」


「ところで私の名前は」

「ヤーハ先輩、カルナムート先輩、どっちがいいですか?」

「カルナムート先輩で!」


 愛らしい尻尾がフリフリと揺れる。愛らしいのは尻尾だけではない。

 顔の造形も整っていて、特に目は宝石のように輝いているようにも見える。メガネを取らなくとも美人とわかる顔だ。


 そしてこの無邪気さを前に負の感情を抱くことなど可能なのだろうか。


「んっ? どうしたんだい?」


 綺麗な歯が隙間から覗き、そのはにかんだ笑顔に邪気など浮かぶはずもない。


「いえ、なんでもありませんよ」


 反則級、……負の感情を抱くことなど不可能だな。



 広場を通り過ぎると正面には校舎、左には訓練所、右には訓練所が並んでいる。訓練所は第一から第六まであるらしい。


「そう言えば、制服も着ないで校舎に入っていいのでしょうか?」

「んーいいんじゃない? そんなこと気にしないでいいよ特待生なんだからさ!」


 だそうだ。特待生さまさまだ。


「おい! そこの中等部! むっ? 貴様はカルナムートではないか!」

「あっ生徒会長こんにちは! 今日はどうしたんですか?」


 廊下を歩いている時に横から声をかけてきたのはごつい体をした男子生徒だ。


「校舎の見回りだが、そんなことより! なぜ貧民を連れて校舎を歩いている!? いくら俺でも度し難いぞ!」


 制服から見るに中等部、生徒会長ということは三年生だろうか?


「えーちょっと早く中に入っちゃっただけですよー! この子新入生ですし?」

「お前はまた見え見えの嘘をつきおって。で、なんなんだその子は」


 やっぱり信じてくれないよな……。

 王家から離れてから俺とキールは貧民に紛れていたと言っても衣食住には困らなかった。


 心の中では『俺は貧民とは違う』と思っていたのだろう。それは否定出来ない。


 しかし、この学園の入学試験で自分が貧民だと言うことを実感した。服装、髪型、名前、それらの全てが俺を貧民だということを示している。


 ーーーー相手にもされない。しょうがないとは分かってはいても悲しいものだ。


「失礼ですよ生徒会長! 彼女はナンバー持ち、それも例の王子様に次ぐナンバーツーです!」

「えっ!? 本当なのか?」

「ええ、はい」


「……………」


 ポッカーン、、おーい。完全に放心状態だ。なんか悪いことをしたような気になってきた。


「なんかすみません」


「君が謝る必要は無い! むしろ、いや完全に謝らねばならんのはこっちだ! 本当にすまない!生徒会長という立場にありながら数々の非礼を働いてしまった!」


 曇のない瞳をしている。嘘をつくことを経験したことがないのでは? とまで思うほどだ。


「気にしないでください。これからも是非よろしくしてください」

「もちろんだとも! お詫びと言ってはなんだがこれをあげよう」


 手に渡されたのは小さなバッジだ。特に何の変哲もなく、魔力を込められたものでもない。


「これは?」

「学食の特権バッジだ。一部を除いたほとんどのメニューが無料で食べれる」

「っ!? 本当ですか!!」


 ごめんなさい! 要らなさそうとか思った俺がバカでした!

 食費もタダ、その他特等生の特権でタダ、この学園をほとんど無料で謳歌できるぜ!


「ああ、もちろんだ。さっそく使ってみるといいよ!」

「ええ、遠慮なく貰っておきます! 本当にありがとうございます!!」

「よっ、喜んでくれて何よりだ」


 あまりの感謝に若干引き気味の様子は見られるがそんなことが気にならないぐらいに嬉しかった。


「じゃあそろそろ行くよ。生徒会長も忙しいんじゃない」

「むっ、そろそろ行かねば。ではまた後でな!」


 騒がしくも熱くて楽しそうな人だったな~。この学園に来てからいい縁ばかりな気がする。順風満帆過ぎて怖いな。


「カルナムート先輩、このバッジってどうやったら貰えるんですか?」

「生徒会に入れば貰えるよ」


 生徒会か、めんどくさそうではあるがそれを我慢すればこのバッジが手に入る。等値交換どころか完全に黒字だな。


「生徒会にはどうすれば入れるんですか?」


 出来れば入りたい、今すぐにでも!


「成績と人望かな〜、ああ、推薦枠って言うのがあってね。それは前任の生徒会長が一人だけ生徒会役員を推薦できるんだ」

「ということは私がなる為には人望が必要ですね」


 貧民に人望が生まれるかどうかは別として、いやそもそもプライドの塊のような貴族共の上に貧民が立つことが世間的に許されるものなのか?


「今のところ貧民ながら初等部を卒業した人はいないからシャルテアちゃんは頑張ってねー!」

「そ、そんなになんですか!?」


「シャルテアちゃんが考えているのは貴族達からの当たりの強さのことかな?」

「そうです。それ以外にも障害が!?」


「無いとは言えないなぁ〜。まず当たりの強さでいえば貴族達もだけど、教師にも注意を払っておくべきだ」

「教師、試験官を務めていた人達ですか」


 確かに試験の時点で態度が明らか違った。校長はそうは感じなかったが横の教頭も俺の事を見下しているのが丸分かりだった。


「うん。まぁ成績に直結してくるのは教師だからね。それともう一つ、貧民の子らが辞めていった大きな理由だ」

「……それは?」


「成績だよ。今まで貧民にナンバー持ちはいなかった。君は次の下克上試合で物凄い数の試合をこなさなければならないだろう」

「そう、ですね。流石にしんどそうです」


 うっそでーーす!!

 単純にめんどくさそうでやりたくないと今この時点から思い始めているだけだ。


 下克上試合までに力を示さないと数十人に試合を挑まれる。しかもその審判でさえも敵だろう。


 では、力を発揮し、力を周りに知らしめるとどうなるか? それをよく思わない貴族に叩かれる。出た杭は打たれるものなのだ。


 貴族の権力を使えば貧民一匹処理することなど容易いだろう。

 たとえ抵抗したとしても最終的には父や母の前で裁かれることになるはずだ。

 ここまでして生かしてくれた両親に迷惑をかけるわけにはいかない。

 もちろんキールにもな。


「続きはご飯を食べながらにしよ! ここがお待ちかねの食堂だ!!」

「おおっ!」


 未知の食への扉は開かれた! 我いざゆかん!


「何してるの? はやくー」

「ちょ、待ってください!」


 この世界では初めて匂う野生の美味の香りが漂ってきた。もう待ちきれない!

 俺はダッシュで中に入りメニューを確認するやいなや大声で注文した。


「ラーメン一つ!!」

読んでくださってありがとうございます!!

感想等宜しかったらお願いします。

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