失われた過去の世界 3
「は? 何言ってんだ? 冗談も程々にしてくれ」
「いや、思い出せない。俺はすべてを思い出した訳じゃないのか!?」
パンドラの死因、俺の死因、それまでの経緯。
ああ、そうか。
俺はまだ世界の終わり方を覚えていない。俺は確かに世界を滅ぼした、そうなるはずだった。
「すまねぇが、まだ使えそうにない。選択した俺はその力を失ってんだ。まさか力の情報も失ってるとは思ってなかったけどな」
「言ってる意味がわかんねぇが、とにかく【顕現】を使えねぇってことか?」
「ああそうだな。使えないし、知らない。だから俺に可能な方法でトドメを刺す!」
この巨神兵にも核があったはずだ。それを破壊すれば本体も破壊できるはずなのだが、結局ゴリ押しで破壊した覚えがある。
それに、他の世界に渡って鍛えた俺なら【顕現】を使わずともサポート性能としては数段上がっているはずだ。
「パンドラ! ゴーレムの腕にも腐蝕は効くはずだ! パールヴァティーはその進行を促進してくれ! アキレスは、とにかく殴れ!!」
「り、了解。てかアルフォードってば指揮なんて出来なかったのに、本格的に壊れてきたみたいね!」
「こらこらパンドラ、うちの弟子が差を広げられてることに焦ってるんだから何か言ってあげなさい」
「「うるせぇよ!!」」
確かに俺の戦い方はゴリ押しのパワータイプを目指していた。
まぁ師匠の戦い方に憧れて一騎当千、縦横無尽に戦場を駆け回る戦い方を目指したのだが、火力が足りなくて断念した。おかげでサポート性能は格段に上昇したのだが、今に思えばこの頃は黒歴史と言えなくもない時期だ。
悔しいがパンドラに反論出来ない。
アキレスはアキレスで師匠であるパールヴァティーに弄ばれているが、今思えば懐かしく、温かい光景だった。
この頃も大事な時間だが、その後の各世界での修行も決して無駄ではない。
それを証明するだけの敵と条件が揃っている。
「アキレス! お前の火力が頼りだ!」
(【威力累加魔法】を【超加速魔法】と【超剛力魔法】に付与、これを俺とアキレスに付与。【氷獄魔法】を展開、発動!!)
俺の身体は全盛期の時のものだ。本気の本気、すべての力を遠慮なく振るうことが出来る。
右手に天色の魔法陣を展開しながらパンドラを追い抜き、巨神兵に肉迫する。
岩壁にもたれかかって休憩中の師匠の顔色は未だ蒼白とも言えるほど健康的とは真逆の色を浮かび上がらせていた。
横目でそれを確認すると同時に移動速度をさらに加速する。地面から土製の槍が次々と飛び出してくるが俺の移動速度の方が上回っているため仮にも命中することはありえない。
アキレスとアイコンタクトを交わす。
性格的には馬が合わないやつだが、戦闘的な感性はほとんどマッチしていると言っても過言ではない。
巨神兵の腕は8本から5本へと数を減らしている。
破壊されては瞬時に回復するという、巨神兵という大層な名前に負けない性能だが、こちらとて神だ。
舐められちゃ困る。
その回復速度を上回るペースで腕を破壊しているため5本以上には増えていない。時間をかければこのまま押し切れるのかもしれないが、そこまで魔力が持つとは限らない。
寧ろ、巨神兵の核に内包された魔力は無尽蔵であると考えるべきだろうな。
「一気に減らすぞ!」
「おうッ!」
(【氷獄魔法】発動!!)
迫り来る巨大な拳に向かって右手の魔法陣を発動させる。腕の動きが一瞬だけ止まり、再び動き出したが、その延長線上にターゲットはいない。
世界的には一瞬だが、俺たちが圧倒的優位を勝ち取るには多すぎる時間だった。
しかしパンドラ達の魔法も停止してしまったので俺たちを追いかける腕の数は8本へと戻っていた。
俺とアキレスは別々の腕を駆け上り、腕からの攻撃を避けながら頭部まで進もうとしていた。
それを追撃してくる巨神兵の腕の速度は明らかに常軌を上回っていたが、各自それぞれがやるべきことを続けている以上ダメージを受けることは無かった。
着実に距離を詰め、弱点である核へと近づく。
核が1つとは限らないのだが、複数個ある場合は連携の部分でタイムラグが生じてしまうというデメリットがある。
しかし巨神兵の連携に不自然なタイムラグは見られない。巨神兵の神速に迫る速度の連携はタイムラグがないと見ていいだろう。
まぁーー決して油断はしない!!
「アキレス! トドメは俺がやるッ! 詰めを頼んだ!」
「了解! しくじるなよ!」
核の形が丸とは限らない。確実に決めるためにも【空間把握魔法】を発動し、巨神兵の大まかな構成を把握する。
さすがは巨神兵、本体の魔力濃度が濃すぎて詳しい事は分からないが核の位置と大体の形は判明した。
「アキレス! 頭の部分と胸の中心だ! 俺が頭の方をやるッ!!」
「おうッ!」
明らかに今までとは違う魔力の質を感じた。ここまで接近したことで巨神兵の警戒レベルも上がったのだろう。
(このままじゃトドメを決める前に押し切られるな……)
パンドラの腐蝕で脆くなった部分がアキレスに攻撃される前に再生されている。
辛うじてパンドラの攻撃速度の方が巨神兵の再生速度を上回っているが……差は確実に縮まってきていた。
「行けるか師匠!?」
「仕方のねぇ弟子だな! 露払いは任せとけ!!」
師匠の力を借りるのは最終手段だが、仕方がない。大きな被害が出ていないのは幸運としか言いようがないのだから。
全方位から迫り来る土製の槍に、超質量かつ超速度の8つの拳、どれも一撃必殺の威力が込められている。
被害が出る前に倒すべきだ。
前回はアキレスとパンドラが大怪我を負った、ーー同じ過ちは繰り返さない!
(確か、あった!)
虚空に手を突っ込み、引き出したのはひと振りの剣だ。
一見何の変哲もない剣に見えるが、シンプルイズベスト、『無明の神剣』と名高いヘファイストス作の秘蔵剣だ。
「決めるぞ!」
(【特殊付与魔法】、【威力累加魔法】、【無炎魔法】、【超重力魔法】、【超爆裂魔法】を一斉展開、付与)
感情を捨て去り、冷静に、丁寧に一つずつ工程をこなして行く。正真正銘、今までの人生で最大の火力を漆黒の神剣に閉じ込める。
一切の光を刀身に宿らせない『無明の神剣』が今は魔法陣の筋を浮き上がらせていた。
「これでトドメだッ!!!!」
巨神兵の金属の腕を踏み台に核がある頭を眼前に捉える位置に飛び上がる。
アキレスの攻撃とタイミングを合わせるように、その剣を振り下ろした。
【超重力魔法】の効果で刀身が金属に飲み込まれていく。その感触を手で感じ、魔法陣をすべて解放した。
ドオォォォォォォォォォォォォオオオオン!!!!
轟音を警告に響かせ、渓谷の底に太陽の威光が降り注いだ。
こうして俺達と巨神兵の戦いの幕は終えた。
巨神兵が吹き飛んだ二次災害で渓谷の崩落が起きたが、すぐにパールヴァティーが対応する。
それも相まって土埃が一帯に起こっていた。
《ああ、やっと出られた。まぁ出られない方が僕的にも世界平和的にも良かったんだろうけど》
土埃が晴れた時、見知らぬ男がその場に居座っていた。
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