獣人の国 2ー2
「やぁ、私達が人間の協力者だ。第3勢力の皆さん、これからよろしく。気軽に睦月って呼んでくれ」
「こちらこそだ、ムツキ。私のことはシールと呼んでくれ」
いつの間にか約束の刻限になっていたらしい。
元奴隷たちだった彼らは無事預けることが出来、なんの支障もなくここまで辿り着いたそうだ。
「あっ、ラプラス! どこ行ってたんだ?」
「いやー、ガールズトークはちょっとハードルが高そうだったから外で日向ぼっこを堪能していたんだよ。いつの間にか日も暮れてたんだけどねー」
「ハードルが高いも何もないんじゃないのか?」
「そうでもないよー、私が話したら……無駄に生々しくなるよ?」
どうやらあまり社交的ではなかったラプラスがガールズトーク話せる話題は人体実験の成果ぐらいなもんなんだそうだ。
それは流石に……勘弁願いたい。
「おしゃべりはそのくらいにして早速本題に入ろう。私たちの目的は合致していると見ていいのかな?」
「ああそのつもりだ。シャルテアの目的とそちらの目的が合致しているのであれば、の話だがな」
「そこは問題ないわ。私たちの国に被害が及ばないようにしたいだけ。慈善活動のように彼女を殺そうとはしないわ」
「彼女を殺そうとした時には躊躇なく敵と認識する。それだけは肝に銘じておいてくれ」
空気がシールの言葉によって張り詰めるが、その言葉自体に敵意がないことは明らかだった。
それでも空気が変わってしまったのは、その言葉にこれまでに感じることのなかった覚悟の重みが存在していたからだろう。
千年以上生きている彼女の言葉は10数年しか生きていない彼らにとっては重すぎる気もするが、そこはさすがの精鋭達だ。
怯むことなく、その言葉を真正面から受け止めていた。
「……いい目だ。良い関係を築いていこうじゃないか」
「ええ、あなたが何者かは説明されてないけれど、只者ではないのは感じるわ。繋がりを持っていて損はしないでしょうしね」
「ことの暁には人間の国と精霊界との貿易の仲立ちをしてもいいと思っているんだ。せいぜい頑張って働いてくれよ?」
「ッ!! え、ええ、私の命を賭しても失敗しないわ!!」
報酬の話が出た途端に睦月の目の色が変わったのには誰もが気がついていたが、それを咎めるものはいなかった。
それもそうだろう。断固として貿易をしてこなかった精霊界との貿易が成り立つかもしれないのだ。
簡単な口約束でしかないが、彼女の言葉の重みを知っていれば、嘘ではないと理解できる。
精霊界には魔力以外にも三大物質というものが存在していると言われている。
1つ目は妖力。この世界では妖力を扱うことも生み出すこともほぼ不可能に等しいと言われている。一部の特殊な種族が使えるそうだが、そのリスクも小さくはない。レチエールがいい例だろう。
2つ目は極魔金属だ。どんな形にも変形し、どんな衝撃にも耐えうると語られる金属。
その粒子が混ざりこんで出来上がったのが超合金と言われている。
手に入れれば世界征服もいとも容易く成し遂げられるだろう。
3つ目は天力だ。これはなんの情報もない。ただ、この星の外、宇宙空間を支配することも可能と言われているほどの無限の可能性を秘めた物質だ。
しかし、視認することが難しく、目に大量の魔力をつぎ込むことで視認できるかどうかというレベルらしい。
「欲に忠実で非常によろしいな。では、情報交換から始めよう。ムツキ、シャルテア、お前達が掴んでいる情報は何かあるか?」
「どの都市が支配されているかどうかくらいよ」
「支配されている都市がサラヘク、アルバーナ、カターリ、テーム、大都市がチョーゼ、ウォーロンだ。お前達がやってきた方向の6都市だな」
「ええ、それだけしか知らないわ」
俺達がここに来るために抜けてきたのはサラヘク、テーム、ウォーロンだ。支配されているだけあって警備は薄く、都市を通過するのは簡単だったが、どこも治安の悪化が激しく見受けられた。
早めに手を打たないと、奪還した時には既に手遅れ、なんてこともあるかもしれない。
「では次は私からの情報開示だ、サフク」
連れてきたもののシールが出てきてからはほとんど口を開いていない彼が地図を持ってくる。
その地図には赤と青20ほどのバツ印が付けられていた。
「赤が『永劫の教団』に協力している貴族家、青が奴らとも私達とも敵対している貴族家だ」
「赤が11、青が13ね」
「赤多すぎねぇか?」
「ああ、その通りだ。この国の現状は魔人達だけではない。この国の上級階級の人々にも大きな問題がある」
「さっき、慈善活動はしないって言ったはずよ」
「ああ、この国の問題の解決を頼むのはお門違いだと理解しているよ。でも、だからと言って放置したまま、なんてことにもしないでしょ?」
「睦月先輩方がどう考えているかは分かりませんが、私はパンドラのことよりもこの国のことを優先したい。先輩方が放置した時は別行動します!」
この中で意思を示したのはレチエールだった。
彼女は吸血鬼の国から脱出した時から一緒だった彼らが幸せな生活を送れるような環境が欲しいのだろう。
その土台である獣人の国がこれでは、不安要素が多すぎる。それを改善するまではこの国を動かないと彼女は言っているのだ。
「別に放置するって言ったわけじゃないんだけど、まぁいいわ。完璧に改善しようとは思ってない、ある程度、『永劫の教団』を壊滅させるくらいまでは手を貸しますが、その後のことには関与しません」
「かたじけない」と口にしたシールは睦月とレチエール達に頭を下げた。
睦月先輩にとって『永劫の教団』は自国に被害をもたらす外敵として認識されているのだろうか、パンドラはまだその域に達していないという。
その線引きがどこで切り替わるかわからない以上、シールにとって睦月先輩達は易々と気を許すことが出来ない相手のはずだが、謝罪の姿からはそんな事が微塵も感じられなかった。
読んでくださったってありがとうございました!!
感想等頂けると嬉しいです。
ブクマして下さった方ありがとうございました!!
これからもよろしくお願いします。




