獣人の国 1ー2
約四十人。それだけの大人数での隠密行動は難しかった。
事実、何度包囲されたか数えるのも面倒になるほどの回数、魔人達に包囲されることになったが、襲撃は片手で数える程で済んだ。
大人数を先導するグループ、それを餌に敵を屠る遊撃隊。この二つに分かれることで襲撃される前に敵を潰すことが出来た。
それでも、予想以上に根が深く、何度か襲撃された。
獣人の国で起こっているのは単純に『永劫の教団』が国を襲撃しているのではない。魔人達が獣人に変化し、獣人達を誑かす。
それによって出来たクーデター部隊が国を襲っているのだ。
騎士の次に頼りになっていた冒険者達が敵に回ったことで、国の防衛力は組織の攻撃力を下回った。その結果が、王都の外堀から壊されていくという現状だ。
獣人の国は中央に王都、その周りに五つの都市があり、さらにその外側に七つの都市がある。すでにその内の六つが落とされ、避難民たちは全て王都に集まっている。
その結果、食糧不足が深刻な問題であり、このままでは勝手に放っておけば滅びるくらいに追い詰められていた。
そんな中、約三日かけて王都に入った俺達は壮大な光景に息を飲んでいた。
「なんて大きな木。魔王様の森の木よりも……五倍くらい大きいわ」
イアが言ったことは比喩でもなんでもないだろう。魔王城の夜の森の黒い木も中々の高さを誇っていたが、これは別格だ。
約二百メートル。高さから想像できる太さ以上の太さであり、その青々しく茂った葉が作り出している日陰は王都を広く覆いかぶさっていた。
「これが王樹ね……想像以上だわ」
「睦月先輩も見たことなかったんですか?」
「国の規制が厳しいのよ。出国するのにも結構な手間がかかるものなの」
人間の国はますます謎が深まるばかりだ。
経済的に頂点に君臨しておきながら、外交のルールは厳しいこと。
また、魔法が使えないことから劣等種と位置付けられているが、睦月先輩達を見ているとそんな感じは見受けられない。むしろ、異能の力の方が魔法よりも勝っていると言ってもおかしくはないだろう。
「で、サフク。どこに行けばいいんだ?」
サフクというのは領主館で出会った魔人だ。この国の状態に一番詳しいのは紛れもなくサフクだった。
その為、行動方針を決めるのはこっちで、それに合わせて案内してくれていた。
「王城がベストではありますが、警備隊の本部でも受け入れは可能だと思われます。王城の場合、手続きに時間がかかると思われますので警備隊本部をオススメします」
「お前ついてこれないよな」
「ヤハハ、そこは仕方が無いので人間にでも化けるとします」
サフクは男の魔人だ。道真は男と仲良くなるスキルでも持っているのかと疑うレベルで、すぐに仲良くなった。
他にも、男共が話で盛り上がっている所の中心には決まって道真の姿があったりする。
「思ったんだけどー。私たちって怪しくない?」
……確かに。
誰が魔人が化けているかわからない状態で、吸血鬼の国から逃亡中など、誰も信じてくれないだろう。
信じた上で出ていけと言われる可能性も高い。
これ以上の厄介事を抱え込もうとはしないはずだ。
「……確かにね、それなら私達も怪しいっちゃ怪しいんだけど。領空の許可も取ってるし、いきなり襲いかかられるとかはないかな」
「じゃあ俺達、人間組が責任をもって彼らを受け入れてもらってくるぜ! その間はサフクに案内でもしてもらってたらいいんじゃねぇか?」
この国の地形から建築物、何もかもの情報が枯渇している。この時間を使って案内をしてもらうのも悪くは無いだろう。
「そうします。彼らとは一度ここでお別れということで」
「お姉ちゃん達もう行っちゃうの!?」
一際甲高い声が集団の中から聞こえた。レチエールにベッタリだった小さな女の子だ。
「リィ、ここでお別れよ。別々の道を進むの……リィは故郷で幸せに過ごすの」
「レチエールさんは? レチエールさんも故郷に帰っちゃうの?」
「…………」
まだ、決心はついていないのだろう。俺たちの戦いは別に世界を救おうとか、そんな大層な感情が原動力になっているわけではない。
ただ、親を殺した奴らを全員ぶっ殺す。単純明快で、何の意味もない、ただの自己満足でしかなく、滑稽な復讐劇を完成させたいだけだ。
「……そうだね。リィ達みたいに苦しんでいる人を助けて、その後またここに来るよ」
「うん!! 約束だよ!」
彼らのように苦しんでいる人、それは吸血鬼の国の人達を指しているのだろうか?
彼らは知らぬ内に大事な人をその手にかけているかもしれない。大事な人を失っても笑顔を浮かべさせられているかもしれない。
結局はそういうことだ。
俺たちと共にあの王を殺す、それを終えたらこの国に戻ってくるということだろう。
「なら終わり次第向かうよ。どこで待ち合わせようか?」
「ワタクシとしては西の時計塔まで来ていただければ、部下に案内させます。彼らを信用するかどうかはお任せします」
「分かったよ、くれぐれも気をつけて。敵は魔人だけじゃない、獣人の中にも敵は潜んでいるからね」
こうして、大路地を別々の方向に進み始めた。
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