旅路の冒険 3ー3
「さぁ、着陸だ! 全員何かに捕まってろよ!」
ズシン!と大きな音を立てて着陸した。
運良く森が開けた場所があり、そこに着陸したのだが、かなり無理矢理だ。
「先に入国手続きを済ませないとダメだと思うわ」
「なんでですか?」
相変わらずメイド服姿のカラミア先輩だ。見慣れてきたおかげで、笑うのをなんとか抑えられるようになった。
「どこもかしこも魔人の襲撃で大打撃を受けたからね。用心するに越したことはないわ」
噂には聞いていたが、獣人の国も襲撃を受けていたのか。そんな中で難民の受け入れがスムーズに進みそうにないな。
「そんな状況で食料の補充なんて出来るんでしょうか?」
「さぁ? そこは知らないわ。それと、無賃乗船出来るとは思わない事ね。お嬢様は貴方が思っているよりも性格悪いわよ」
まぁ、働かざる者食うべからずとも言うしな。ある程度のタダ働きは必要だろう。
人間国に行って、既にパンドラは退治しましたよ? とかなってたらどうしよう……。
お付きのメイドから性格が悪いって言われる程なのか? お嬢様にとっては褒め言葉なのかもしれないが、気をつけておこう。
あの事も気がかりだしな。
「イア、フェーカス……ラプラス。道真や睦月先輩、カラミア先輩には、できるだけ借りを作らないで」
「この駄犬にそれを求めるのは酷よ」
「フェーカスは関わるな!」
「了解です!」
俺だけじゃなく、イア達が借りを作ってタダ働き。そんなことも大いにありうるのだ。フェーカスにおいては不安が尽きないが、これからは行動を共にすることも多くなるだろう。
レチエールが仲間になった場合、飛行船の借りは俺達にも関係のある事柄になってくるな。
まさか、睦月先輩はそこまで見越して勧誘を進めてきた? ……考えすぎだと思いたい。
◇
「くしゅんっ!」
「風邪ですかお嬢様?」
「もしかしたら誰かが私のことを噂してたのかも。まぁ、そんなことはいいのよ。道真」
ここにいるのは人間勢の三人だけ、他の人は既に飛行船の外に出ていったはずだ。
「ああ、分かってんよ。ラプラスって少女のことだろ?」
「その通り、能力開発の総帥の一人と名前が同じ彼女のことさ。ラプラス・アルカナディナ、国の創設者の一人って言われてるけど死んだことになってる」
「それがあの少女ってことか?」
そう簡単な話だといいんだけどな。多分、その推理は矛盾が出てくる。
彼女は生物学上、何に分類されるのか。ラプラス・アルカナディナは人間だ。魔法は使えないはず、ならばあれは人間じゃない、ならラプラス・アルカナディナではない。こんな感じに逆から考えるとどうしても矛盾が出てくる。
「それが、分からない。睦月財閥の情報倉庫を探しても総帥と彼女のつながりが見つからない」
「総帥ってラプラスじゃねぇほうのだな。顔も知んねぇけど、鳴海総帥とラプラス総帥が国の設立者なんだろ?」
そう、人間国は二人の女性によって建国されたと言われている。ラプラス・アルカナディナではない、既に千年以上総帥を務めている彼女だ。
人間族に分類されるが、人間ではない。
鳴海キアラ、彼女の武勇伝は書物上にしか残っていない。私たちが生み出された百年前、その時にパタリと消息を絶った。
皇玉宮と言われる謎の建造物の中に住んでいると言われているものの、都市伝説並の信憑性しかない。
それでも彼女は確実に存在している。それに異論を唱えるものもいない。
四方は海、五つの街が入るのがやっとという規模の島で過ごす、神に見捨てられた種族が今も滅んでいない。それが何よりの理由になるのだ。
島と周囲の海域を覆う結界が彼女が生きている唯一の証なのだ。
「そうだよ。実質国を経営しているのは五大財閥なんだけどね。それよりも、彼女の魔法には確実に向こう側の技術が取り入れられている。しかも、破壊兵器として利用されていた理論のはずなのよ」
「カガクか……。あ〜もう! この話は後だ! とりあえず腹が減って耐えらんねぇ!」
そう言って盛大にグ〜とお腹を鳴らした道真は船を降りていった。
呆れてため息をついた私はカラミアに命令を下す。
「気をつけるのはラプラスだけじゃない。レチエールも鳴海家の血を引いている可能性があるわ。シャルテアちゃんは正体不明としか判断のしょうがないし……」
「イアという少女も、並ではない、それこそ真祖レベルの魔力を所持しています」
なんでそんな化け物みたいな奴らばっかり集まってんのよ、と文句も言いたくなるがそんな事を嘆いている暇は無かった。
獣人の国、この国には魔人達が潜んだままだという報告もある。気をつけねばと気を引き締め、私も道真に続いて船を降りた。
◇
「はい、どうぞお通りください。難民、孤児の方の受け入れは領主に申請しなければいけません。申請は領主館で行えますので、そちらに向かうことをオススメします」
「ありがとうございます」
後ろを見ると涙を流しているものも少なくはない。
この門をくぐり抜ければ、待ち望んだ故郷なのだから。
「ありがとうレチエールさん!」
「どういたしまして、リィ。無事にここまで来られて本当に良かったわ」
門をくぐるとそこには賑わった都市が……無かった。
修復作業に追われる人々の姿、その表情は奴隷だった頃を思い出させるものだった。
「な、なんでこんなにボロボロなの!?」
彼らの前には傷ついた故郷が広がっていた。
建物は倒壊し、道はひび割れている。倒壊した家の瓦礫には血がついているものもあった。
とりあえず、領主館に行こうとなり、領主館に向かって歩き始めた。
彼らの旅は終わらない。不穏な影が領主館を覆っていた。
読んでくださってありがとうございます!
50話に到達しました、皆さんの応援に何度も励まされ、ここまで続けられましたm(__)m
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