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失われた過去の世界 4

遅くなりました!

 その声は目の前の男から発せられたものでありながら、そうとは思えない何かがあった。


 《あー、ちょっと待ってね》


 夜空を感じさせる藍色の髪の毛は後ろでまとめられて風に揺られている。瞼は閉じられ、盲目と勘違いしてしまっても仕方がなかった。


 そんな男は自身の両手の平で顔の頬をぐりぐりとしている。まるで発表会の出番待ちの所にいる緊張した学生の仕草のようだ。


「あーあー、こちら冥王。ーーちゃんと聞こえているかな?」


 その水晶はまるで星空の中でも一際光り輝く一等星の様で、その視線は立ち上る炎の様な熱を感じさせる。


 そこには図りきれない程の怒りが、確かに込められていた。




 ◇◇




「……ここは……戻ってきた」


 冥王と名乗る男の眼光に従うように世界は暗転し、視界は再びこの薄暗い地下室の風景に戻っていた。


 しかし、あれで世界が滅びた、なんてことは無いのは知っている。

 寧ろ、()()()()()なのだ。彼の協力無しには選択を生み出すことも出来なかっただろう。

 まぁその選択の過去の追体験は出来なかったようだが。


「おかえり、私のことは思い出してくれたかな?」


 イアやフェーカスは解放されているようだ。

 何故かお茶を出してもらっている。


「さぁな。……本人じゃないんだろ?」

「そりゃね。あの時と違ってあの人も忙しいんだよ?」

「はっ、そりゃざまぁねぇな。……で、パールヴァティーの化身アバター、俺は俺に戻れるのか? 女の姿は中々精神的にしんどいんだが」

「君の努力次第さ、なんて偉そうに言える立場じゃないんだけどね」

「魔力切れか?」

「うん。冥王の姿を一瞬でも再現できたことを褒めて欲しいくらいだよ」


 あの世界で1番強いのが創造神、2番目が冥王と言われていた。天から創造神の化身アバターである太陽が見守り、地底から冥王の化身アバターである影が見守っている、なんて話は有名だった。


 そんな冥王を追体験だとしても再現するのは不可能に近い。それはあの追体験が特別なものなのだが……。


「今回は何がしたかったんだ?」

「うん……確かめたかったんだよ。君のことはもちろん信用している、けど……それだけじゃダメだったんだ」

「……何かがあるんだな」

「うん。君の記憶はすげ替えられている可能性が高い。出会ってすぐに信用できるような履歴じゃないのは分かってるでしょ?」

「話を先延ばしにするな、答えろ! 俺は選択をしたはずだ。俺を犠牲に世界を救うか、パンドラと師匠を見捨てて世界を救うかをッ!! そして俺は選択を誤った、そのせいで変遷が起きたんじゃないのか!?」

「落ち着きなさい。その選択の記憶は間違っていないようね。けど……アーリ君はどうなったか憶えてる?」


 アーリ君、師匠は確か……。


「殺された、創造神を名乗る悪神にッ!」

「あれっ!? そこの記憶も合ってるよ? 何を書き換えられたのさ」

「知らねぇよ!」

「ねぇ」

「「何?」」

「進まないから後にしてくれないかしら」

「「……ごめんなさい」」


 いわゆる内輪ネタというやつだったのだろうか、取り残されたイアから発される怒気は神の化身アバターを黙らせるだけの効力を持っていた。


「そうね、本題に入るわ」


 パールヴァティーの化身アバターは先程までのおちゃらけた表情を捨て去り、まっすぐ俺達を見つめた。


「まず、アルフォードでいいのかしら?」

「いや、シャルテアで頼む」

「分かった。シャルテア、私達はパンドラを保護、または再封印するために動いているわ。そこに賛同する気があるのかどうかを教えて?」

「……そうだな。俺はパンドラを死なせたくないから止める、一緒に居たいから助ける、楽しく過ごしたいから封印はさせない。ーー絶対に彼女を助け出すッ!!」


 記憶は正直完全とは言い難い。それでも彼女のことは鮮明に焼き付いている。

 薄い亜麻色の髪の毛は肩の位置に切りそろえられていた。その瞳は優しい彼女を表すように暖色系の茶色。

 彼女が魔王としての力を発揮する時は対象的な寒色系の青色に変わる。


 口角を釣り上げてはにかんだ笑顔。

 目を釣り上げて怒った顔。

 悔しそうに歯噛みする顔。

 ーーーー幸せそうに泣き崩れる顔。


 あの時代を生きた彼女、パンドラは何よりも生命を重く捉えていたような女の子だ。

 虐殺なんてキャラじゃない……昔のよしみで助けてあげないと可哀想だろ?


「悪くない答えね。君は……過去の選択を悔しがっているかもしれない。けれど、君の選択は間違っていなかった。私も、アキレスも、勿論君やパンドラも、あの冥王でさえ生きている。その上アーリ君まで救おうなんて傲慢が過ぎるよ」

「……そうかもしれない……けど、それは許容出来ない部分だろ? 何せ死んだらそこで終わり、何があってもそこで終わりなんだからさ」


 皮肉にも、自慢にも聞こえるかもしれない。確かに俺は死んでも次があるだろう。

 それだからといってこの物語じんせいを勝手に終わっていい訳じゃない。シャルテアとしての物語じんせいはそこで幕を閉じてしまうのだから、次なんて言ってられない。


「よし、じゃあ本来の目的に進もうか。けど、他にもお客さんが来るんでしょ? 揃うまではお茶でも飲みながらガールズトークをしようか」


 ほんの僅かなスキマ時間。ちゃぶ台を囲むパールヴァティーの化身アバターとイアと私。

 神と吸血鬼と人間が一つの机を囲んで談笑するなんてことはあの、神代の時代では考えられなかった。


 吸血鬼は人を食い、人は神に救済を求め、神は人間の為に吸血鬼を狩ろうとする。

 こんな三角関係にあった3種族が一つの机の上で、ましてやガールズトークをすることなど誰も想像すらできなかっただろう。


「さぁ、少し昔話をしようか……本体さん?」


 パールヴァティーの化身アバターは怪しく瞳を光らせ見つめた、イアの方をまっすぐと。


読んでくださったってありがとうございました!!

感想等頂けると嬉しいです。

ブクマなども宜しければお願いします。


ブクマしてくださった方、ありがとうございました!

これからもよろしくお願いします。

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