貧民街の異端児1ー2
「バカモン! 貧民だからって試験受けられないなんてことはないんだぞ!」
王立第三学園の校長室で、受験者の一覧を手に校長が吠えていた。
「お言葉ですが、校長。貧民などがこの学校に足を踏み入れること自体が罪に等しいと私は考えます」
「言葉が過ぎるぞ、マスカリ先生」
横に立つ教師が横暴な発言をした同僚を咎めるが、当の本人は全く気にせず続ける。
「そもそも貧民風情が入学試験を突破できる訳がないのですから時間の無駄です」
「そんなことは無い! 人間との勢力が拮抗している今こそが戦力を蓄えられる貴重な時期だと分かっているのか!?」
「(チッ、試験官をするのはこっちだということをわかっていらっしゃるのかしら? 結局そう言って入学した貧民どもは伸びしろが全くなかったじゃない!)」
「言いたいことは後にしてくれ、時間だ。マスカリ教頭の処分は考えておく。その貧民の家には俺が謝罪しておく。質問は?」
そのまま試験官達は校長室を出て試験会場である訓練所へと向かって歩き出す。
「貧民の妨害って言っても完全じゃないんでしょ。マスカリ先生のやり方だと微妙に間に合うかどうかの所を突いてくるからな〜」
「それは褒め言葉として受け取っておきますよ、サーアナヤ先生。でも今回は残念だけれど確実ですよ。私も別に貧民街だけならいいんですよ、貧民街だけならね」
「……忌み子。経歴不明の年少期ですね」
「それです。もはやどんな服装でくるか想像もしたくない」
件の少年、出会うことはなく、もう終わった話として先生達の中では少しの噂になっていた。
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「試験を今から始めます。まず、この試験は点数順の上から五人を特待生、その下の四十人を特進生、五十人を普通生としてこの学園に迎え入れるつもりです。点数によっては人数の増減があることもあります」
俺が狙うのは特待生。これは入学料と授業料を免除、これからの必要費用を学園に肩代わりしてもらえる。
「今日は筆記の試験を、明日は実技の試験を行います。集合時間は今日と同じ午前十一時です。それでは各自試験会場へ進んでください。」
扉に名前と教室が書かれた映像掲示板が現れた。これは【映像転写魔法】の典型的な使い方だ。
「名前は、あった! 」
シャルテアという名前とその横に一年A組という教室が書かれてある。名前を見つけるのは簡単だった。そもそも貧民に家名はない。その為、名前のところが異様に短い場所を見ればすぐに分かった。
他に家名がない人はあと一人だけいた。
「では、今から筆記試験を始めます。科目は魔法構築学と、生物生誕学です。始め!」
ペラペラと問題を裏返す音が一斉になる。まずは基本的な魔法の構築の仕組みだけだ。
この世界の十代の学力がどれほどのものかは分からないが特に難しい点はないな。
次の生物生誕学は、人間族からの派生理論? これは確か既に否定されていたはずだ。それに、吸血鬼の力の代償? こんなの無かったはず、あるならあんなに滅ぼすのに苦労はしなかった。
「そこまで! 次は魔法の実技試験、明日の十一時には集合しておいて下さい。遅刻者は無論、失格とさせていただきます。では今日は終了です、お疲れ様でした」
ふ〜やっと終わった。問題にしては時間が長すぎたような気もするな。基本的に低難易度の問題だったし、流石にこれで落ちることはないだろう。
「おい貧民! ゴミ屑風情がなんで試験を受けに来ている? 即刻辞退するべきだとは考えなかったのか?」
あ〜大体クラスにも何人かはいるだろうなーとは思っていたが、いきなりだな。
「試験を受ける資格については全国民平等、法律上全く問題ないと思うんだけど?」
「チッ! 法律上はそうだったとしても俺たちのような貴族と一緒の空気を吸って生きているのがおこがましいとは考えなかったのか?」
妙に理論的かつ、暴力的な奴だ。一応は教育を受けてきたのだろう。
全く、言葉遣いを気をつけるだけでも神経をすり減らすと言うのに。
この教室の受験者、試験官も止めようとしないどころか面白い見世物を見ているような目だ。
ーー嫌気がさす。
「すいませんがお名前を伺ってもよろしいですか?」
「ステークス家の三男チャーハ・ステークスだ!」
ステークス家と言えば中々の名家だったはずだ。アンナーサ・ステークス伯爵には二、三度お目にかかったことがある。
迷宮探索で功績を挙げたことで辺境伯にまで爵位を上げていたんだっけな?
「ステークス家のチャーハ様、私は私が試験を受けることが全く悪いとは思いませんし、その考えを改めることもないでしょう。貴方が受かれば同じ初等部、実力を示す機会も大いに溢れていることでしょう」
「貴様はもう受かった気でいるのか!? おめでたいヤツめ、貧民、女、加えて忌み子であるお前が合格するはずがないだろうが!」
「結果はまだ出ておりませんよ? 人を見た目と性別で判断するものでもありませんしね?」
めんどくさいからこの間に少し実験だ。今から魔力を少しだけ解放する、【魔力探知】を習得しているものや、魔力の動きに敏感な人は気づくはずだ……一瞬にして魔力量が三倍に跳ね上がったことに。
「ふん、精々吠えていればいい貧民」
あ〜こいつ気づかないのか。試験官は情報処理が遅すぎるな、後は普通に青ざめている人が数人と、おっ?
「貴方も下を見て行動するのではなく、貴方の父上アンナーサ・ステークス辺境伯を見習い、【魔力探知】を習得した方がいいですよ」
三男の坊ちゃんは舌打ちをひとつ残し教室を後にした。俺は言葉を言い終えると同時に魔力量を抑え、いつもの魔力量に戻した。
試験官は何も見なかった振りをして教室を出た。それに続き魔力量の変化に気づかなかった受験者と青ざめていた生徒も不気味なものを見る目でこっちを一瞥た後出ていった。
「俺はお前を貧民だとは見下さない。シャルテア、貴様は何者だ!」
「お初目にかかります第二王子ハーダック・ウィズマーク様。私はこの国の第二王子が聡明かつ強力な方だと確信することが出来ました」
「貴方も俺を第二王子だと呼ぶのだな……。第二王子は二人いた。そして俺は第三王子だ」
「シャルク・ウィズマーク王子、お亡くなりになられた方ですね」
この話題はまずいな。俺的にもお前的にも、いい結果は生み出さない。
「……もう時間だ。くれぐれも気をつけろ、この学園にお前の敵となる者は多い」
「ご忠告感謝します。第二王子は貴方だけ、幻影となった者に何か求めても先には進めませんよ」
「心に留めておこう」
こうして双子の弟、ハーダック・ウィズマークとの初めての対話が終わった。彼は一度もあったことが無かった兄の影に今でも何かを求めているのかもしれない。
読んでくださってありがとうございます!
ん〜会話文が長すぎますかね?
感想等宜しかったらお願いします。