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獣人の国 2ー1

「パールヴァティーの化身アバター、それはイアに向けて言ったのか」


 深緑と言える濃い緑の髪をまとめ、男性の瞳を虜にするであろうその胸の前に垂らしているパールヴァティーの化身アバター

 彼女が発した言葉に対してイアの返答は沈黙だった。そこで俺は痺れを切らして話に割り込んだのだ。


「ええ、もちろんよ。化身アバターを目の前にして姿を現さないあなたのことを心から尊敬するわ」


 化身アバターとは大きな力を持つ生物が自身の分身体として作り上げた擬似生命体とも言えるものだ。しかし、それは生物を媒体に作り上げれば、生命体としての化身アバターが出来上がる。

 彼女の容姿からしても自身の眷属であった精霊族を媒体にしたのではないだろうか。


 そんな彼女の皮肉たっぷりの言葉に対するイアの反応は……。


「あなたには会わない」


 無情なまでの端的な一言だった。


 これにはパールヴァティーの化身アバターも青筋を浮き上がらせている。

 化身アバターと創造主の繋がりとは肉親よりも濃いものなのだ。化身アバターにとってその繋がりとは決して犯されることのない不可侵の領域を作り出すものと言っていい。

 創造主が死んでしまえば大概の化身アバターも死んでしまうのだから。


「あなたに聞いてないの。私の主を出しなさいッ!」

「ムリ。そんなことをしている状況じゃない」

「〜〜ッ!? なんかムカつくわ、あなた!」

「知らない。私はどうでもいいし」


 あっ、これあれだ。話が噛み合っちゃってるパターンだ。

 イアはどこか上の空だし化身アバター化身アバターで頭に血が上ってそのことに気づいていない。


 それはともかく、イアはイアでなんで上の空なんだろう。


「2人ともちょっと待て! イア、お前はパールヴァティーを知っているのか!?」

「うん。思わせぶりなことを言っといて期待を裏切るダメ神」

「お、おう」


 俺の中でもその印象はあるから間違ってないんだけど……化身アバターの目の前だぞ?

 ほら、肩がプルプルしてるじゃないか! 怒られても知らないからな!?


「ふっ、……あははははっは!!!! 面白いやつだな! 私の目の前でそれだけ主を侮辱できるとは!」


 言わんこっちゃない!! 怒られるぞー!


「だが、それは許してやろう。主を出してくれたらな」

「出せない。そもそも許してもらわなくていい」


 目の前のゴタゴタで少し冷静になれていないなー。

 ここで最大の疑問を提示しよう。


「なんでイアはパールヴァティーを知ってるんだ?」

「ここにいるから。今、絶賛共同生活中?」

「パールヴァティー、迷惑だから帰ってくれ」


 率直に行こう。


「なんで? だって」

「イアの邪魔だろ?」

「んー、そうでもないけどそうかも」

『イアちゃん!? そこは邪魔じゃないって言ってよ!』

「「「あっ、喋った」」」

『あっ……』

「意図して黙ってたな?」

『……』

「いや、今更黙り込んでも意味無いから」

『うぐっ』


 一番初めに溜息を吐いたのはイアだった。それに続くように2つの溜息が吐き出されたのは言うまでもないことだろう。


 ◇◇


「説明してもらうぞ、主」

「説明しろ」

「だってさ」

『む〜、イアちゃんが嘘下手くそだからー!』

「知らないわ」


 念話で話しているのは間違いなくパールヴァティーだった。彼女によると念話と言えるほどの代物ではなくて、範囲内にいる生命体に丸聞こえなんだそうだ。

 それがどうしたと言いたいのは我慢しておこう。


『はぁ、分かったよ。私は君たちの知っている通りのパールヴァティー本人さ。変遷の時に死ぬはずだったし、その為に色々準備もしたんだけど、運良く生き残っちゃったんだよ』


 変遷、ここでもまた変遷という単語が出てくる。何だったんだ変遷とは、何を理由に神々が死ななくてはならなかったんだ?


 それにーー誰がそれを引き起こしたんだ?


「変遷ってなんなんだ?」

『……そうだな〜。ここからは神の禁忌の領域に片足を突っ込んじゃうから話せないかな』

「悪いけど、その禁忌を破ってくれ。俺はどうしても知りたいんだ」


 イアの瞳と俺の瞳が交差する。


『…………ただでは言えないな』

「どんな条件でも大概は受け入れる」

『……分かったよ。君がパンドラちゃんを救えた時にちゃんと話すよ』

「約束だぞ」

『うん。神、パールヴァティーの名に誓って』


 はぁ、こりゃ聞き出すのは苦労しそうだ。

 パンドラを救う。それは何から救えばいいのかもわからない現状ではどう行動すべきかもわからないからだ。


「なんか話まとめちゃってるけど私はまだだからね」

『ゲッ!? シールも何か?』


 ここで初めて名前が晒された。化身アバターの名前はシールだそうだ。


「ないわけないでしょ? あれだけ精霊界を振り回しておいて後始末はこっちに回ってくるし、よく分からない立ち位置になってるし。1から説明しなさい」


 そこから、ガールズトーク? はしばらく続いたが、全員の頭から1人の人物が消えていることに気づいた時、地下室を訪れる新たな複数の影があった。


「そう言えば、ラプラスは?」


 ◇◇


「ふーん。魔人って言ってもそんなに強くなかったはずなのにね〜。……こういうことがあるから嫌なんだよ」


 街の大通りのベンチから千里眼を使って王城の中を覗き見ていたラプラスは面倒くさそうに息を吐き出した。


 彼女の脳にはひとつの光景が映し出されていた。千里眼を通して見えていたのは一つの取引の光景。

 取引をしているのは服装から見るに王族級の女性と一人の魔人だ。女が魔人に金を渡し、仕事を依頼しているのだろう。

 取引相手の魔人も並々ならぬ力を持っているのが潜在眼で見ることが出来た。


 潜在眼とは千里眼と同列の魔眼である。能力は対象の力の大きさを色で捉えることができるというものだ。

 強ければ強いほど黒に近く、弱ければ弱いほど白に近く見える。

 しかし、消費魔力が馬鹿にならない為、そう易々とは使えない代物だ。


 取引相手の魔人は黒、雑な黒ではなく、純粋に真っ黒だった。


 なんの変装もしていない。つまり、その正体を認めた上で仕事を任せているのだ。


 何もそれ自体が悪いことではない。全ての魔人が悪だと決まっている訳でもないし、実際交友関係にあった魔人達もいた。


 しかし今の国の現状で仕事を頼むのはどうかと思う。

 誰だかは知らないが、現状魔人を王城内に入れるのは迂闊すぎるだろう。


 取引が終わったのか二人の距離が離れ、別々の方向へと歩き始めた。


(もう少し探っておいて損は無いか)


 ガールズトークに興味が無いわけではなかったが、それ以上にこの国のことを知りたかった。

 だから、途中で抜け出してきたのだ。ここで根城を探っておくのは当たり前だろう。


 そんなことを考えていた時、ーー視線が交差した。


『覗き見とはあまり褒められた趣味じゃないね』


 読唇術というやつだが、あの魔人が言った内容に間違いはないだろう。


 瞳を閉じる。


「ふー。めんどくさそうだなー」


 あの魔人とは再び相見えることになりそうだと、何度目かわからない溜息を吐き飛ばして腰を上げた。


 夕焼けを背に受け、大通りを進む彼女はめんどくさそうに肩を落としていた。

読んでくださったってありがとうございました!!

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