魔王城の双子姫 3ー3
「なっ、なんでだよ」
目の前には焼け落ちた廃墟があった。そこは確かに王都だった街だ。
以前のような活気はなく、王城周辺の建物はまだマシなもののそれ以外の建物はほとんどが倒壊していた。
魔力を探知すると城の広場に集められているのが分かった。とにかく事情を知るためにもおれは広場に向かって再び走り出した。
「ここに集まって貰ったのは他でもない……この惨状を解決するためだ」
演説台の上には第一王子が上がっていた。丁度今始まったようだ。
「この国は魔人達による攻撃で壊滅状態にまで追いやられた。それはこの街以外の街も例外ではない。この前の謎の集団死亡事件も魔人達の仕業だ。あれによって既にいくつかの街が壊滅状態に陥っていた」
確かにそんな噂も流れていたが真実だったのか。そう言えば、第一王子はどっか他の国に出向いていたはず……速度の出る移動手段がこの世界にはあるのか?
これまでの世界は極端に魔法に頼っている面が大きかった。特に移動面では魔法の応用次第でどうにでもできていたので誰も発展させようとも思わなかった。
偶に変わり者が発明品と称して奇妙な乗り物を開発していたが、それでも魔法を利用しないと動かないものがほとんどだった。
「そこで、国民に聞きたい。俺達が今出来ることはなんなのか、そして今は亡き前王は何を望んでいるのか!」
「な、なんだっ、て!? お、王が亡くなった??」
そんな!? 俺はあそこまで手を焼いてくれた親を失くしたのか? 俺はその時、ただただ寝ていたのか?
「なんだ貴様、この国の国民か?」
「す、すいません」
俺の一言は大きかったらしく注目を集めていた。俺は肩を落としてその広場を去った。
近くにベンチがあったのでそこに座った。
空を見上げる。人間は涙が流れそうになる時、無意識に空を見上げ涙を見せないようにしている気がする。
なぜこうなったのか……なぜ俺はあの男のお使いという言葉で、真っ先にこの国のことを思いつかなかったのか!
心の底で黒い何かが燻っているのを感じる。これはあの時の状態に似ている。これに身を委ねれば、この悔しさや憎悪を糧に全てを破壊し尽くすだろう。
しかし、父を殺した犯人を殺すのはこの手でやりたい。やつに任せたくはない。
「シャルテアちゃん! 戻ってきたんだね」
「カルナムート先輩、この国に何があったんですか? なぜ国王は亡くなったんですか?」
「そこからは僕が話すよ、君達は四つ子達のところに戻っていてくれ」
「分かった。また後でね」
とぼとぼと去っていく先輩達の背中はものすごく小さなものに思えた。
「シャーちゃん、すまない。この国を、国王を守ることができなかった。国王は君の父親だろう?」
「ええ、そうです……。何があったんですか? この国の騎士団達は何をしていたんですか!」
「第一王子の凱旋。それと同時に襲撃は行われた。騎士団達は隣の街まで第一王子を迎えに行っていたんだ」
「執事達は!? 彼らなら国王を守り切ることは容易いはずだ!」
「そうだね……彼らも死んでしまったよ。多勢に無勢、国王は最低限の護衛を残して殆どの戦力を国民の救援と王妃の脱出に当てたんだ」
父ならば、自分の命よりも母や国民の命を優先するだろう。あの人はなんだかんだ言ってとても優しい人だった。
「各個撃破、そうはならなかったんですか。そこまで魔人達は強かったんですか?」
「ああ、四つ子の彼女達がいなければ、被害はさらに広がっていただろうね。彼女達にはリミッターのようなものがあったんだ。それを解放してやっと、一対一で追い返すことが出来るレベルだった」
リミッターとやらを解放した彼女達の戦闘力はこの国の騎士団長にも劣らないだろう。それでやっと追い返せる程の魔人。
「敵は、敵はどのくらいいたんですか?」
エリスフィア先輩は右手を広げ示した。
「まさか……五十体ですか?」
「うん、彼女達が戦ったのはその中で最も強い分類に入るだろうけど。たった五十体の魔人にこの国は負けたんだ」
エリスフィア先輩の言っていることは間違ってはいない。相手が五十、こちらは何人だったのだろうか? 数ではこちらが大きく上回っていたはずだ。
そんな相手が同数もいれば、この世界が支配されてもおかしくはない。
しかし、問題はそこではない。
最低でも五十の魔人達が組織化されているということだ。単体での戦闘力が吸血鬼や竜と同等の彼らが協力して大規模殲滅魔法でも発明すれば、文字通りこの国は焼け野原となるだろう。
「『永劫の教団』、彼らはそう高らかに名乗っていたそうだ。次の任務はこの組織を潰すことになるだろうね」
「奴らが俺の父親を奪ったのですよね。彼の……最期を教えてください」
「最期は誰も見ていない。隣町に続く道の上に激しい戦闘のあとが見られた。王妃を逃がす為の殿を務めたのではと言われているよ」
吸血鬼の肉体は死後、灰となって消える。こうして推測を立てることしかできないのだ。
「そうですか。少し……一人にしてください。どこに行けばいいですか?」
「王城の中だよ。そこに国民がまとまって過ごすことになりそうだ」
それほどの非常時なのだろう。元の家の持ち主が生きているかどうかが怪しい。騎士など王城に務めていたものが多かったはずだ。
「分かりました」
まだ日は天井にまで到達していない。
俺が立ち上がった時、太陽は赤さが増し、半分が地平線に沈んでいた。
「とりあえず辞めるか、学生」
色々考えたものの大した案は浮かばなかった俺は王城へと向かって歩き出した。
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